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つれない鉄橋はカワイイ。  作者: サムライドラゴン
1/1

鉄橋美湖はカワイイ。


 俺の名は"天田(あまた)千翔(せんと)"。

 恋した女にめっぽう弱い、普通の高校生だ。


 そんな俺は、ある女の子に恋をしているのだ。


「おはよう、鉄橋(てつはし)!」


 席替えで隣の席になった"鉄橋(てつはし)美湖(みこ)"。

 彼女こそが俺が「運命」を感じた子だ。


「・・・。」


 俺の挨拶をスルーして、鉄橋は本を読むことに集中している。

 題名は・・・、ブックカバーで隠されているから分からない。

 でも、彼女が読むモノはきっと面白いに決まっているだろう。


 俺はとりあえず自分の席に座り、カバンを机の横に置く。

 次に机の上で左腕の(ひじ)をつき、自分から見て右側にいる鉄橋の顔を眺めるのだった。



 鉄橋の横顔を眺めるのは、全く飽きない。

 彼女の左耳に、彼女のやや短めの黒髪の先がかかっている。

 とてもセクシーに感じた。


「・・・なに?」


 鉄橋が俺に気付く。

 やや目つきが悪い表情で俺を見る。


「いや、なんでもない。」


 俺は微笑(ほほえ)みながら誤魔化すように言う。

 ただ、鉄橋には気付かれているだろう。


 なぜかと言うと、俺が鉄橋に惚れていることを鉄橋本人が知っているからだ。

 だから横から眺めていたことも彼女は知っているだろう。



 鉄橋は特になにも言わず、視線を俺から本へと戻す。

 相変わらずのクールさである。




 鉄橋はクールで物静かだ。

 一見近寄りがたい性格に見えるが、そうでもない。


「おはよう、美湖ちゃん。」


 同じクラスの"喜志田(きしだ)侑子(ゆうこ)"ちゃんだ。

 大人しくて誰にでも優しい女子である。


 そんな彼女は鉄橋の友人でもある。


「おはよう、侑子。」


 鉄橋は友達である喜志田には心を開いている。

 事実俺とは違って明るい表情を見せている。


 クールな鉄橋も明るい鉄橋も可愛い。

 つまり鉄橋はカワイイ。

 「30-28=2」だということのように当たり前のことだ。


「なにニヤついてるんだ。」


 鉄橋が俺を見ていた。

 どうやら俺は無意識に笑っていたようだ。


「『鉄橋はカワイイな』って思っただけ。」


 俺は遠慮なく笑う。

 それに対し、鉄橋はため息を吐き、喜志田は苦笑(にがわら)いをしていた。






 数十分が経ち、授業が始まった。


 鉄橋は真剣に授業を受けている。

 シャープペンシルを使ってノートに文を書いている。


 真剣な鉄橋もカワイイ。

 「カレドニアガラスは黒い」ということのように当たり前のことだ。


「天田。」

「!?」


 先生に呼ばれた。

 とんでもなく凄い速さで先生の方に顔を向けた。

 メガネの奥にある瞳に光がなく、表情もまるでロボットのようだった。


「今言った問題、解いてみろ。」

「・・・」


 俺と先生は見合ったまま互いに身動きを止めた。

 周りもそれを静かに見守っている。


「・・・、・・・。」


 当然聞いてなかった俺は解けるはずもなく、ただ黙っているしかなかった。


 しばらくして先生が口を開く。


「答えを知りたければ、しっかりと話を聞くことだ。」

「す、すみません・・・。」


 先生はそう言って教壇の方へ歩いて行った。

 俺は思わず(うつむ)き、そんな俺を見て周りは笑っている。


「・・・。」


 鉄橋が肘をつきながら不機嫌そうな顔でこちらを(にら)んでいる。

 当然俺が見ていたことも分かっていたのだろう。


 さすがの俺も真面目に授業を受けることにした。






 迫り来る2時間目と3時間目の授業を乗り越え、そしてついに4時間目の授業も乗り越えた。

 そして昼食の時間となった。


「鉄橋、一緒に飯食おうぜ!」

「いや。」


 瞬殺だった。


 鉄橋は喜志田の席の近くへ行き、一緒にご飯を食べ始める。

 喜志田が俺に対してすまなそうな表情をしながら軽くお辞儀をしていた。



 俺は仕方なく一人で昼食を食べることにした。


「今回もダメだったようだな。」


 そんな俺のもとにクラスメイトで友人の"黒島(くろしま)憲次郎(けんじろう)(通称:クロケン)"がやってきた。

 角刈りとメガネが特徴の男子生徒だ。


 クロケンは近くの席の椅子を借りて俺の机の上に弁当を置いた。

 ちなみにコンビニ弁当だった。


(みゃく)は無さそうだぜ。 それでも彼女を狙うのか?」


 クロケンは弁当を包んでいるビニールを()がしながら言う。

 剥がし終わるとプラスチックの(ふた)を開く。

 すっかり冷めており、湯気は上がっていなかった。


「脈は作ればいいだけだ。」


 俺は腕を組みながらハッキリとそう言う。

 するとクロケンは「フーン。」と言いながら割り箸を割る。

 そして白いご飯を箸でつまむと、それを口へと運んだ。


 そんなクロケンを無視して俺は鉄橋を見る。


 遠くにある喜志田の席で、喜志田と他二人の女生徒と楽しそうに昼食を食べる鉄橋。

 俺に対して向けたことのない笑顔を見せている。

 口角が上がっているだけだが、長い間彼女を見てきた俺には分かる。

 満面の笑みではないが、あれが彼女なりの笑顔なんだ。


「鉄橋さん、ねえ・・・。」


 クロケンはご飯を食べながら鉄橋の方を見る。


「確かに可愛いけど、どこか暗い雰囲気を感じるから俺は好みじゃないなぁ・・・。」


 クロケンは堂々と俺の前でそう言う。

 そして再び白いご飯をつまみ、口へ運ぶ。


 その言葉に対して、俺は語る。


「それは、俺たちが明るい鉄橋を知らないだけさ。」


 普通ならここで怒るか、もしくは「わかってねえなぁ~。」と言うところであろう。

 しかしクロケンは良い奴だということを俺は理解している。


 前にクロケンは「黒い下着が好きだ。」と言ったことがある。

 それに対し、俺は「俺は白い下着の方が好きだ。」と言ったことがある。

 しかしクロケンはそれに対して「白い下着も良いよな。」と言ってくれた。


 相手の好みを否定せず、受け入れてくれた。

 だから俺もクロケンの好みを否定はしない。


 そしてなにより、クロケンはそういうことを隠さずにこうして正直に言ってくれるから、逆に俺は安心する。



 俺は現在進行形で鉄橋を眺めている。


 次々に弁当の中身を食べる鉄橋も可愛い。

 そして食べながら友達と話をする鉄橋も可愛い。

 つまり鉄橋はカワイイ。

 「コモドオオトカゲは爬虫類」だということのように当たり前のことだ。


「可愛いなぁ・・・。」

「早く飯食えよ。」


 クロケンが横から忠告してくる。

 俺は鉄橋を眺めながら弁当の中身を次々に食べていくのだった。


「おい、それバランだぞ。」


 クロケンが横から「ナニカ」言ってきている。

 だが、気にせず鉄橋を見ながら食事するのだった。






 昼食を終え、休み時間を満喫する。

 学校の窓から校庭を眺める俺とクロケン。

 目的はもちろん、校庭で遊ぶ女子たちの姿を見るためだ。


「やっぱ鉄橋が一番カワイイなぁ〜。」


 窓から校庭でボール遊びをしている鉄橋を見て一言。

 ボール遊びをする鉄橋もカワイイ。

 「人間には酸素が必要」だということのように当たり前のことだ。


「千翔が校庭を眺めているということは、『鉄橋が校庭にいる』ということだな。」


 後ろから三人の男と女たちがやってきた。

 全員別のクラスだが、俺の友人たちだ。


 女好きなナンパ男の"蒲ヶ原(かまがはら)獅子丸(ししまる)(通称:レオ)"。

 小柄でボーイッシュな"北條(ほうじょう)紫音(しおん)"。

 動物で例えるならゴリラの"姫神(ひめがみ)勝治(しょうじ)"。


 俺とクロケンとこの三人がグループとなって学校の一部で有名となっている。

 しかもいつの間にか勝手に「天田戦隊」という謎のグループ名まで作られていた。

 どうして俺の苗字が使われているかは不明。


「鉄橋も可愛いと思うけど、俺は他の子も可愛いと思うぞ!」


 レオはそう言って俺の場所を横取りし、外にいる女子たちを眺め始めた。

 さっきも言った通り、レオは女好きだ。

 今も校庭にいる女子たちを見てニヤニヤしている。


「まだ鉄橋を狙ってるのか?」


 紫音が上目遣いで俺を見上げている。

 俺の身長が高いのもあるが、彼女は鉄橋ほどではないが小柄なのである。

 「天田戦隊」の紅一点だが、性格は結構男勝りだ。


「おうよ、当然さ!」


 俺は自身の胸を叩きながら答える。

 俺が鉄橋のことを諦めるハズがない。

 少なくともなにもなければな。


 紫音は「フンッ」と鼻で笑う。

 どうやら俺の返答を分かってた上で質問したようだ。



 このように当然ながら友人たちにも俺の「鉄橋好き」は十分に伝わっている。

 そして皆、なんだかんだ俺のことを応援してくれているのだ。


「まあ、確かにああいうのを見たら思わず『可愛い』と思っちまうよな。」

「何だと!?」


 レオの言葉を聞いて、慌てて窓の外を見る俺。

 すると、その先では頭を押さえながらしゃがんでいる鉄橋がいた。

 どうやらボールをぶつけられそうになり、ビビっているようだ。


「・・・。」


 萌えた。

 鉄橋、可愛すぎるだろう・・・。


 ボールに怯えている鉄橋もカワイイ。

 「太陽が東から(のぼ)ってくる」ことのように当たり前のことだ。






 昼休みが終わり、五、六時間目の授業も終わる。

 そして帰宅時間となった。


「鉄橋、一緒に帰ろうぜ!」

「いや。」


 またもや瞬殺だった。

 鉄橋は俺を無視して喜志田とその他友人二人と共に帰り始める。

 喜志田はまた俺に対してすまなそうな表情をしながら軽くお辞儀をしていた。


「まあ、そう落ち込むな。 一緒に帰ろうぜ。」


 クロケンは慰めてくれた。

 だが、俺は決して落ち込んでいない。

 なぜなら、そんな鉄橋も可愛いと思うからだ。


 もし俺が彼女のハートを射止めたとしたら、こんな彼女を見ることは二度と無くなってしまうだろうからだ。

 つまり、今はこの状況を楽しむことが大事なのだ。

 決して負け惜しみではないからな。


 そう、つれない鉄橋はカワイイ。

 「俺が鉄橋に恋をしている」ということのように当たり前のことだ。



 今は俺のことなんかどうでもいいと思っているだろうが、いつか絶対振り向かせてみせる。

 そしていつか手を繋いだり、彼女の小さな体を抱きしめたい。

 待っててくれよ、鉄橋!

 俺は君が好きだ!!


 一人そんなことを脳裏で叫びながら、友と共に帰宅する俺だった・・・。






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