第78話 帝国皇帝との会談と皇帝の思惑
誤字報告いつもありがとうございます。
「さて、ショウは孤児だと聞いているが、両親の事は知っているのかね?」
「いいえ、聞いた話だと1歳くらいの時に孤児院の院長先生に拾われたと聞いてます」
「ふむ、そうか…」
「…………」
そして沈黙…
おいおい皇帝陛下様よ、一体何が言いたかったんだ? だってこれは国を代表してやってきた冒険者に対する挨拶じゃなかったっけ? なんで俺の育ちの事や両親の事が出てくるんだ? それともアレか? この皇帝陛下と俺が似ているってヒスイ皇女が言ったから気にしちゃったのか?
いやぁヒスイ皇女はそう言ったけど… 実際似てるか? とてもそうは見えないんだけどなぁ。
「あ、いや… これからダンジョンに入るというのに急におかしな事を言ってすまんな。それとギルドから報告は聞いたが、早速10階層まで進んだそうだな… これはやはり結界師の噂は確かだったという事であり、アズライト王国の国王が自信をもって送り出してくれるだけはあるという事だ。
ルビー王女まで参戦してくれるとの事だが、正直言うと心配であったのだ。他国の王女をダンジョンに入れてしまってよいものかどうか… しかしこの様子だと大丈夫のようだな」
えええええええ? ルビー王女が参戦だって? そんなの聞いてませんよ!
ぐるりと首を振りオニキスさんの方を見ると… 同じようにびっくりした顔になっている、俺と目が合ったが首を左右に振っている… つまりオニキスさんも聞いていないんですね?
今度は正面にいるルビー王女の方を見ると…
ぁあ? あからさまに俺から目を逸らしてる? 護衛の騎士も侍女の人も?
「この際間引きの手順や方法に関して我らエメラルド帝国は口を挟む事は無い、其方らが最適だと思う方法で進めていってくれ。しかし間引きの効率を考えるのならなるべく下層で狩った方が良いだろう、ショウ達精鋭は下層に向かい、ルビー王女は上層で間引くのが良い… と、意見だけは出させてくれ」
「はい、こちらも下層に向かうという事はすでに決めていますので。ルビー殿下に関しては… この後で話をし、調整したいと思います」
もうこれしか言えないでしょう?
「うむ、其方らの働きに期待する。無事に間引きが進み、スタンピードの兆候が消え去った時に改めて礼をしよう。我が皇城にも招きたいしな… では出発前に引き留めてしまったが、よろしく頼む!」
「はい、お任せください」
ふぅ~、なんだかすっごい緊張したけどようやく終わったかぁ。ああ、これからルビー王女と話をしないといけないのか… いやホント、気苦労が絶えませんって。
SIDE:ヒスイ皇女殿下
挨拶が終わり、ショウ達冒険者とルビー王女を筆頭にアズライト王国の者達も下がっていった。のだが…
「ちょっと父上? なんですかあの中途半端な聞き方は?」
「い、いや… うん、アレは間違いなく母親の面影があるもんでな、ちょっと懐かしく思ってしまったら言葉が出なくなったのだ」
「つまり… ショウは父上の血を引く者として間違いないと言う事ですね?」
「うむ、間違いないだろうな」
「分かりました。では此度の作戦が終了次第本人にこの事を伝え、帝国皇族に名を連ねるよう指示しますよ? もちろん今は我が国の存亡に係る作戦中… 余計な心労を与えないために言いませんが」
「まぁそうだな… しかし今更引き入れたとして、ショウが幸せになれるものかの」
「一体何を言っているんですか? 皇族に生まれたのならその血に誇りを持ち、わが帝国のために尽くすのが当然のことなのでは?」
「しかし、それこそ産まれた直後から皇族としての恩恵を何一つ受けられなかった者に、責任だけを負わせようというのか? 少なくとも我らにそれを言う資格があるとは思えんな。
だからまずは普通に勧誘から始めるのが妥当だろう、いきなり「お前は皇族だから、今後は帝国に従いその責務を果たせ」などと言っても反発されるだけであろう。お前はそう思わないか?」
「うぐっ… 確かに今更何をって思うかもしれません」
「現状の立場ではショウは平民だ、皇族の立場で物を言えば確かに我らの思う通りになるだろう。だがショウからの信頼を得る事は今後無くなると言っても過言ではない… これが帝国民であったならむしろそれで良かったのだが、現在はアズライト王国に住んでいて国王の覚えもめでたいとなればどうなるか、それくらい分かるだろう?」
「た、確かに王国にある訓練場の所長になってますから…」
ぐぅぅ、そうだった。ショウを手に入れるために多少強引でもって思っていたけど、ルビー王女を含む王家が後ろについているんだった。
しかしこれだけ父上に似ているんだから血筋であることは明白! それを盾にアズライト王国と交渉するしかないだろう。まともに引き抜こうとすれば… あれほどの攻撃力を誇る結界師を王国が手放すわけがないよね。
「まぁ落ち着くのだ。此度のダンジョン騒動が片付けば、我が国はアズライト王国に大きな借りが出来てしまうだろう。ましてルビー王女まで参戦したとなればな…
だがショウ個人を説得し、本人の意思で我が一族に名を連ねると言えばどうなる? いくら大恩があるとはいえアズライト王国も皇子を寄こせとは言えないだろう? まぁその場合は高確率でルビー王女を妻に… と言ってくるであろうがな。
つまりだ、ヒスイはこのままゲッキョウに残り、補給のために戻ってきたショウを労いつつ親睦を深めるのだ。お前は昔から弟が欲しいと言っていたから好都合なのではないか?」
「え? そ、それはまぁ… ショウは孤児でありながら素養もあるようですし、頭も良い。弟としてはちょっと可愛げが無いと思いますが、それでも悪くはないと思っています」
「うむ、ではお前に指令を出す。お前は姉としてショウと親睦を深めて家族の情を教えていくのだ。孤児として育った辛い思いを受け止めてやり、家族は共に過ごすものだとしっかり伝えて我が城に連れて帰って来い」
「は、はいっ! その指令、承りました。必ずや弟を連れて帰る事を誓いましょう」
ふふふ、個人的には少々やんちゃな弟が良かったけど、大人しそうに見えて芯のあるショウも悪くはないのよね。まぁ頭が良さそうだから、お兄様のようにインテリ臭くなっているかもしれないのが残念なのよ。
でも… やっぱり年下って良いわよね!




