第67話 準備は完了した… はず!
誤字報告いつもありがとうございます。
「とりあえず先に私の家に行って、野営道具をマジックバッグに入れておいた方がいいわね。それから足りない物を集めましょう」
「馬で行くんですよね? 野営はテントって事になるんですか?」
「そうね、天候不順の事も考えて最低でも屋根が無いと無理だわ。もちろん馬を濡らすのも良くないから馬も入れれるような大きな天幕があれば言う事無しね」
「なるほど!」
そうか、馬だって濡れ過ぎたら良くないもんな… しかし天幕ってアレだよな? 運動会の時とかに活躍する本当に屋根だけのテント、まぁオプションで横にも張れたと思うけどこの世界ではどうなんだろうね… やべぇ買い物が楽しみになってきたぞ!
しかしこうなってくるとマジックバッグの需要って冒険者だけじゃないんだっていうのがよくわかる、ぶっちゃけ馬も入れる天幕なんて支柱だけでも相当な物量になってしまうしな。日本にあったような折り畳み式とか絶妙に設計された組み立て式があるとは思えないから、普通に運ぶとなれば大変な事だろうと容易に想像がつく。天幕なんか持ち運ぼうとすれば食料が持てなくなるし、なによりも人が馬に跨れなくなるから意味無いしな… それこそ馬車じゃないと無理な話だ。
少し前までオニキスさんが住んでいて、俺も居候させてもらっていた邸宅にやってくる。
家の中には入らずに、庭に建てられていた物置小屋に直行して中を漁り始める…
「テントはこれでいいし、馬用の天幕もこれで十分… 鉄製の支柱だから多少の風でもビクともしないし大丈夫でしょう。じゃあこれらをマジックバッグに入れてくれる? ショウ君のマジックバッグは荷物専用にして、私は食料や着替えなんかを持っていくわね」
「了解ですよ。やっぱり思っていた通り結構な物量になっちゃいますね、マジックバッグさまさまだなぁ」
「そうね、持ってない人が運ぶとなれば馬車は必須になるわね。でもマジックバッグだってそこそこ流通しているから、一昔前のように持っているだけで襲われるという事も減っているのよ。まぁそれでも自慢していたら奪われる可能性はあるけれどね」
「そうでしょうね… だって便利ですもん。あ、入れ終わりました」
「じゃあ次は寝具ね、マジックバッグは複数あるから小さめのベッドをそのまま入れていきましょう。野営といえどもしっかり休まないといけないし、現地についたらダンジョン内でも使う事になるわ… ちゃんと良い物を持って行かないとね」
「あ、そうか。毎回夜になったらダンジョンから出てくるなんてやってたら時間の無駄になっちゃうのか… そう考えると大事な選択ですね」
「ええ、ダンジョン内でも疲れを取れないと、間引きの進捗度に影響するからね。さっさと片付けて帰ってくるにはそういった所は妥協できないわ」
「なるほど…」
うーん、思ってたよりも深かったな。俺としてはただ現地に行って向こうの指示を聞き、野営といえば毛布にくるまって眠るって事しか考えていなかったよ。でもそれじゃあ疲れも取れないだろうし、前に進むにつれて効率はどんどん悪くなっていくだろう。そんな事は考えればすぐに分かる事だよね…
「さて、じゃあ一度訓練場に戻って1回休みましょう。食料の調達についてはうちのメイドに頼んでおくわ」
「メイドさんも仕事とはいえ大変だなぁ…」
「あ、メイドも連れて行くからね? あの子に食事の支度を頼むつもりだったし」
「えええ? それって大丈夫なんですか? 本人の許可とかは?」
「大丈夫よ、あの子は私の専属だからどこにでもついてきてくれるし自身の安全を守るくらいできる子だから」
「そうなんですか… メイドさんすげぇな」
そんな訳で、時刻はすっかり夕刻となった。
俺の着替えとか防具のスペア、槍も当然スペアを用意してマジックバッグに放り込む。俺の戦闘スタイルの都合、間合いを取るための大事な槍だ… さすがにしょぼい装備で挑む訳にはいかない。そして恐らくだけど、現地であのヒスイとかいう皇女様と会う可能性が高いために、以前仕立てた坊ちゃんのような衣服も持っていく… ああ、またアレを着るのか…
そしてメイドさんも話を聞くとすぐに出かけていき、帝国のゲッキョウダンジョンまでの道中分の食料の買い出しと、調理器具なんかを準備してくれていた。
ダンジョン探索用の食料は、どうやら現地で調達するようなのでそこまで大荷物ではなかったようだ… まぁこれもまたマジックバッグに入れていくので多少の事は誤差の範囲だろうけど。
そしてお風呂に入り、ぐっすりと寝た翌朝…
「さて、いよいよショウ君との旅が始まるわね! 訓練場を建てて腰を据えたと思っていたから一緒に旅する事は出来ないと思っていたけど、中々人生侮れないわ!」
オニキスさんのやる気がすごいんですけど… テンション高すぎですよ!
馬は2頭用意されていて、俺とオニキスさんで2人乗りをし、メイドさんが1人で乗っていくとの事だ。さすがのメイドさんも騎乗するとなればメイド服とはいかないようで、騎乗用の服で準備を完了させていた。
「よし、じゃあ大変面倒だろうがしっかりと頼むぞ。一応アズライト王国の代表という事になっているからふざけた真似だけはするんじゃないぞ?」
「分かってますよ。俺が代表とかいうのは納得いかないですけど、精一杯魔物を倒してついでにレベルを上げてきます」
「おう、その意気だ。じゃあオニキス、護衛の方は任せるぞ」
「任されてあげるわ」
なぜかギルドマスターに見送られ、俺達3人はジェードの街を出発した。まだ立ち上げて2ヶ月も経っていない訓練場を置いて… ああ、すぐに帰ってくるからな!
一応王家からの使者も王都から向かうとの事で、これについては現地で落ち合うという事らしい。まぁそりゃそうだよね、いくらなんでも国家間のやり取りをしているはずなのに、依頼を受けた冒険者だけが現地に向かうなんてさすがに無いでしょう。
とはいえ、王命で来るはずの使者… 多分貴族なんだろうなぁ。なんだかこれも面倒事の種になりそうな予感がするよ… 平民の俺に手柄を立てさせたくないとか馬鹿な事を言って、こっちの足を引っ張ってくる事も予想しておかないとダメなのか? いやいや、さすがにそれはないか。いくらなんでも前世の俺はラノベ読みすぎだろう、国の面子がかかっている時にそんな事をする大馬鹿を使者に立てるなんてきっと無いと思うよ!




