第75話 地上に戻ろう
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「うえぇっ!?」
ボス部屋に入り、真っ先に目についた物… それは多分こいつがボスであろうガガンボみたいな巨大な蚊だった。蚊の魔物も十分でかいと思ってみていたが、こいつはその3倍はあるね… 足が無駄に長いし羽を含めた全幅も3メートルは軽くある。
でもあれ? 地球ではガガンボという虫は最弱の代表じゃなかったっけ? もう弱すぎて弱すぎてって言われるほどの虫だったと思うんだけど… でもまぁこれだけでかけりゃそれだけで脅威に見えるけどね。
「どうしたのショウ君、変な声を出して。危険視していた黒光りする魔物はいないみたいだから早速行くわよ!」
「あ、はいっ!」
ガガンボがキモかったなんて言えるわけが無いよね… じゃあ俺も突撃だ!
ボスだと思われるガガンボが1体、取り巻きだと思われる通常の蚊が6体もいる… でもまぁ動きは遅いからオニキスさんなら危険は無いだろう。とりあえず気円斬をぶつけてっと!
謎の液体を吐く事は解っているので正面に立たないよう移動しつつ接近し、囲まれないよう槍で牽制しながら次元断! もういっちょ次元断!
よしっ! 一気に蚊を2体落としたぜ! オニキスさんはっと… おや、もう3匹落としてボスに向かっているよ。やべぇ遅れる訳にはいかないね!
俺に向かってきていた3体の蚊を倒し終わってボスの方を見ると… 哀れ、全ての羽を斬り落とされて藻掻いているボスの姿が… あ、とどめを刺された。どうやら謎液体の出番は無かったみたいだね、ボスであれば取り巻きよりも強力な液体を吐き出したんだろうけど、その隙ももらえなかったらしい。
「ふぅ、初見のボス部屋だったから慎重に戦ったけど、なんか弱かったわね」
「いやいや、オニキスさんが速すぎるんですよ。硬くない虫だったら全然問題無さそうですね」
「そうね、序盤の虫の方が手ごわかった感じよね… 無駄に硬かったから」
「なんだか難易度がおかしいダンジョンですね、8階層までの方が強くて10階層で急に弱くなるなんて」
「その判断をするのはまだ早いわね。あの吐き出す変な液体がどんな効果があるのか分からないし、ボスに至っては速攻で片付けたからアレだけど、同じような液体を吐いたと思うわ。
冒険者の全てが速さに特化しているわけじゃないから、回避できないで喰らってしまう冒険者もいると思うし、安易に弱いと決めつけるのは問題かもしれないわ。少なくとも私達には相性が良かったから弱く感じた… そういう事だと思うわ」
「なるほど…」
確かにその通りだね。羽が脆そうな虫だったから、炎系の魔法が使える人がいれば更に楽勝コースかもしれないけど、遠距離攻撃を持っていないパーティだと… 結構ヤバそうだね。
というか、個人的にはここまでくる間だとゴッキーが最強だったって感じだな? シャカシャカと動きは速いし黒光りする甲殻は硬いしね。まぁ近づかせることはしなかったからどんな攻撃をしてくるのかは分からないけど、もしかしたら攻撃力が弱かったのかもしれないね。
「ショウ君あったわ、転移陣よ」
「本当ですか? これで次からはショートカットができますね!」
「ええ、様子見のつもりだったから持ち込んだ食糧も残り少ないし、今日はこれで一度戻りましょう。2日ほど休養して次は10階層から… それで良い?」
「はい! 俺は長期のダンジョン探索は経験無いんで、そういった事は指示に従います」
「指示に従う… ん? つまり何でも言う事を聞くって事かしら?」
「え?」
え? どうしてそんな解釈になるのかな? あれれ? いつの間にかやって来たメラナイトさんと何か相談を始めちゃったんだけど… なんかヤバい事になっていそうな予感?
「ねぇショウ君、私前から気になっていた事があるんだけど… この際だから言わせてもらうわ、そして言う事を聞いてもらいたいの」
「な、なんでしょう?」
「あのね? どうして自分の事を『俺』って言うの? 私としては『僕』の方が良いと思うのよ。なので今日からは自分の事は『僕』って言いなさい!」
「そうですよね! やっぱり少年は『僕』って言う方が似合うと思いますし!」
「え、ええ~?」
どういう事? 俺と僕にどれだけの差があるというんだ? いやでも今更僕だなんて言うの恥ずかしくない? ここは断固として断った方が良いのかもしれない!
「でも俺の方が言い慣れていますし…」
「ダメよ! これは決定事項なの! さぁちょっと言ってみて? 『僕』って」
うぇぇぇ! なんかオニキスさんが怖い! 超怖いんですけど! 逃げ道はないのか? あっ、メラナイトさんに回り込まれた!
ガシッ!
俺の肩を両手で掴んでくるオニキスさん… 怖い怖い怖い!
「ね? お願いだから言ってみて?」
「…………………… ぼ、ぼく」
「「やっぱり良いわねぇ!」」
「ショウ君みたいに小柄な男の子に『俺』というのはちょっと似合ってなかったというか、ずっと気になっていたんだけど伝える事ができて良かったわ!」
「そうですね! 私もオニキス様が連れてきた日から疑問に思っていたのですが、これでようやくスッキリしました!」
「そ、そうですか…」
オニキスさんにいつものクールな雰囲気が消え去ってしまっている… メラナイトさんときゃいきゃい騒ぐ姿は普通の女子みたいだ。これはこれで新鮮ではあるものの、今日からぼくって言わないとダメなのかな?
これはあくまでも個人的な意見なのだが、『僕』『ぼく』『ボク』。すべて同じ意味だし言い方も同じなんだけど、なんとなく受ける感じが違うよね? まぁ文字だから言葉では変化を伝える事は出来ないが。
「さぁショウ君、戻って休養するわよ!」
「あ、ハイ」
すごくニコニコしたオニキスさんの手に引かれ、めでたく10階層踏破の実績を作って転移陣を解放した。
戻って休養とは言っているけど、まずは現地のギルドと情報の共有をしないといけないよね。出てくる魔物の種類、解っている分の攻撃方法、硬いなどの情報を伝えに行かなくちゃいけない。
ここに挑んでいる冒険者や帝国所属の騎士達は、ゴッキーの硬さのために進む事ができていなかった。しかしどうにかそれを突破する手段が見つかれば、何とか10階層までは行けるんじゃないかと思うしね。まぁ後はギルドが判断する事だ、俺の仕事は魔物の間引き… 出来る限り下層まで行って魔物の数を減らす事。
よし! やる事やって休養しないとね!




