第64話 ニッケルさんも訓練しないとね
誤字報告いつもありがとうございます。
そんな胡散臭い話をした翌日、ルビー殿下は午前中に近接訓練をするのでその隙をついてニッケルさんに結界指導をしようと声をかけてみた。
「うんいいね。どうせ午後からも体力作りとかそういった訓練だから、結界の指導が受けれるのは嬉しいよ」
「そうですか、まぁルビー殿下がいる以上同じ場所で一緒に訓練ができない状況はもどかしいなって俺も思っていたんですが…」
「いやいや、それは仕方がないよ。一国の王女様と同じ訓練場に平民の俺がいる方がおかしい話さ。あ、もちろん所長は別だけどね」
「じゃあとりあえず練習を始めますか、一応訓練メニューとして自主練習がやりやすいような基礎に重点を置こうかと思ってるんですけど、いいですか?」
「もちろん良いよ!」
そんな訳で考えた訓練メニューは…
その1、2枚の結界を任意の方向に同時に出現させる練習。これは防御的な意味合いが強そうに見えるけど、実際には睨みつける程集中しなくても片手間で結界を出せるようにする訓練になるんだよね。ガチガチに緊張していると、その気配は魔物にだって伝わってしまう。魔物に伝わるくらいなら敵対する人間がいたら当然気づくと思うよね、それを不意に片手間で2枚の結界を見せられたら… 一体何をする気だ? って躊躇いが生まれる。
ま、要は自由自在に結界を張れる様にって事だね!
その2、結界の向きを変える練習。普通に結界を張ったら縦に出てくるからね、次元断も気円斬も基本的には縦で使わないからこれを覚えてもらう事。
真横に結界を展開して椅子にしてみる… こう言って練習してもらえばこれが次元断や気円斬の元になるとは思わないだろう。俺が不在時に、誰かに覗き見をされたとしても機密保護のための言い分にも使えるはずだ!
ま、その1をクリアしないとその2は出来ないからじっくりと取り組んでもらいたい。なんせ俺はこれから忙しくなりそうな予感がしているからね! この予感が間違いなら嬉しいんだけど…
「というわけで、これは結界を使った技を使用するためには不可欠な行動です。一応危険が無いように訓練場内での練習に限りますが、これならいつでも練習ができるでしょ?」
「ふむふむ、これが基本って事なんだな。まだ2枚の結界を同時にパパっと張るのは難しいけど、これを当たり前に出来るようになれって事だね?」
「そうですね、それが望ましいと思います」
「分かった、これからは空いた時間にこの訓練をしよう。ダンジョンは怖いけど、それでも早くダンジョンに入って狩りが出来るようにならないとな! 俺もウリボアを自分で倒してその肉で乾杯がしたいぜ」
「あはは、自分で倒せるようになれば余裕ですよ。後はアレですかね… やはりマジックバッグを手に入れるまでの間は自分で重いお肉を持ち帰らないといけないから…」
「ああ、ぶっちゃけそのための体力作りだと思ってるよ。せっかく狩ったのに持って帰れないなんて悔しいからね」
うんうん、ダンジョンでの狩りに対する怖さはあるけれど、それを克服しようとする気概はしっかりあるようだね。まぁダンジョンで食材が手に入るっていうのはでかいよね! 特にお肉!
だからニッケルさん… 根性で頑張るんだ!
─エメラルド帝国城内─
「陛下、ヒスイ殿下が帰還なされました。謁見を望んでおりますが?」
「む? 随分と早いではないか、まさか途中で帰ってきたなどというわけではあるまいな?」
「詳しい話は聞いておりませんが、アズライト王国ジェードの街から急いで戻ってきたと聞いております」
「そうか、まぁ本人から直接聞いた方が早いな。よし通せ」
「はっ!」
SIDE:ヒスイ皇女殿下
「ヒスイ殿下、皇帝陛下よりお通しするよう言い遣ってまいりました」
「そう、じゃあすぐに伺うわ」
大急ぎで戻ってきたので一度休みを入れたいが、急を要する話だけにお休みは終わってからじゃないと落ち着かない。
親子とはいえ宮殿の外では外聞もあるため、直接乗り込むような事はしないがあまりにも待たされるようであれば突撃するつもりだったからある意味即決してくださって良かったわ。
案内の近衛騎士について執務室へと歩いて行く、さすがにこの話は他の貴族の前では言えないから問題は無い。それよりもお兄様の進捗も気になるわね… 私の預かっているゲッキョウダンジョンを荒らしてなければいいのだけど…
「随分と早いではないか、だがよく無事に戻ってきたな」
「はっ、行きも帰りも馬を飛ばしましたので」
「それで? それほど急いで戻ってこなければいけないような報告があるとみていいのか?」
「はっ、自分の目で確認が取れた訳ではありませんが、偶然にも例の訓練場に赴いた時、アズライト王国のルビー王女殿下とお会いしまして少しですがお話をしてきました」
「ふむ? それはなんだ? 噂の訓練場にルビー王女がいたという事か?」
「はい、ルビー王女殿下本人がその訓練場で学んでいるとの事です。結界師のスキルについても伺ってみたところ、噂の結界師にはクレイジーチャボという魔物を正面から討伐できるスキルがあるそうで、王女殿下もそのスキルを覚えている最中だとか…」
「ほほぅ! クレイジーチャボなら知っておる、正面装甲だけやたらと硬い魔物であったな? それを正面から破れるというのならゲッキョウダンジョンの魔物達が相手でも容易く討伐できるではないか」
「ルビー王女殿下がいなければ、噂の結界師の少年をそのまま連れてこようと思っていましたが、アズライト王国の王家が絡んでいるとなれば強引な手段はと思いまして、我が国の方から正式な要請があると思うとだけ伝えて戻って参りました」
ふぅ、大事な用件はこれでちゃんと伝えられた。外交の事は専門の臣下に任せればいいからこれでやっと休む事ができる。
「よくやったヒスイよ。だがその結界師の訓練場では育成が進んでいる感じであったか? それほどの攻撃力があるのなら交代要員も含めて最低でも10名は欲しいところだが」
「それが… 付近で尋ねた話を統合すると、訓練場が完成したのが半月ほど前でまだ正式に稼働しているわけではないとの事。ルビー王女殿下がいた事を考えると、彼女の訓練が終わってから一般の訓練生を入れるのではないかと…」
「ふむぅそうか、まぁ王女と平民は一緒に訓練は出来んか… まぁ確かに我が国でもそうするな。となると、まともにスキルが使える結界師は何人いるんだ?」
「ルビー王女が使えたとしたら2名だと思います。その訓練場の所長… ショウという少年がとても有能だとルビー王女も言っておりました」
「ふむ、それほどの才能を持つ少年か。我が国に引き込めそうか?」
「それは… 誘っては見たのですが断られました。しかし、どういうわけかその少年、父上やお兄様に顔がとてもよく似ておりましたが… 何か心当たりは?」
「なに? いやまさか…」




