第73話 危険な魔物…
誤字報告いつもありがとうございます。
漂ってくるとても良い匂いに目が覚めた、きっとこれは朝食の匂いだね? 今日も朝から美味しいご飯が食べれるよ! って、あれ? 動けない!
「うーんショウ君、まだ起きるには早いわ」
「ふぇ!?」
背後からガッチリとオニキスさんの腕が! どうやらまたしても抱き枕にされているみたいだけど、よくもまぁ器用に抱えたまま寝れるものだと思ってしまう。
「朝食の支度が整いました、いつでもどうぞ」
「あ、はい」
メラナイトさんから声がかかり、もぞもぞとオニキスさんの腕から逃れようと動き出す。オニキスさんの方も俺が苦しくならないよう手加減をしていたらしくて、特に抵抗される事無く脱出に成功。
「もう少しゆっくりでも良かったのに… また今晩までお預けね」
「そうですね、できれば10階層に転移陣があればいいんですけどね」
「そうね、そうすれば今夜は宿に泊まれるから見張りも必要無いし朝までゆっくりできるわね」
その意見には俺も賛成だな。いや、別に朝までゆっくり抱き枕にされる事を言ってるんじゃないよ? 野営の経験が少ない俺にとっては2日3日の野営でも結構疲れてくるんだよね。まぁこういった事には少しでも早く慣れなきゃいけないんだろうけど、やっぱり宿のベッドの方が安心して眠れるから好きなんだよね。
さらっと軽めの朝食を終え、今日の予定を打ち合わせる。まぁ打ち合わせといってもすでに未踏破の域にいるから事前情報は何も無いわけだ… つまり行き当たりばったりで行くしかないけど安全にね? ってな感じだ。
「それじゃあ今日も頑張りましょう。9階層からどんな魔物が出てくるのか… 最初は特に慎重に動く事、ショウ君は中衛にいていつでも次元断を放てるよう準備だけしておいてね」
「分かりました。オニキスさんも気を付けて」
「もちろんよ、Aランク冒険者として無様な姿だけは見せられないからね。メイトも後方を頼むわね」
「承知しました」
メラナイトさんは随分前からオニキスさんの専属メイドとして一緒にいるって話だけど、やはりメイドだからなのか… オニキスさんに対して物凄く丁寧な言葉遣いで話すんだよね、もちろん俺に対してもそうなんだけど。一度そんな丁寧な扱いじゃなくても良いって言ったんだけど、メイドですからって断られたんだよ… 意外とこだわりがあるのかもしれない。
こうして始まった9階層の探索、最初に現れた魔物は8階層でもお馴染みだったカマドウマみたいな魔物だった。この魔物はオニキスさんが単独でも狩れてしまうため、俺に出番が回ってくる事は少なくなってしまっている。まぁさすがに複数いれば別だけどね。
結局9階層はカマドウマが出現するだけで、他の種類の魔物は出てこなかった。3時間ほどの探索の末に10階層へと続く階段を見つけ、少しだけ休憩してから降りて行った。
「あれ、なんかこの階層から雰囲気が変わりましたね」
「ショウ君も気づいた?」
「はい。通路が広くなっているし天井も高くなっています… これはつまり、飛行系の虫が出るんじゃないですか?」
「ふむふむ、良いところに気づいたわね。9階層からの違いは確かにそれね、そしてショウ君の予想は多分当たりだと思う。ここからは上空にも警戒が必要になるから注意してね」
「分かりました!」
飛行系の虫かぁ… ダンゴムシみたいな魔物とかゴッキーみたいな魔物とくれば何が出てくるだろう。蝶とか蛾とか? ああ蠅とかもあり得るのか。でも蠅はちょっと速すぎるイメージがあるなぁ、次元断をちゃんと当てられるか疑問が残るところだ。
プーン…
「羽音がするわ、皆注意して!」
「はいっ!」
確かに聞こえる… しかしこの耳障りな羽音は… 蚊か!? 寝ている時に聞こえようものなら即座に起きて、叩き潰すまで安心して寝られない奴か!?
薄暗いダンジョンの通路の先をじっと見つめる、羽音が聞こえている以上近くにいるのは間違いないはずだ。だけどもしも蚊だとすると、それほど速度は出ない可能性があるね。ただ間違いなく血を吸うか、それに近い攻撃をしてくるはずだ。確か蚊に刺された跡が痒くなるのは、血を吸っている事に気づかれないよう皮膚を麻痺させる唾液のせいだと聞いた事がある。もしかしたら魔物の蚊だと麻痺させるだけじゃなく人体に有害な毒物を仕込んでくる可能性があるかもしれないな… とにかく羽音が不愉快だし接近だけは絶対させないよう気をつけないと!
「いたわ! なんて種類か分からないけど羽虫よ!」
「うぇっ! デカっ!」
ゴッキーやカマドウマでも十分気付いていたけど、このダンジョンに出てくる虫の魔物はいちいちサイズがでかい! 姿が見えた蚊の魔物は… 頭が直径20センチくらいもあり、羽を広げた全幅は1メートル以上あるよ! 気持ち悪いったらありゃしない!
「シッ!」
オニキスさんが急制動をかけて接近し、短剣を小刻みに動く羽に対して振るう。しかし速い! オニキスさんの動きは今の俺では満足に捕らえる事ができないくらい速い! あっという間に接近して斬り込んでいく… Aランク冒険者はやっぱりすごい!
「あら? これはとんだ見掛け倒しね。柔らかいし遅いし弱いし… こんな魔物が10階層にいるなんて不思議ね」
「危ないですよ! 何か特殊な攻撃方法があるかもしれないので油断しないでください!」
「それもそうね、じゃあさっさとトドメを…」
「危ない! 結界!」
うひー、あの蚊… 多分唾液だと思うんだけど水鉄砲のように噴出させてきたよ、多分浴びると麻痺とかしてしまうんだろう。
「ちょっと驚いたわね、ショウ君ありがとう。でもこの液体… 地面に落ちるとシュワシュワいってるわね、もしかしたら体が溶けるとかするのかしら?」
「それは怖いですね…」
しかし受け止めた結界が割れなかったところを見ると、攻撃としてはゴブリンにも劣る衝撃だって事だよね… まぁメインの効果は毒か何かを浴びせかけるってところだろうけど、これはこれで初見殺しになるかもしれない。
この魔物に限らず、やはりダンジョン内ではサーチ&デストロイが一番安全だな。まぁどんな攻撃をしてくるかっていう情報はあった方が良いんだろうけど、俺達の身の安全の方が優先度が高いからしょうがないよね。
「あらあら、この液体… お肉が溶けてしまいました、かなり危険な物のようですから浴びない方がよろしいかと」
「あら、食用のお肉で試すのは良くないと思うわ」
気がつくとメラナイトさんが肉を浸して試しているじゃないか!




