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侯爵家に根付いた新しい朝の日課


「リーナは今朝も美しいな」


「なっ!」


 腕の中で真っ赤に頬を染めたリーナを確認し、アーネストは満足気に微笑んだ。



 アーネストとリーナが無事正規の寝室を使うようになったのは、あの朝に医者を帰した後のこと。

 もちろん、アーネストの指示によるところだ。


 夫妻いずれの気がいつ向いてもいいようにと、いつも部屋は整えられていた。そのため突然の指示にも侍女らは目立った混乱も……それは当然、混乱した。

 

 まずリーナが酷く抵抗し、侍女たちはそれに数の意見で加勢した。

 だが騎士団を率いた男、アーネストの鋼にも値する強い意志には、とても敵わなかったのだ。


 執事然としてこの不毛な争いへの参戦を拒否し、壁と同化していたのは執事長で、その彼も朝の仕事があるからと早々にその場から撤退している。

 揉めに揉めたあと、リーナが折れ……てはいない。アーネストに抱えられ運ばれていった。



 そんなアーネストの豹変振りに、まだリーナは慣れない。


「朝からお戯れが過ぎますわよ。お熱でもあるのではございませんこと?」


「何を。毎朝言っていることだろう」


「どこでどう学ばれてきたかは存じませんけれど。わたくしにそのような気遣いは不要ですわ!」


「リーナ以外には言ったことがないと、言っているだろう。誰からも習ったことはないし、まず他の女など口説く気にもなれないからな。それほどに俺はお前だけを慕っている」


「なっ!朝からなんですの!以前のようでよろしいですわ!お戻りになって!」


「それは出来ぬ相談だな。俺はもう無意味な後悔などしたくないんだ。あぁ、君はそのままでいいとも。けれどどうか、あの夜のことを夢にしないでおくれ」


「あの夜のことは、何も覚えていないと伝えましたわ!」


「それならば仕方ない。俺がよくよく覚えておくとしよう」


「嫌ですわ!あんな恥ずかしい……どうかお忘れになって!」


「覚えているではないか」


「そ、そんなことはありませんわよ!何もなかったのですもの!」


 リーナの性格を把握済みのアーネストに恐れるものはなくなった。

 戦場における伝令の正確さをよく知る彼は、妻に対してそれが疎かとなっていたことを学んだのだ。


 それと同時に、相手をよく知ることこそが、勝機に繋がることも想い出していた。

 リーナが何を喜び、何を嫌がるのか。何に照れるのか。リーナの本心はどこにあるか。


 別にアーネストはリーナに勝ちたいわけではなかったはずである……



 

 侯爵家の邸内では、朝の仕事を終えた侍女たちの廊下に立ち尽くす姿が散見されるようになった。


「だんなさま、どうか早く仕事をしてらして!」


 妻が涙目でそう言うまで、アーネストは決して部屋から出て来ない。

 このタイミングがベテランの侍女らにも読めなかったのだ。



 医者から始まる噂話を聞いて半信半疑だった領民たちが、仲良く並び立つ夫妻の姿を認めるまでには、もう少し。




最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

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