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第九十九話



「この前にも伝えたけど、明日から実習の先生がくるからね。皆、仲良くするように!」


 わいわいと賑やかな夕食の最中、透の言葉に真っ先に反応したのは吾妻だった。


「なぁなぁ、それってどんな人がくるん?」

「杏咲先生と同じ、女の先生だよ。伊夜さんが言うには、凄く優秀……とっても頭がいい妖のひとらしいね」

「え、来られるのって妖の方なんですか?」


 次に反応を示したのは杏咲だった。杏咲や透と同じように、実習生は妖でなく人なのだろうと思い込んでいたからだ。


「うん、そうなんだよ。でも伊夜さんの知り合いからの紹介もあったらしいから、あんまり心配はしてないんだけどね」

「伊夜さんの知り合いの方から……確かに、それなら安心ですね」


 伊夜彦は此処“夢見草”の店主であり、離れで子どもたちを預かっている責任者でもある。実際に世話をしているのは杏咲と透の二人で、伊夜彦は基本的には本殿にある店の方に身を置いているのだが、それでも時間を見つけては顔を出しにきてくれる。子どもたちを大切に思っていることは、此処に居る皆が知っていることだ。


「それに、伊夜さんが人を見る目があるってことは、杏咲先生で証明されてるからね」

「……そうなんですか?」

「そうだよ。だって伊夜さんに連れられてやってきた杏咲先生も、今ではこんなに馴染んで、子どもたちにも懐かれてるわけだしね」


 透は杏咲と子どもたち全員に目を配りながら、ニコリと微笑む。


「本当に、杏咲先生がきてくれて助かってるんだよ」

「……ありがとうございます」


 透からの真っ直ぐな褒め言葉に、杏咲は照れながらも頬を緩めてお礼を言う。


「あんな、オレ、杏咲ちゃんだいすきやで!」


 杏咲の右隣で二人の会話をニコニコしながら聞いていた吾妻が、杏咲に抱き着いた。


「あ、吾妻ばっかりずるい! おれだって杏咲のことすきだよ!」


 それを目にして、左隣に座っていた十愛も手にしていたご飯茶碗を置き、杏咲の腕にぎゅっとしがみつく。


「こら、まだご飯中だよ」


 透に窘められた吾妻と十愛は渋々杏咲から手を離しながらも、その身体はピタリとくっつけたまま、むぅっと頬を膨らませて睨み合っている。

 睨み合いといっても、十秒もすればお互いに忘れて笑い合っているような――子ども特有の、可愛いらしい意地の張り合いのようなものではあるけれど。

 そんな二人を見て透はやれやれと肩をすくめているが、そのまなざしは温かさで満ちている。


 ――可愛い子どもたちに、透先生や伊夜さん、店の皆……優しくて頼もしいたくさんの人たちに囲まれて、こんな温かな場所で働けて、私は本当に幸せ者だな。


 杏咲は微笑みながら、出会った当初――五か月前に比べればずいぶん背丈も伸びたと感じる、吾妻と十愛のまぁるい頭をそっと撫でた。


「実習生の先生も一か月間は住み込みで過ごしてもらうことになるから、よろしくね。杏咲先生も、色々教えてあげて」

「はい、分かりました」


 杏咲はまだ見ぬ実習生の姿を想像して、どんな(ひと)なんだろう、仲良くなれたらいいなぁと、期待に胸を膨らませる。


 ――その実習生によって、まさか退職の危機に迫られることになるなんて……この時の杏咲は想像もしていなかったのだ。



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