第70話 ダンジョン探索中
誤字報告いつもありがとうございます。
「行きますよ! 次元断!」
両断された魔物はズルリと滑るように地面に落ち、ダンジョンへと吸収されていった。
「ふぅ、そろそろ私はキツくなってきてるんだけど、ショウ君の次元断は相変わらず絶好調みたいね」
「自慢の必殺技ですから! でも確かに硬そうな魔物ばかりになってきましたね」
「甲虫と呼ばれる種類の虫の硬さは異常ね… もう私の攻撃じゃ傷をつける程度しかできないわ、後は陽動してショウ君が撃ちやすいようにするので精一杯ね」
朝から探索を始めてそろそろ夕食時になるが、現在5階層まで降りてきている。1階層から3階層くらいまでは芋虫とかウスバカゲロウのような魔物が多く、特に防御力を感じさせない魔物が出ていたんだけど4階層から様相が一変した。
だんだんダンゴムシとか装甲が厚くなりはじめ、5階層では蛍のような魔物が出て来ている。どちらも硬い殻というか装甲を持ち、小剣二刀流のオニキスさんではすでに倒す事が困難になってきているのだ。
まぁ柔らかそうな魔物は他の冒険者に任せて急いで降りてきたっていうのもあるんだけど、それでもまだ虫の動きが遅いのが救いかな… その内ゴッキーみたいな奴とか出るんじゃなかろうかと思うとちょっと怖かったりもする。
「あ、6階層への階段が見えましたよ」
「本当ね、じゃあ階段付近で夕食にしましょうか。食後の体力次第で今後どうするか決めましょう」
「了解です!」
実はこのダンジョン、最高到達地点は5階層なんだという。まぁ確かに、手持ちの武器が小剣とはいえAランク冒険者であるオニキスさんですら倒すのが大変だというくらいの防御力を見せてきているんだ… 並の冒険者ではもう歯が立たないって事なんだろう。
「しかし4階層から急に硬くなったわね… 倒せないって訳ではないけれど、これでは時間がかかってしまうからアタッカーとしては足手まといね」
「ドロップもだんだん殻とかになってきてますもんね… 武器防具の素材には良いんでしょうけど」
「確かにこれでは人気が出ないのも納得ね、ショウ君くらいポンポンと倒せるんなら素材集めでいい稼ぎになるとは思うけど、普通の冒険者ではそれも難しいでしょうね」
ジェードダンジョンでもそうだったけど階段付近には魔物が近づいてこないため、休憩や野営はそこでするっていうのがダンジョン探索の常識という事らしく… メラナイトさんが調理ですごい良い匂いを撒き散らしても大丈夫だとの事、やべぇ涎が…
「皆さん支度が整いました」
「ありがとう、じゃあ夕食にしましょうか」
やったぜ! もうお腹が空いて座り込んでしまいそうだったんだ!
とりあえず持ち込んだ食糧が尽きる少し前に地上に戻るという事になっているが、本物のメイドさんがマジックバッグを使ってアレコレと詰め込んでいるため、5日は余裕で賄えるとの事だ。とりあえず最初の目標としては、ゲッキョウダンジョンの転移陣の場所の確認が最優先となる。
まぁ最高深度が5階層という事で、誰も転移陣のありかを知らないというふざけた話であるから仕方がないが… 確かにここまでの魔物を見る限り、オニキスさんでも厳しい魔物を対処しながら進むことは難しかったんだろう。冒険者だって無理せず稼げるならそっちに行くしね。
それにしても、このゲッキョウダンジョンもジェードダンジョンのように転移陣の最上階が5階層なんてことはないよね? 1~5階層もそこそこ魔物が強いんですけど… もしそうなら今後の探索も時間がかかってしまうよな。……という事をオニキスさんに聞いてみた。
「転移陣については何種類か確認されているわ、もちろん1階層に転移陣が存在するダンジョンもあるし、どちらかというとそっちの方が大多数という事になるわね」
「え? つまりジェードダンジョンが珍しい部類に入ると?」
「そうね、まぁジェードダンジョンはCランクだし、5階層までなら特に苦労しないで行けるから問題になっていないのよ。でもさすがにゲッキョウダンジョンのようにAランクダンジョンでそれをやられたら厳しいわね」
うーむ、そうなんだ。まぁ確かに前世の記憶を漁っても、最初の転移陣が5階層なんてゲームでもラノベでも無かったような気がするな。そうかジェードダンジョンが特殊だったんだ。
「とはいえ、さすがにAランクダンジョンで最初の転移陣が5階層って事は無いと思うわ。一番近いところでも10階層なんじゃないかという感じね… まぁ今回は様子見だから食料も5日分しか持って来ていないから、遅くても3日探索したら地上に戻るつもりよ」
「なるほど… 確かにここまで転移陣は見かけなかったですもんね、あるんなら階段の前あたりにあるはずだし、何よりもボスがいるはず」
「そうよ、ボスがいないまま階段に辿り着けたというのはそういう事だと思うわ」
つまりアレだ、先は長いという事だ。
とりあえず初日で5階層をクリアできたので今日のところは野営をする事になった。もちろんダンジョン内なので時間の感覚はさっぱりだけど、きっちり3時間燃え続けるお香をオニキスさんが持って来ていたのでそれを基準に交代で休む事になった。
見張りの順番は… 最初にメラナイトさん、次にオニキスさんがやって最後に俺だそうだ。もちろんこれはくじで決めた訳でもなく、オニキスさんの独断でそう決められたのだ。子供はゆっくり寝なさいと…
さすがにパーティメンバーとして、女性2人に見張りをやらせて俺だけ寝ているなんて嫌だから、俺も当然見張りに参加すると言って譲らなかったよ。
そんな訳で、約6時間後に来るであろう見張りの順番のために休ませてもらう事にしたのだった。
一方その頃… 馬車にてジェードを出発していた集団は…
「殿下、旅路は順調だったので明日には帝都に到着できる予定です。目的地のゲッキョウダンジョンは帝都から馬車で約2日… 一度帝都でしっかり休養を取ることをお勧めします」
「そう? 別に直行でも構わないのだけど… ショウ達はすでにダンジョンに到着しているでしょう?」
「恐れながら… さすがに王女殿下ともあろうお方が、帝国領に申告無しで入ったうえに帝都を通り過ぎるのは外交上問題が発生してしまいます。どうか帝都に立ち寄り、皇帝陛下にお目通りを」
「確かにそうね、自分の地位を認めさせるための行動をしに来たというのに、自分の首を絞めるような真似は愚かという事ね。その件については理解したわ、進めてちょうだい」
「はっ!」
ルビー王女の馬車も帝都に到着しようとしていた。




