第62話 柱の影のオニキスさん
誤字報告いつもありがとうございます。
SIDE:アズライト王国、国王
「さて、ルビーからの報告では結界師の噂は本当のことであり、現在修練中だという事だが… 「技術的には訓練を受けたからといってすぐにでも使いこなせるという事はない難易度」との事だ。どうするか… 国中の結界師を集めてみるか?」
「陛下、集めるというのには賛成ですが全員に訓練を施すという事は危険であると具申いたします」
「その心は?」
「もちろん陛下の温情を賜れば愚民である結界師でも陛下に従うと思われますが、中にはやはり危険思考を持った者も多くいるかと」
「ふむ、結界師は愚民と? 結界師の娘を持つ儂の前で良く言えたことだな」
「あっ! いえ、決してルビー殿下の事をそのように思った事はありません!」
「もう良い、下がれ。魔法師団長、どうやらお主では結界師の有効利用は無理のようだな。愚民などと口に出さずとも、その態度を見せればすぐにでも反感を買い国内で危険を大きく育てる事になるだろう」
「くっ…」
ふぅ、やはり使える能力を見せ始めたといえ結界師に対する侮りは消えぬか。
結界師の能力を見るに、統率下に入れるのならば魔法師団がいいとは思ったがこれではダメだろう。とてもじゃないが有効利用どころか反乱の意思を育ててしまう未来しか予測できん… どうするか。
考え事を続けながら2枚目の手紙を開く… どうやらすでに他国でも結界師の有用性を確かめるために動き出しているようだとの報告が書いてある。実際にジェードの街にある結界師の訓練場にエメラルド帝国のヒスイ皇女が自ら確認のために現れたと…
確かにエメラルド帝国とは隣国故に同盟関係にある。その関係も良好であり皇帝陛下も国土を増やしたいというような野心家ではなかったはずだが、やはり他国の戦力になる噂には敏感だという事か。
「しかし、いずれ帝国として正式に結界師を要請とはどういう事だろうか… おいっ! 宰相を呼んでまいれ!」
部屋を出ていった侍従が宰相を連れてくるまで考えをまとめておくか。
SIDE:ショウ
「良いですよニッケルさん! その調子で2枚の結界を維持です!」
「う… うぐぐ」
ダンジョンの10階層をあっさりと攻略できてしまい、戻ってきたらニッケルさんが自主練習をしていたので付き合う事にしたんだけど… うん、ようやく結界の2枚張りが成功したね!
まぁただ成功したというだけであり、それを有効に利用できるかといえば不可と言わざるを得ない練度だけど… でも最初はそんなものだよね? 出来るようになるまでが大変だと思うから、一度できたなら自主的に訓練が出来るようになるしモチベーションも上がると思う。
「ふ~、やっと出来るようになったと嬉しく思うけど、これを維持するのは大変だな」
「魔力的な意味ですか? それとも…」
「集中力の方… だね。しかしやってみるとさらに思うけど、よくショウ君… いや、所長は簡単そうにやっているけど才能の差を感じるよ」
「んー、まぁ俺は孤児院育ちでしたからね、ダンジョンで稼いでお肉を腹一杯食べてやるんだって燃えてましたから! モチベーションは最初から高かったと思いますよ」
「なるほど… 結界師だったからといって下を向いていた俺とは気の持ちようが違ったという事だな。だけどこれを覚える事ができたら、俺だってゴブリンキングを倒す事もウルフやウリボアを狩って肉を…」
「そうですそうです! だからこそ危なくなった時のために近接の訓練もやってるんです、逃げ足だって格段に速くなってるはずですよ!」
やる気を見せているニッケルさん… やはりお肉の魅力は絶大だね! 稼ぎにもなるし自分でも食べれるし、さらに言えば美味しいしね! まぁただ、問題があるとすればウリボアのお肉は大きくて重い事だがこれはしょうがないだろう。マジックバッグを買おうと思えば非常に高価だし、買えるだけお金を貯めるのは大変だろう。この街では随分減ったと思うけど、それでも結界師とパーティを組もうと思ってくれる人は少ない。やはりしばらくはソロ活動か、もしくは俺が一緒に行くとか他の結界師が入ればパーティをって感じしか無いだろう。
「よし、これを覚えないと次の技を教えてもらえないからな。まだ攻撃手段が無いからダンジョンで狩りとかできないけど、この訓練場に来てから本当にこの先生きていける気がしてきたよ。
食事は毎日出るし、鍛えてもらっているから体力も技術もついてきた。俺自身結界師の訓練場なんてと疑っていたんだけど… 今ではこの街まで俺を連れて来てくれたパワーストーンの連中には感謝しかないな」
「あはは! まぁ開き直れたんなら良かったと思いますよ。俺はまだ子供ですけどニッケルさんだってこれからじゃないですか、命を大事にしつつ、ちゃんと勝てるよう鍛えるんです。決して欲に溺れて無茶をしなくて済むようにね」
「ふはは! まさか12歳の子供にそんな事を言われるとはなぁ、所長は本当に子供には見えないな。でも所長には本当に感謝をしている、俺なんかで良かったら何でも言ってくれ、受けた恩は必ず返すから」
「そう気張る必要は無いですよ、まずは実戦に早く出れるよう… です!」
真正面から感謝の言葉を言われると… いや照れるって!
ニッケルさんはまだまだ自主練を続けるというので、俺は部屋に戻る事にする。振り返り歩き出すと… 屋内訓練場の天井を支える柱に影からこちらを見つめるオニキスさんの姿が… こ、怖いんですけど!
「オニキスさん… いつからそこに?」
「20分くらい前かしら」
「それって俺が訓練場に来た直後ですよね? もしかして… ダンジョンからとか?」
「そうよ」
今日は暇だったんだろうか…
「それはともかく、今朝の話は受付で聞いたわ。帝国の皇女が乗り込んできたって話ね」
「ああ… 俺も結局何がしたいのか良く分からなくて」
「それなんだけどね… どうやら帝国にある2つのAランクダンジョンで異変が起きてるという話をギルドで聞いてきたわ。帝国のギルドが総出で対処に当たっているとの事だけど、もしかしてこの国のギルドにも救援要請が来るかもしれない… そうギルマスが話していたわ」
「異変… ですか」
なにやらきな臭い話が舞い込んできたな… ギルドでもそんな話があったっていうのなら、ヒスイとかいう皇族がアレコレ動いているのも納得か? まぁでも異変の内容が分からないんだったらこれ以上想定のしようも無いんだけど。
「とりあえず夕食にしましょう。詳しくはその時に」
「あ、はい」
そうだね、まずはご飯!




