第76話 帝国皇帝、ゲッキョウに立つ
誤字報告いつもありがとうございます。
二日目の休養日、緊張の連続だった数日間の疲れを癒すべく今日ものんびりとしている。
地上に戻ってきた日にそのままギルドに出向き、魔物の情報を公開しつつ魔石や素材の買取をしてもらったんだけど、ついでに難関であるゴッキーの対処方法について少しばかり話し合いをしたんだ。
どうやら俺の予想通りゴッキーは非常に速くて硬いけど、攻撃力そのものは大したことは無いという。あの速度からの体当たりや、触覚を鞭のように使った攻撃などがすでに確認されているとの事で、まぁ直撃すれば怪我人は出るんだろうけど一撃で死に至るようなものではないそうだ。
なので俺が提案してみたのは……、盾役がまずガッチリと攻撃を受け止めて、足が止まったところをアタッカーが袋叩きにするというシンプルな物。もちろんこのやり方はすでに多くの冒険者パーティが試したという事だけど、攻撃の狙い所は甲殻の継ぎ目だったり足の付け根とかを言ってみたところ、急に静まり返って「なるほど」的な空気が流れたんだよね……。
こちらとしては、少しでも多くの協力者が欲しいので情報は10階層まで全部公開した。なんせ依頼内容は『魔物の間引き』だからね、スタンピードを起こさせないために俺達だけじゃなくたくさんの冒険者も巻き込んでしまおうという事だ。
「さて、今日はどうするかな」
街の見学は昨日行って、露店での買い食いも堪能した。冒険者には不人気のダンジョンであっても代わりに帝国騎士団が出入りしているせいか、食堂なんかの質は良いらしいとの事。もちろん食材やなんかは街の外から仕入れているとの事だから、この街ならではっていうのはほとんど無いというのが残念なところだ。
オニキスさんとメラナイトさんは、明日からの探索に備えて食材や備品なんかの買い出しに行っている。資金はすでにダンジョン産の魔石から出ているので、自分達の懐からの持ち出しは無くなったと喜んでいる。なんだかんだと結構狩ったからねぇ… 魔石や素材もメラナイトさんが全て拾ってくれていたって言うのも非常に大きいね、戦いだけに専念できるっていうのがこれほど楽だったのかと感じたものだ。
まぁ今回は特別に組んでいるパーティだけど、やっぱりパーティっていいよね! もうずっとソロだったから慣れていた部分もあるけれど、1人で進むダンジョンっていうのはやっぱり寂しいものだって改めて感じてしまった…
「いやいや、ネガティブな思考はダメだね。俺も明日に備えて気分的にもリラックスしておかないと! ちょっと街を歩いて甘い食べ物がないか探してみよう」
そういえば… ゲッキョウダンジョンは虫の魔物が出るダンジョンだ。もしかしたら進んで行くうちに蜂の魔物がいたりなんかして、そしてドロップは蜂蜜とかだったりして! ヤバイな… もしそうなったら蜂蜜は売らないぞ? 自分で消費するために持ち帰るんだ。
「あ、なんかテンション上がってきた! これだけ虫が出るんだから絶対に蜂の魔物もいるはず! ようし明日からもガンガン突き進んでいくぞ!」
しかしそれはそれ、俺は甘い物を求めて街へとくり出したのだった。
SIDE:ヒスイ皇女殿下
そろそろゲッキョウの街に到着する… まさかアズライト王国の使者や王女と一緒に移動するとは思わなかったけど。まぁ一緒とはいえ同じ馬車でというわけではない、使者はこの国まで乗ってきた馬車で移動し、ルビー王女殿下も同様に自前の馬車にての移動だ。
そしてもう一つ大きな事案がある。私はゲッキョウダンジョンの管理が仕事なのでいつも来ている場所だけど、今回は父上… 皇帝陛下が出向いてきているのだ。しかもお忍びという扱いで。
普段帝都… それどころか皇城からも出る事無く執務をしている陛下が外に出ること自体稀な事だ。お忍びとはいえ大勢の護衛に皇族専用の馬車… 一体何を隠そうとしているのか良く分からない。
ゲッキョウからの報告では、数日前にショウを含むパーティがすでに到着しており、到着した翌日にはダンジョンに入っていったとの事だ。私達が行って都合良く地上に戻ってきているかは分からないが、食料や水などの補給のためには数日潜っては戻りを繰り返すから、多少待つかもしれないが合流は可能だと思っている。
しかしお兄様が捕まらなかったのは残念だ… ぜひ父上と共にお兄様とショウを並べて鑑賞してみたかったんだけど、テンランダンジョンの間引きの指揮に出ると言って出張ってしまったのだ… ショウの話はしていたから血縁であるかもしれない事は理解していると思う、しかし今更血縁が増えたところでお兄様の皇太子という立場は覆らないのだからもっと余裕を見せて欲しかった。
「ヒスイ殿下、間もなくゲッキョウに到着いたします」
「そう、父上の馬車もついてきているね?」
「はい、すぐ後ろを走っております」
私はダンジョン攻略の指揮を執るために残るけど、父上はショウとの会談を済ませたら帝都に戻るからね。別々の馬車で移動をしているのだ。
後方にある窓から父上の馬車、ルビー王女とアズライト王国使者の馬車を確認し、街に入るよう指示を出す。
「さて、アズライト王国肝いりの結界師… どこまで攻略を進めているのかな? 報告が楽しみだな」
「そうでございますね… しかし、余所者に我が国の騎士以上の戦果を出されてしまうというのには思うところはありますが」
「それは私も同じだ、しかし今は非常事態なのだから仕方があるまいて」
まぁそれはね、私だって思うところはあるんだよ。長年このダンジョンと向き合っていながら全く攻略が進んでいなかったんだから。それもこれもあの黒光りする魔物のせいなのだ… 甲殻が硬くて矢は刺さらないし魔法もあまり効かない、攻撃そのものが単調であるため犠牲者が少ないというだけでなかなか狩れる魔物ではないのだ。
とりあえず父上がショウとの話を終えたら私も一緒にダンジョンに入らないとな… 結界師の攻撃力というものに非常に興味がある。実際にこの目で見たいと噂を聞いてからずっと思っていたんだ。
街の中に入り馬車群は冒険者ギルドの前で止まる。ギルドには私の配下の騎士達が駐在しているから、情報が齎されたというのであれば間違いなくギルドに集まっている事だろう。
馬車を降りて父上、そしてアズライト王国の面々と共にギルド内に入っていく…




