缶コーヒーは甘さ控えめ
第4回下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ大賞応募作品です。テーマは「缶コーヒー」。
珍しく笑いとか無い、ストレートな恋愛ものを書いてみました。
※しいな ここみ様の『砂糖菓子みたいなラヴ・ストーリー企画』に参加しています。
「これ微糖なのに甘いよな」
自販機を見つめ、佐藤が言う。
「え、微糖って甘くないって意味じゃないよ。糖類が少ない代わりに人工甘味料を入れてるの」
彼の白目が2割くらい大きくなった。わかりやすい奴。
「詐欺じゃん! 俺はどうしたらいいんだよ」
「知らないよ。甘さ控えめを買えば良くない?」
佐藤はボタンを押し缶コーヒーを買った。一口飲んで
「やっぱ甘い! ……お前にやる」
私の前に腕を突き出す。顔は反対を向いたまま。
「えぇ飲みかけ?」
「要らないなら捨てろよ」
「貰うけど」
私達は近くのベンチに座る。空気は冷たく乾き、私の指先だけでなく缶の中すら切り裂いているよう。早くしないとコーヒーの温度が下がってしまう。
急いでこくりと飲み、確かに甘さ控えめだと考えていた私に佐藤が突然言った。
「あのさ、皆で遊ぼうって言ってたじゃん。24日の昼に決まった」
「え、マジ」
「うん。行くだろ?」
私の心まで冷える。幹事の佐藤は日付を決められる立場だ。姑息な奴め!
私が彼の飲みかけに躊躇無く口をつけたから、次はやっと外堀を埋めようって?
「12/24は嫌」
「えっ」
私は佐藤の目を見た。
「目が赤いよ。寒い?」
「え、あっ……そう。寒い」
「じゃ移動しよっか」
「じゃなくて!」
「何?」
「加藤、イブに予定あるの?」
「何でそれを聞くの?」
佐藤の顔が赤くなった。本当にわかりやすい。
「私ね、遠回しなのは嫌。だって素直な気持ちを言いあえる方が良いと思わない?」
「えっ」
外堀なんて埋めても無駄。私は籠城をする程甘くない。正攻法で攻めないと逃げちゃうよ。
私は微笑むとコーヒーを飲む。
冷たい空気は私達の間で振動せずただ吹きすさんだ。
何分そうしていたか、漸く佐藤が口を開く。
「加藤がイブに予定があったら嫌だ」
「何で?」
「……俺が一緒に居たいから」
「私も一緒に居たい」
「!」
彼は遂に首まで赤くなり、また無言に。ああ、早く言いたい。でも甘くしてはダメ。
「加藤唯さん!」
「はい」
「好きです。俺とつきあって下さい!」
「はい!」
私は缶コーヒーをベンチに置き、冷えた指先を彼のコートの中に滑らせた。
「えへへ、やっと言ってくれたぁ」
「ちょ、え」
コートに潜り込むように佐藤の背中にぎゅっと手を回す。
「か、加藤キャラ違くない?」
「私、家族や本当に心を許した人にはこうなの。あ、甘いのは苦手だっけ?」
見あげると彼は真っ赤な顔を手で抑えていた。
「……凄く良いです」
ほらね。素直な方が良いでしょ。
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