第61話 ようやくダンジョン
誤字報告いつもありがとうございます。
SIDE:ヒスイ皇女
「大至急帰るわよ! 自分の目で確認できなかったのは惜しいけど、ルビー王女がわざわざ嘘を吐くとは考えにくいから信用する事にするわ」
「了解しました… が、本当なのでしょうか? クレイジーチャボの事は知っていますが、とても正面から戦う魔物ではありませんよ?」
「でもギルドで拾った噂でも聞いていたし、何よりルビー王女が明言したのよ? 仮にも王家の者が、他国の王家の者に対してそんな嘘を吐くと思う? それこそ国際的な信用問題になってしまうわよ。
それに噂通りの訓練場という事であれば、そのクレイジーチャボを討伐できるというスキルだって教えているはず… ルビー王女も修練中だと言っていたから、急いでアズライト王国に要請すればゲッキョウダンジョンの間引きだって間に合うかもしれない。確認は大事だけど一刻を争うのよ!」
「それはもちろん分かっていますが… 開設したばかりの訓練場で、訓練生がルビー王女殿下だけだとしたら人員が足りないのでは?」
「それも含めて帰ってから検討するのよ。援助要請をして、あの少年が我が国に向かってくる時間でなんとか帝国内の結界師を集めるとかできるでしょう? さすがにルビー王女は来ないと思うしね」
とりあえず信用できないと不満顔の護衛を黙らせ、一路帝国へと向かう。
「活路が見えたのだから出来る事をしないと後悔するわよ? Aランクダンジョンからどれほどの魔物が溢れてくるのか… 生き残れたとしても周辺国にだって大被害が出る事は免れない状況なのだから、騒動の後に出てくる補償がどれだけのものになるか… 我が国が帝国として存続するためにはスタンピードそのものを抑えるしかないのよ!」
そう、スタンピードが起きてしまえば我が国だけじゃなく周辺国にだって多大な被害が出てしまう、特に隣国であるアズライト王国だって無視できないほどに。
アズライト王国に対してどのように要請するのかは分からないけど、この国だって被害を考えたら好意的に対応してくれると思うわ。帝国の蹂躙が終われば次はこの国だからね…
脅すわけではないけれど、我が国で抑えられなければ被害は免れないとなれば… 噂の結界師を派遣してくれるよね?
とりあえず今はこの情報を持ち帰るだけ、結界師の少年ショウという者はダンジョンでも活躍しているとルビー王女は言っていたから、多少なりとも戦闘慣れはしているはず。だから期待はしているわよ?
「それにしてもあのショウという少年… なんだかお兄様に似ていなかった?」
「はい、それは私も感じました。でもテンラン様に似ているというか陛下の面影があるように…」
「全く… まさかとは思うけど父上の隠し子とかじゃないでしょうね? その辺の事も戻ったら追求しないといけないわね」
「はぁ… ですがほどほどにしてくださいよ? スタンピードの件でお疲れのようですから」
「ダメよ、もしも父上が関係する間柄であれば要請なんてしなくても帝国に連れて帰れるじゃない! たとえルビー王女がかばったところで血縁が認められればこっちのものよ!」
「いや、血縁の確認がそもそも大変な作業なのではないですか…」
まぁいいわ! とにかく急いで帰るのよ!
SIDE:ショウ
なんだか良く分からないけど嵐は去ったようだ、時間的にそれほどロスはしていないし今からでもダンジョンに行こうかな! ルビー殿下は手紙を書くとか言ってたし、何より今日はお休みだったはずだから何も問題は無いよね!
ダンジョンに行く用意はしてあるからこのまま出てしまおう。あ、受付で対応してくれていた職員さんは労っておかないとね、突然隣国の皇族を名乗る人の対応させられたんだから心労は激しいはずだ。
予定通りギルドをスルーしてダンジョンへと直行する。やはり今日は今後の狩りを円滑にするために10階層を目指してみようかな。聞いている情報だとクレイジーチャボの階層を過ぎたら食材がドロップする階層は結構遠いらしい… それはいかん。
技の練習をするにも孤児院に寄付する食材のためにもやはり10階層より手前が至高だという事だ… もちろん現段階での話だけどね。
ゴリゴリと足早に進んで行く… 8階層の階段まではほぼ一直線に進む。9階層と10階層の魔物はすでに調べてあって9階層はサハギンという半魚人みたいな魔物が出て、10階層はそれらの上位種か亜種みたいなのが出るという。半魚人というとどうしても水場の魔物ってイメージがあるんだが、どちらの階層も水場ではないという… うん、不思議だね! そして途中でお昼用の串肉を食べ、とうとう9階層に降りる階段に到着した。
「よし、残念ながら9階層の地図は手元に無いから探索しながら進む事になるんだけど… トラップがあるとか聞いた事無いから多分足元は気にしないでも大丈夫かな。脇道らしいのは後回しにして10階層への階段探しがメインで!」
初めてはいる階層なのでじっくりと探索したいところだが、今日の目的は10階層の転移陣の開放だ。そうしておけば次回来るときはかなりの時短になるし、その時に色々と調べていけばいいだろう。
ソロ活動なので索敵から何もかも1人でやらないといけないから忙しいけれど、気力は十分だからイケるイケる!
お、早速魔物の気配がするね! ペタペタとスリッパで歩くような足音… これがサハギンの足音か。まぁ水かきが付いてるというからこんな音になるんだろうけど、ひっそりと忍び足で来られるより楽でいいね。
俺も今日は色々と復習したい事も多いからね、探してまで戦闘しようとは思っていないけど出会ったなら試させてもらわないとね。なんせ他者に色々と教えていると、欠点というか無駄なところというかそういうところが意外に目につくんだよね…
まずは気円斬。どうせ当たって砕けるんなら少しでも殺傷力を上げるために円形の縁を鋭利にしてみようかと… そうしたら砕ける前に少しは切込みが入るのではないかと思ったんだ。打撃で昏倒させるのも悪くはないけど、切れて出血するんならその方がダメージ的には大きいんじゃないかってね。まぁやってみないと分からないけどね! 昏倒をゲーム的に言うスタンとかそういった感じに受け止めればそっちの方が有利になる時もあるかもしれない、だから両方使えるようにして使い分けをすれば…
「ま、これも縁を鋭利にした気円斬の威力次第なんだけどね。よし、気円斬!」
ペタペタと歩いているサハギンに向かって新型気円斬を放った。




