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妖花街にて保育士をすることになりまして。  作者: 小花衣いろは
第十五章 兄と弟、妖と人
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第百十六話



 この試合では、基本的に武具等の取扱いは禁止となっているが、竹刀か木刀一本のみの使用を許可されているらしい。ステージ上を見れば、桜虎も対戦相手の男も、互いに木刀を一本ずつ手にしているようだ。


「それでは、試合を始めます。両者用意は良いですね。……始め!」


 審判役の一声で、先に動いたのは桜虎だった。白髪の男のもとに向かって真っ直ぐに突っ込んでいく。


「オレさまは強いんだ! オマエなんか一瞬でやっつけてやる!」


 白髪の男に比べて背が低い桜虎は、それを利用して男の足元を狙って木刀を振るう。しかし白髪の男は素早い動きで後ろに跳ねるようにして距離を取る。


「へぇ、中々やるね」


 面を付けているためその表情は見えないが、その声音から、何となくこの試合を楽しんでいるような雰囲気を感じる。


「っ、クッソ……何で当たらねーんだよ!」

「振り回してるだけじゃ、ボクは倒せないよ?」


 桜虎はひたすら木刀を振り回しているが、白髪の男はひょいひょいと軽々その攻撃を避けている。


「っ、そんなら……これでどうだ!」


 桜虎の木刀に、燃えるように真っ赤な炎の色をした火花が纏う。どうやら雷獣の力を駆使して闘うつもりらしい。この試合で武具の使用は認められていないが、自身が持つ妖術などを使うことは禁止されていないのだ。


 しかし、勝敗が決まるのはあっという間のことだった。


 桜虎の一撃を躱した白髪の男は、素早い身のこなしで桜虎の背後に回り込むと、目にも止まらぬ速さで木刀を振るったのだ。その一撃をもろに腹部に喰らった桜虎は、場外になるギリギリの位置まで吹っ飛ばされた。

 杏咲は堪らず駆け寄りそうになったが、火虎に手を掴まれ止められてしまった。杏咲は「行かせてほしい」と声を発しようとしたが、それはできなかった。

 ――火虎の方が、杏咲以上に、今にも駆け出したくて堪らないというような、苦しい表情をしていたから。


「クソッ……!」

「どうしますか? 桜虎選手、負けを認めますか?」


 審判役の妖が、うつ伏せで倒れている桜虎に確認する。


「っ、オレは……オレさまは、負けねぇ‼」


 桜虎が叫んだ。次の瞬間――ステージ上にバチバチと音を立てて、大きな落雷のようなものが降り注いでくる。


「ヒィッ、何だあれ……!」

「落雷か!?」


 観客席から悲鳴が上がる。


「桜虎の奴、封じのイヤリングを外したな……」


 火虎が苦々しい声で呟いた。

 ――どうやら、桜虎が耳元の封じのイヤリングを外した為に、力が暴発して落雷が降り注いでいるようだ。

 ステージ上にいる桜虎を見れば、本人も戸惑っていることがその表情から伝わってくる。

 手を上空にかざして力を制御しようとしているが、その威力は増していくばかりで、とうとう天井の一部が崩れ落ちてきた。


「っ、桜虎くん!」


 気づけば杏咲は駆け出していた。ステージ上に飛び乗ると、咄嗟の判断で桜虎の背中をステージ上から押しだす。


「な、何で杏咲がっ……」


 ガッシャーンッッ‼‼


 ステージ真上の天井の一部が、崩壊した。

 会場内は一瞬静まり返ったが、いち早く我に返った桜虎と火虎が同時に動き出す。


「「っ、杏咲‼」」


 火虎と桜虎の切羽詰まった声が重なり、響き渡る。

 二人は砂埃が舞う瓦礫の山に目を凝らすが、杏咲の身体は瓦礫の下に完全に埋まってしまったようで、その姿を確認することはできない。


「っ、ど、どうしよ兄ちゃん……オレのせいで、杏咲が……!」


 蒼ざめ絶望した表情になった桜虎は、その場に崩れ落ちた。目尻から涙が零れ落ちていく。

 火虎も言葉を紡ぐことさえ出来ず、呆然としたままその場に立ち尽くしていれば――瓦礫の山の一か所が、音を立てて崩れた。



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