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妖花街にて保育士をすることになりまして。  作者: 小花衣いろは
第十三章 離れて、近づいて、もっと近づく。
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第九十八話



「杏咲ちゃん、何してるん?」

「……おべんきょう?」


 杏咲が私室で文机に向かっていれば、吾妻と湯希が訪ねてきた。


「今ね、手紙を書いてたんだよ」

「てがみ? 杏咲ちゃん、だれにお手紙かくん?」


 吾妻は興味深そうに杏咲の手元を見つめる。


「これはね……大好きな人に、書いてるんだよ」

「だいすきな人?」


 優しく笑う杏咲を見た吾妻と湯希は、顔を見合わせてにっこり笑う。


「杏咲ちゃんからお手紙もろうた人、すっごくうれしいやろな!」

「……ん。先生のお手紙……はやくとどくといいね」

「……うん。二人共、ありがとう」


 ちょうど書き終えた手紙を丁寧に二つ折りして封筒に入れた杏咲は、二人の頭を順に撫でながら用件を尋ねる。


「吾妻くんと湯希くんは、何か用事があったのかな?」


 杏咲に問われて、何をしにきたのかを思い出したらしい。吾妻は「あ、せや!」と嬉々とした声を上げる。


「伊夜さんがな、おまんじゅう買うてきてくれたんや! それでな、透がみんなで食べようやって!」

「……先生も、早く行こ」


 吾妻と湯希にそれぞれ手をとられて、杏咲はその場から腰を上げる。


「そうだね。行こっか」

「おまんじゅう、どんなやつなんやろ?」

「……さっき十愛が、白いあんこのやつだって、言ってた」

「白餡のお饅頭なの? ふふ、美味しそうだねぇ」


 三人で大広間に向かえば、そこには伊夜彦と透と他の子どもたち全員がすでに集まっていた。


「お、やっときたな」

「おっせぇよ! はやく食べようぜ!」

「……はぁ、饅頭は逃げないから」

「はい、杏咲はおれのとなりね!」


 火虎と桜虎の視線は饅頭に釘付けで、そんな兄弟二人を見た玲乙は呆れた表情だ。十愛は杏咲の手を引いて自身の隣の席に誘導する。


「ならこっち側はおれや! ……って、湯希!? いつの間にすわってたん!?」

「……ざんねん。はやいものがち」


 杏咲の空いている隣に座ろうとした吾妻だったが、一歩遅かったらしい。先に座っている湯希を見て“ガーン”とショックを受けている。


「ふふっ。ほら、吾妻はこっちにおいで」

「はっはっ、杏咲は人気者だなぁ」


 そんな吾妻たちのやりとりを見て、透と伊夜彦は楽しそうに笑っている。


「ほら、影勝も早く座って」

「チッ、オレは別に……」

「影勝って、実は甘いもの、結構好きだよなぁ」


 離れた場所に座っていた影勝は、柚留に腕を引かれて渋々端の方の席に腰を下ろした。ニヤニヤとした顔の火虎が漏らした一言に、ギンッと鋭い眼差しを向けている。――どうやら図星だったらしい。


「あ、夕飯前だから、お饅頭は一人一個までだからね。……よし、それじゃあ皆揃ったし、早速食べよっか」

「……はい!」


 透と目が合った杏咲は笑顔で頷いた。透の号令で、皆で手を合わせる。


「それじゃあ、手を合わせて……」

「「いただきま~す!」」


 子どもたちの元気いっぱいな声が、夢見草の離れに響き渡った。





 ――――


 おばあちゃんへ


 お元気ですか?


 私は優しくて頼りになる先生方や可愛い子どもたちに囲まれて、毎日楽しく過ごしています。


 保育のことで日々悩むことだってたくさんあるけど、自分なりにまっすぐ子どもたちと向き合って――これからも子どもたちの成長を見守っていけたらいいなって思ってるんだ。


 少しずつでも、子どもたちと一緒に成長していけるように……私も頑張るから。


 見守っていてくれたら嬉しいです。


 おばあちゃん、大好きだよ。


 杏咲より


 ――――



これにて第二部が終了になります。

三部からは物語が大きく動き出します。


じわじわ恋愛色も強くなっていきますが、まだ子どもたちとのほのぼのやりとりは続きますので、引き続きお付き合いいただけたら嬉しいです。


六話ほどの番外編を挟みまして、次章は“実習生がやってきた!”編からのスタートになります。

ということで、別サイトにて掲載していた第三部の表紙をおまけにのせておきますのでどうぞ↓





「私と勝負しませんか? もし私が勝ったら……杏咲先生のその座、私に譲ってください」


実習生の登場で――杏咲、まさかの退職のピンチ!?



「あ? 別に……コイツの作った飯の方が、まだマシってだけだ」


「先生、どこかに行っちゃうの……?」


「そ、それならぼくも、守ってもらわなくても大丈夫なくらい、強くなります!」


「兄ちゃんは……オレとはちげーんだよ」


「オレはどっちかっつーと妖寄りだからなぁ。……だからあいつらみたいに、理解して(分かって)やれねーのかもしれないな」


「ずっと、一緒だよね?」


「オレのこと、嫌いになってしもたん……?」


「貴女さえ、貴女さえ現れなければ……」


「……っ、全部、思い出した。あいつが僕を……!」


「……伊夜のやつは、薄情じゃのう」



急展開に、波乱の連続。


ドキドキハラハラ最高潮。ちょっぴり切なくて優しい日常が、はじまります。



――離れていても、大丈夫。きっと、またすぐに会えるよね。



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