第66話 出発準備!
誤字報告いつもありがとうございます。
「出発は一応任意という事になってはいるが、大至急案件でもあるため遅くとも明日中には出発してほしい。今日はもうオニキスを連れて旅支度を整えるがよい」
「あ、はい。じゃあなんと言いますか、訓練場の方はお願いしますね」
「ああ、せっかく立ち上がったばかりの訓練場を潰したりはしないから安心しろ」
「本当であればわたくしもついて行きたいところだけど、立場上そういうわけにはいきませんの。一応エメラルド帝国内で立場的に後れを取らせないために貴方には一つ称号を授けましょう。これはお父様… アズライト王国国王も承認しています」
「え? 称号ですか?」
「はい、有体に言えば他国で舐められないように… という事ですわ。結界師の扱いはわたくしも良く知っていますからね。では貴方にはこの称号を贈ります。『アズライト王国認定指導員』ですわ、まぁ商会などに出す『王家御用達』と同様の意味がありますので、あまりにもふざけた対応をされれば帝国皇帝に抗議文を出せます。覚えておいてくださいね」
おおう、王家御用達ですか! しかも指導員ってちょっと格好良いかも? でもまぁ王室御用達といわれても、商人であれば王家に納品した事があるという実績を示すもの。良く言えば王家の目に留まるような品物を用立てる事の出来る伝手と財力があるという事であり、言うほど舐められないって事にはならないんじゃないかな。まぁこれはあくまでも俺の中にある知識の事だから、この国では多少違うのかもしれないね。
そういった意味合いでの『王国認定指導員』という事であれば、つまりは指南役という感じでいいのかな? まぁ俺みたいな子供が持つ肩書ではないけどね… むしろ舐められる確率を上げているんじゃないかと思ったりもしたり。
「じゃあショウ君、ギルドからマジックバッグを確保しておいたから買い物に行くわよ。自分の荷物は自分のマジックバッグに入れておくとして、ギルドからの貸し出し分には食料や野営道具などを入れるといいわね。もちろんそれにかかる経費はギルドに出させるから大丈夫よ」
「おいおい、ほどほどにしてくれよ? じゃあショウよ、受付で前金を受け取ってそれで準備を進めてくれ。こちらも支援要請次第では他の冒険者の派遣も考えている、現地について何か言われたらそう答えておいてくれ」
「あ、はい」
あれよあれよという間に俺の行動が決められていく… まぁオニキスさんに至っては平常運転だけどね。しかし旅支度かぁ… これは俺1人じゃ用意できないかもしれなかったからオニキスさんが付き添ってくれるのは有難い話だな、伊達にAランクじゃないわけだしその辺の心得なんかも後で聞いてみよう。
そんな訳で、俺とオニキスさんは旅支度を整えるために街へとくり出したのだった。
SIDE:ルビー王女殿下
さて、わたくしの師匠であるショウがギルドを出ていったわけですが… ふふっ、ここはわたくしも世界に1人しかいない次元断を受け継いだ者として行動を起こさなければいけませんね。
普通に考えれば王族であるわたくしが、他国に請われての魔物討伐に関わる事などあり得ません。しかし、現在求められているのは非常に防御力の高い魔物を大量に討伐できるだけの攻撃力です。もちろんまだまだ師匠であるショウには到底及びませんが、わたくしが放つ次元断でも岩を断つ事ができているのです。これだけできるのであれば魔物の甲羅? 装甲? そんなもの大した問題ではありません。
お父様には何も言われていませんが、ここは弟子として行動を起こすべきだと考えているんですよね。今まで散々な言われようだった結界師… さすがに王家のわたくしには表立って悪態をつく者はいませんでしたが世間では違います。
王女でありながらこの歳になるまでただの1人も婚約者ができなかったのも、この結界師という職業が邪魔をしていたのです。しかし隣国とはいえ一つの国家が対処できないほどの魔物狩り、それをわたくしとショウ… 2人の結界師がその窮地を救ったとなれば? すでに『結界師の訓練場』という噂は流れているのですからその関係者であるわたくし達が活躍できたとするならば、ショウが望んでいるような結界師に対する偏見や横柄な対応はかなりの確率で削減できるのではないか。
もちろんわたくし本人の名声にも大きく影響します、今まで結界師だからと陰口を言われていたお荷物王女がAランクダンジョンにて猛威を振るったとしたら? もうわたくしの価値は大きく跳ね上がる事でしょう。
これまで長い間わたくしを悩ましてきた劣等感… これを払拭する大チャンス到来という事ですわね! もちろんショウが活躍してくれれば人伝てに結界師の凄さも伝わるかと思いますが、それだけでは足りませんの。わたくし本人が実績を挙げていく事こそが、尾ひれの付かない正確な情報としてわたくしの評価が世間に広まる事に繋がるでしょう。
そう、これはわたくし自身の人生を賭けた行動であると断言できます。今まで受けた屈辱の数々… それらを払拭し、今更わたくしに近寄ってくる者達に『拒否』を叩きつけてやりますわ!
「ではギルドマスター、わたくしも所長のいない訓練場にいても仕方がないので街を離れますわ。先ほど約束していた通り訓練場の方はよろしくお願いしますね」
「はい、他に訓練生が1人しかいないので特に問題無く維持できると思いますのでご安心を」
ふふっ、ではわたくし達も旅の準備を始めましょうか。隣国とはいえ距離はありますからね、馬車はわたくしが乗ってきた物で問題はありませんが食料や野営に備えた調理器具なんかは用意しなくてはいけません。なにせ王都からジェードの街までは途中にちゃんと街があるので野営する事はありませんから、調理器具など持ち込む必要がなかったですから。
ですが、ジェードの街からエメラルド帝国のゲッキョウダンジョンまでとなれば… やはり何度か野営をしなければいけません。これは確かな情報なので間違いはないでしょう。
ギルドを出るとすぐに侍女に指示を出します。
「ええ? 殿下、どうかお考え直しを」
「いいえ、これはもう決定した事なのです、もちろんわたくしの独断ですが。これは結界師として生きて行く上で、避けては通れない重大案件だとわたくしは認識しております。貴女達には苦労を掛けてしまいますが、わたくしについてきなさい。全責任はわたくしにあります、貴女達はただわたくしに命令されたと言えばいいのです。いいですね?」
ふふっ、ふふふふっ。どうしてでしょう… 笑いが止まりませんわ!




