第72話 ルビー王女殿下、帝都入り
誤字報告いつもありがとうございます。
「メイトが3番手ならそのまま朝食の支度ができるでしょう? この順番は考え抜かれた万全の策なのよ」
「いいえ、2番手で見張りをしても朝食の質は何も変わりません。なによりゲッキョウに着くまでの間はずっと独占していたではありませんか、私に英気を養う時間を与えても良いとは思いませんか?」
ヤバイ、なんだかヒートアップしてきたぞ? いやでもなぁ… この話題に混ざるのって度胸とかそういったものじゃ太刀打ちできないと思うんだよ。そりゃーオニキスさんの家に泊まるようになって初めて気づいたんだけど、水たまりに映っただけじゃ良く分からなかった自分の顔… 割と良かったんだよね! まぁ日本人としての感性でだけど、でもそれだけでここまで取り合いになるっていうのは… あまり考えたくはなかったんだけど、つまり2人共少年というカテゴリーが好きな人? ショタっていったっけ? そういった趣味の人って事になるのかな?
でもそれだと俺がこのまま身体的に成長していったら趣味から外れるって事か? ふむふむ、まぁ急にそっぽ向かれるというのも寂しい気はするけど趣味なら仕方がないか?
「じゃあショウ君、最初の見張りはお願いするわね?」
「え? あ、はい! 任せてください!」
考え事をしている最中にどうやら結果が出たようだ、メラナイトさんがヨヨヨとハンカチを噛んでいるからオニキスさんが勝利したようだ。
うんうん、前世はともかく今の俺はまだまだ12歳! 色恋沙汰はまだ早いよね! というか大人の女性なんだからそれくらい理解しているよね? このネタで考えるのはもう止めよう、道中の見張りとは違ってここはダンジョン内だ、気合を入れて見張らないとね!
マジックバッグから取り出された衝立とベッドに2人が入り込んだのを確認し、手元に槍を置いて火の番を始めた。
ダンジョン内での野営は階段付近、それはある意味冒険者の中では常識と思われているところがあるため、こういった場所では複数のパーティが集まる事もあるという。安全だと言われている割には見張りは必須… つまりこういった場所では魔物ではなく悪い冒険者に対して警戒するために見張りを置くんだという。
まぁすでにここのダンジョンの最高到達点を越えているためいらぬ心配かもしれないが、ダンジョン都市に居を構えている身としてはこの習慣を忘れる訳にはいかない。ジェードダンジョンで泊まりで探索なんてした事ないけどね!
ちなみにダンジョン内は夜だろうと真っ暗にはならないため、外部での野営のように火の番をする必要は無いんだけど… なんだか火を見てるのって結構好きなんだよね。前世での俺も火とは違うけど花火が好きで、時期になったら各地の花火大会をはしごしてたもんだ… いやぁ懐かしい記憶だね。
この世界では魔法とかそれに付随する魔道具なんかが発達しているせいか、火薬の類って全然見た事無いんだよね… まぁどこかにあるのかもしれないし、爆薬とかになれば危険物だから偉い人が秘匿している可能性もあるかもしれない。まぁ火薬があったって自分で花火は作れないから意味無いんだけどね。
そして約束の3時間が経ち、女性2人が眠るベッドに向かう。
しかし字面が最悪だね! ただ起こしに行くだけなのに悪い事をするみたいに見えちゃうよ!
「ん、おはようショウ君。もう時間なのね? じゃあ後は任せてゆっくり休みなさい」
「はい、じゃあよろしくお願いします」
ついさっきまでは全然眠くなかったのに、ようやく今日の役目を終えたと思うと急に体が重くなったように感じる。まぁなんだかんだと次元断を一杯撃ったからね… 魔力の消費は少なくとも精神的に疲れていたんだろう。
「よし、明日に疲れを残さないのも実力の内だよね。ふわぁ~あ、なんだかよく寝れそうだ…」
こうして本日の探索は終わったのだった。
SIDE:ルビー王女殿下
「殿下、まもなく帝都に入ります。1人を先触れに出しますので護衛が減ってしまいますがご容赦ください」
「分かったわ。まぁ仮にも帝都というくらいなのだから治安が悪いという事も無いでしょう、一応警戒だけは継続してちょうだい」
「はっ」
エメラルド帝国の帝都… 来るのは初めてですがなかなか賑わっているようね。街並みを見ても歴史の濃さを感じさせる雰囲気があり、良い感じだと思うわ。さすがは我がアズライト王国よりも古くから存在している国だけあるわね。
正門と思われる門から中に入り、メインストリートと思われる大きな通りは人と馬車が綺麗に分かれていてこれなら無駄な事故も少ないのではないかと。
我が国の王都はこういった整備はまだまだで、あまり広くない通路なのに速度を出して走っていく貴族の馬車が多いから事故もそれなりになる。もちろんその場合、犠牲になるのはほとんどが平民であるため問題視されないまま現在に至っているわけだけど…
「こういったところは模倣しても良いと思うわよね」
「道の事ですか? しかし道を整備するとなれば既存の建物を解体しなければスペースを確保できないため、かなりの大事になると思いますが」
「そうなのよね… もういっそ新たに街を作った方が早いんじゃないかってレベルよね」
わたくしが考える事ではないのかもしれないけれど、理想に近いものを見てしまうとどうにかしたいと感じてしまう… これもある意味無い物ねだりなのかもしれないわね。
「む? ちょっとそこの! そこの者止まれ!」
なんでしょう? 御者をしている護衛の騎士が声を張り上げているわね、何かあったのでしょうか?
馬車が止まり、何やら護衛が誰かと話をしているようなのでこっそりと小窓から覗いてみる事に…
「殿下、あの方はパイロープ子爵です」
「パイロープ子爵? どうして子爵がこんな所に… ああ、もしかしたら今回の要請を受けてお父様からの親書を携えた使者に選ばれたのかもしれないわね。そうでなければこの時期に我が国の貴族が帝都にいるはずないですし」
「確かにそうかもしれませんが… しかし何やら雰囲気が…」
そう、確かに何かがおかしい。子爵は赤い顔をしながら手振り身振りで何かを説明しているようですが… まぁわたくしの護衛を勤めている騎士は伯爵位の令息ですから、いくら当代の子爵とはいえ強くは出れないという事も鑑みても明らかに態度がおかしい…
と、そこへ護衛の騎士がこちらにやって来た。
「殿下、あまり気分の良い話ではありませんが報告があります」




