第68話 ゲッキョウの町と帝都
誤字報告いつもありがとうございます。
旅路は実に順調であった。うん、山も無く谷も無く… 特に語る必要性を感じないくらい順調だったよ。
馬にとっては軽い駆け足くらいであっても、人間よりも遥かに速くて馬車なんかもどんどん追い越して… 町があれば寄って補給をしつつ移動する事7日間、とうとうエメラルド王国にあるゲッキョウダンジョンに到着した。王都? 帝都? もちろん寄る事無くスルーだよ、寄ると遠回りになっちゃうからね… その辺の事は使者とやらにお任せするよ。
「おおお、やっぱりここもダンジョンなんだね。ジェードダンジョンと同じ雰囲気を感じるよ」
「そうね、ダンジョンは自然発生する魔力が溜まってしまうと発生すると言われているから似たような空気感なのかもしれないわ。ここまで強行軍というわけではなかったけど、先に旅の疲れを取った方がいいと思うのだけど… 今日は宿に泊まるわよ」
「わかりました」
こうしてジェードの街と同じようにダンジョンの近くにある町に入り、今日は休養する事となった。
しかしゲッキョウというところもジェードと一緒でダンジョンで栄えている町… しかもここはAランクダンジョンでしょう? ドロップ品とかどうなっているのか知りたいよね! まぁ出現する魔物のほとんどが虫系だという事なので食材は無さそうだけど、硬い魔物が多いと聞いてるから武器や防具用になる素材がきっと多いんだろう… 俺も防具に関しては良い物をって思っているけど体形の問題があってねぇ、小柄な自分にがっかりしているよ。
それはともかく、さすがに町中で騎乗している訳にもいかないので馬から降りて町に入る。町の入り口では形ばかりの検問があったけど、ギルド証を見せると簡単に入る事ができた。まぁここに出入りするのは冒険者を含めてダンジョン関係ばかりの人であろうから、出入りを簡略化でもしているんだろう… 知らんけど。
町を囲っている防壁を抜けていくと… あれれ? Aランクダンジョンを従えたダンジョン都市のはずなのに言うほど栄えていない?
「ここは確かにAランクダンジョンだけど、魔物が強すぎるのとドロップがあまりうま味が無い事で有名らしいのよ。話を聞けばダンジョンの管理は皇族が行っているらしく、ちょっとばかりお堅い雰囲気になっているんだそうよ。ちなみに担当している皇族はヒスイ皇女殿下ね」
「なるほど… じゃあ管理者が直々にジェードまでやってきてたって事なんですね? そりゃなんというか… お疲れさまって感じですね」
「そんな訳だからダンジョン産の素材を使ったご当地料理とかは期待しないでね? まぁそれでも野営よりはましだと思うけど」
「いやぁ野営中だって良い物を食べさせてもらっていましたし、全然悪くなかったですよ! もうさすがメイドさんって思ったくらいですし!」
「それなら良かったわ」
そうなのだ。オニキスさんについてきているメイドさん… 本名はメラナイト・トリフェーンさんというのだけど、料理上手なのは知っていたけど野営で作る簡易料理もまた絶品だったのだ。まぁ持って来ていた調味料によるものだろうけど、俺の想像していた野営飯とは全然違ったのだ。
おまけにお名前なんだけど、親しい人からはメイさんと呼ばれているらしく、それなのになぜかオニキスさんからは『メイト』と呼ばれている… それを俺が聞き間違いして『メイド』と呼んでいると思っていたわけだ。うん、なんか申し訳なかったっす。
「あ、あの宿にしましょう。見た感じ清潔そうだし寝るだけなら十分よね」
「お任せします」
うん、そもそも旅自体初めての俺には宿を鑑定する能力なんて無いからね、雑魚寝の安宿でも十分寝れてしまう俺が口を出す領分ではないだろう。
よし、じゃあ明日に備えて鋭気をってやつだね!
一方その頃、アズライト王国の王都から出征してきた使者団もまた、エメラルド帝国の帝都に到着していた。
SIDE:ヒスイ
謁見の間にて、アズライト王国からの使者団代表との軽い挨拶を終えてから会議室へ移動。使者団の者達との会談となった。だけど… あれ? 結界師のショウの姿が見えないわね、どういう事かしら。
「我々使者団と、陛下が勅命を下された冒険者は別行動でございます。なにせ出発地点が違いますし、急を要するとの事でしたので現地… ゲッキョウダンジョンの方に直行しているはずです」
「なんと… 直接戦闘をこなす者と会う事ができんとはな。まぁ良い、アズライト王国による支援に感謝する。そして件の結界師には現地に行って直接挨拶をするとしよう」
「いえいえ、ただの結界師に対して皇帝陛下が動く事などありませぬ。安全な皇城で吉報をお待ちください」
んん? 何この使者… 自分達の国の結界師に対してその対応は。アズライト王国では結界師に対する蔑みは随分と無くなっている感じがあったのだけど、もしかしてジェードの街だけなのか? しかし感じの悪い使者だな。父上も眉間の皺が… あれはちょっと機嫌を損ねてしまっているわね。
そんな感じで会談も早々に切り上げ解散となった。使者団は休養を取った後にゲッキョウに向かうとの事… 休まず行けよと声に出そうになったが何とか耐える事ができた。
「しかしショウが来ていないのは少し残念でしたね、私としてもショウと父上、お兄様を並べて見てみたかったのですが」
「居ないものは仕方がなかろう。しかしショウか…」
「お父様? お心当たり、まだ伺ってませんけど?」
「む? そうだったか、まぁなんというかな… ヒスイを産んだ後に妻が亡くなったじゃないか、その後にちょっとした気の迷いがあってな… つい侍女に手を出してしまったのだ。心当たりはそれだけなんだが」
「その侍女はどこにいるのですか? なぜアズライト王国に?」
「それがな、しばらくすると宮殿から消えてしまっていたのだ。その後の詳細は掴めておらぬ」
「うーん… 宮殿に勤められる侍女というならば貴族令嬢ですよね? 調べたらすぐに分かりそうなものですが?」
「それが両親も見当がつかぬとな… 昔の事だという事もあるしな」
「そうですか… ショウは12歳だと聞いています、年代は合っていますか?」
「うむ、大体それくらい前の事だな」
「そうですか… まぁいいでしょう。もしもゲッキョウダンジョンの魔物達を普通に撃退できてしまうほどの力を持っているなら、それを理由に我が国に引き込みたいと思っておりますがよろしいですね?」
「うむ、それは構わん。息子というのであれば会ってみたいしな」
「ええ、私も弟だというのであればそういった対応を取ります」
よし、父上から言質が取れた。これでアズライト王国がダンジョン討伐支援に選ぶほどの力を持った者が手に入る… そして…
「弟かぁ、ずっと欲しかったんだよね。まだはっきりそうだと決まったわけではないけれど、これだけ似てるんならあり得るわ!」




