in刑務所
第一話 「始まり」
side:フローリア
ドンドン!
「居るのは分かっている! 今すぐ出てこい『死刑囚』!」
「……え??」
扉が大きな音をたてると同時に、男が怒鳴るような大声を上げる。
扉の向こうにいる男が言っている事の意味はよく分からない。心当たりなんて当然無い。が、あまりの気迫に慄いた私は、言われるがまま扉を開いてしまった。
その一歩がきっと、私の運命を大きく変えることになったんだろう。
あ、自己紹介が遅れました。私の名前はフローリア・エリアス。現在、殺人の冤罪をかけられている真っ最中です。多分。
え? 何故そんなことに、ですか? ……私が聞きたいくらいです、そんなの。
穏やかな日常がこんなにも容易く、砂のようにさらさらと崩れていくだなんて。
……あぁ。それにしても本当、皮肉なくらいに。
「いい天気……」
__私は手首に拘束魔法をかけられ、裁判を受けた。私を呼び出しに来たあの男の言葉から、なんとなく察してはいたが。いざ正式に判決が下されると、本当に?何かの間違いじゃ?と、戸惑いを隠しきれない。しかし、最初から判決は決まっていたんだろう。きっと、これが覆ることは無かったのだ。
被告人 フローリア・エリアス 判決 『死刑』
判決が言い渡されてすぐ、私は看守に連れられて牢獄に行くこととなった。本当に心当たりは無いのに……。
「今日からここがお前の部屋だ。お前はバロック・フォーキンスを殺したその罪を、せいぜい必死に償っていくことだな」
そう吐き捨てると、看守は行ってしまった。その言葉の根底には、どこか強い怒りや恨みが込められているようだった。
……いや、本当は冤罪なんだけどなぁ。
side:シオン
ドンドン!
「居るのは分かっている! 今すぐ出てこい『死刑囚』!」
そう声を張り上げると、華奢で到底人を殺すとは思えないような娘が出てきた。ましてや、筋骨隆々のあの人を殺したとは。
俺はシオン・フォーキンス。ラメール村の警官兼ラメール刑務所の看守を担っている。この村は人口が少なく、兼業というのは、さして珍しいことでは無いのだ。
何故、警官兼看守である俺がこの娘の元に来たのか。それは、バロック・フォーキンス……俺の父が何者かに殺害された、という事件がきっかけだ。色々な人に聞き込み調査を行ったところ、容疑者となったのが彼女だった。というか、誰に聞いても「こいつが怪しい」との証言をしていた上、他の人物が犯行に及んだと思われる証拠もなく、彼女が犯人だという結論に至ったのだ。
「行くぞ!早く着いてこい!」
仕事に私情を持ち込んではいけないなんてことはわかっている。だが、疎遠だったとはいえ、父を殺された恨みは強かった。
__その後、彼女の手首に拘束魔法をかけ、裁判所で裁判を行った。判決は、もとより決まっていたのだが。彼女はそのまま投獄されることとなり、どうやら困惑している様子だ。
「今日からここがお前の部屋だ。お前はバロック・フォーキンスを殺したその罪を、せいぜい必死に償っていくことだな」
すると、彼女は何かを訴えたいかのように顔を顰める。自分は無罪だとでも言いたいのだろうが、俺に判決を覆す力なんて無い。何故囚人達は俺に言っても無意味だとわからないのだろう。いつもの事だと、俺は足早にその場を去った。
「すいません。あの死刑囚が俺の父を殺した理由、分かりましたか?」
休憩室に戻って同じ看守仲間のリコリスに聞いたが、
「いいや、分からなかったよ。それと、お前は親父さんとは疎遠だったんだろ?実の親を殺されたとはいえ、そこまであいつを憎く思うとは考えもしなかったな」
と、軽くあしらわれてしまった。
side:フローリア
なんだか、うっすらと私の話をしているらしい看守の人の声が聞こえた。近くに看守用の部屋があるのだろうか。
「すいません。あの死刑囚が俺の父を殺した理由、分かりましたか?」
いやだから、まず私は人殺しなんてやってないんですけどね。
「いいや、分からなかったよ。それと、お前は親父さんとは疎遠だったんだろ?実の親を殺されたとはいえ、そこまであいつを憎く思うとは考えもしなかったな」
……盗み聞きは良くなかったかもしれないが、理由が分からなかったと聞き、私は安堵した。
気付けば、辺りはもう真っ暗だ。今日は色々とありすぎて、既に私の眠気はピークに達していた。
……今日はもう遅いし、早く寝よう。
家のふかふかなベッドが恋しくなりながらも、私は部屋の隅のベッドに横たわり、眠りについた。
__翌日
「何をしている、もう起床時間だぞ!」
その声で目が覚めると同時に、昨日の看守さんの顔が目に入った。
「ほら、早く来い!」
相変わらず強い言い方をしてくる。今の私は死刑囚という扱いなのだから、当たり前といえばそうなのだろうけど。
「何ぼけっとしてるんだ。早く行くぞ!」
またも私は、言われるがままについて行く。
着いた先で行われたのは点呼だった。
内容としては、一人一人に割り振れられた囚人番号があるので、自分の囚人番号を呼ばれたら返事をする、というものだった。同じ服を着た沢山の囚人がズラーッと並んでいるピリピリした様子はまさに自分の想像する刑務所という感じで、思わず圧倒された。
点呼が終わった後、看守さんにこう言ってみた。
「冤罪です。私は人殺しなんてしていません。」
「根拠は?」
「した事が無いからです。」
「それは根拠になってないだろ。あと、証言した人はお前以外の名前を出してないぞ。」
そう言うと、看守さんはどこかに行ってしまった。予想通りというか、私の話を聞いてくれる気は無いらしい。
side:シオン
例の囚人は、起床時間になってもまだ寝ていた。
「何をしている、もう起床時間だぞ!」
そう言うと彼女は目を覚ました。
「ほら、早く来い!」
こいつが俺の父を……と思うと、また怒りがこみ上げてきた。
「何ぼけっとしてるんだ。早く行くぞ!」
怒りを鎮めるように今は仕事中だ、そっちに集中しなければ……と言い聞かせながら、彼女を点呼の場所に連れていった。
点呼が終わった後、彼女はこう言ってきた。
「冤罪です。私は人殺しなんてしていません。」
「根拠は?」
「した事が無いからです。」
「それは根拠になってないだろ。あと、証言した人はお前以外の名前を出してないぞ。」
そう返すと彼女は少し落ち込んでいるようだったが、彼女はもう死刑囚だ。その事実は変わらない。これが妥当な対応だろうと、俺は休憩室に戻った。
side:???
「いいか、我々は計画遂行の為に召集された。よって計画が終われば散り散りとなり、再び一般人として暮らす。良いな、イーグレット、アミリア。」
「「承知致しました。」」
「奴は始末しなければいけない、必ず始末しろ。未来視であのような光景を見るのはもう懲り懲りなんだ。とはいえ、全て奴が元凶だ。始末してしまえば問題はないさ。」
to becontinued.