第60話 不穏なやり取り
誤字報告いつもありがとうございます。
SIDE:ルビー王女殿下
ショウが階段の途中で不審者の如く階下の様子を探っていたので後ろから声をかけてみましたが、何やら階下が騒がしいようで降りるに降りれないとの事。しかもエメラルド帝国の第1皇女? 自国で偉そうな態度を取ることは結構ですが、我が国でそんな事をやられ、それを見過ごしたという事になれば王家の沽券にかかわりますわね
しかもショウが見ているなら丁度いいですね… 多少なりとも恩を売り、今後より親密になるには都合の良いイベントかもしれません。では、ちょっと張り切って参りましょうか!
「まぁお話を伺うにしても場所を変えましょうか、さすがに入り口でする訳にはいきませんでしょう」
「そうね、ルビー王女がいるのならこっちとしては都合が良いかもしれないわ、それでお願いするわね」
「ショウ、貴方も関係者なのですからこちらへいらっしゃい」
「ふぇ!?」
ふふっ、ショウったら変な声を出して。
でもそうね… 少し前にも思った事だけど、ヒスイ様とショウって何となく顔が似ているわよね… これは一体どういう事なのかしら、まぁこの件については知らん顔をしておきましょうか… 帝国の血を引くからとかふざけた理由で引き抜かれても困りますからね。
恐らくダンジョンにでも行こうとしていたショウを巻き込み、受付の裏にある部屋へと行きます。ヒスイ様には2名の護衛がついておりますが、その者達も一緒にという事ですね… まぁ帝国の皇女が他国の街で1人になんて出来る訳が無いので当然の事でしょう。こちらも部屋で待機していた護衛を呼び、同数で挑みます。テーブルを挟んでヒスイ様が座り、こちらはわたくしとショウが座ります。侍女がお茶の用意を済ませたところで話し合いのスタートですわ! 一体何を探りに来ていたのか、はっきりさせたいですわね。
「ところでルビー王女… そちらの少年は?」
「この方がこの訓練場の所長であり、わたくしの結界師としての師匠であるショウですわ」
「ええ? こんな子供が所長? 冗談では… ないのね?」
「もちろん冗談ではありません。冒険者ギルドジェード支部のギルドマスターと、Aランク冒険者のオニキスが後援しています。実際にダンジョンで活躍する冒険者ですわ」
ふふっ、さすがにこの事実には驚いたでしょうね。
結界師が誰も知らないスキルを開発し、それらを他の結界師のために訓練しようとするなんて、普通であればかなりの時間を修業に割いた老齢の者が… 恐らくそう思う事でしょう。
しかしここにいるのは僅か12歳の小柄な少年… 12歳と聞いてももっと若いのでは? と疑うほど小柄なのですから。
「そう… じゃあまず確認をさせて欲しいの、我が国にも噂は届いてきているけど本当なの? 結界師がダンジョンに入って魔物を倒してるって。しかも未知のスキルを使ってどんな魔物でも一撃だって噂は?」
「そうですわね、はっきり言ってしまえば国家機密に準ずる話になりますので他言は無用でお願いしたいところですが… わたくしも実際にこの目でスキルは見ましたし、クレイジーチャボと呼ばれる防御に定評のある魔物ですらも一撃で倒すそうですわ」
「本当の事なの? どうにも信じられないわ」
「別に信じなくても結構ですわよ? これは我が国の者だけが知っていればいい話ですから… まぁそのスキルも昨日から訓練中ですので、近い内にわたくしも自在に操れるようになってみせますわ」
「ルビー王女も使えると?」
「ええ、まだまだ修業中ですが」
さすがに驚きを隠せないようですね、一介の冒険者が言うだけの話ならば信じる事は出来ないのでしょう。まぁわたくしも実際に見るまでは信じていませんでしたから…
ですが、王族であるわたくしが明言したのだから信憑性は格段に上がっているはず。信じられない事だけど信じるより無い、そんな所でしょうかね。
まぁ世の中結界師の扱われ方がひどいのが普通ですから、突然そんな話をされても困るでしょう。わたくしも結界師だったからこそ良く分かります。
「それでヒスイ様、ヒスイ様は一体どのようなご用件でいらしたのです? 結界師の事を信じられないならば、ここに来る必要は無いのでは?」
「ぐっ… さすがにそれを今この場で言う事は出来ないわ、近い内に父上から公式に文書が届くと思うからそれを参照してもらいたいわね」
「なるほど、つまり結界師のスキルを確認しに来ただけだと。そしてそれを探る理由は後日… という事ですね? なんとも一方的なお話だと思いますが」
「それについては謝罪するわ、ただ私の一存で話をする事ができない内容なのでね… えっとそこの少年、ショウといったね? 帝国に来る気はないかな?」
「ええ!?」
はぁ!? わたくしの前でいきなり引き抜きですか? さすがにそれは配慮に欠けるという問題以前の事ですわよ? 先ほど間違いなく後ろ盾は王家だと言いましたわよね? さすがにこれは看過できませんね!
SIDE:ショウ
いきなり何を言ってるんだ? この皇女様は。俺が今後数十年は運営するであろう訓練場が立ち上がったばかりなのに、それを捨てて他国に行くわけないでしょう!
チラリと隣にいるルビー殿下の顔を窺ってみる… うん、いきなりの勧誘に青筋がピキって感じになっているね、この勢いなら断ってもフォローしてくれるよね? 信じてますからね?
「せっかくですが、この訓練場の所長を勤めている身なので動く事は考えていません」
「そう? まぁいいわ、この件に関しては父上を通して正式にアズライト王国に打診すると思うわ。その時までゆっくりと考えておいてね? もちろん待遇については保証するわ、まぁ最初は忙しいと思うけど」
あら、あっさりと引き下がった? というか帝国から正式にってどういう事なの? なんか俺の知らない所で何かが起こっているの? もう勘弁してよぉ~、俺はダンジョンに行きたいだけなんだから…
その後、「じゃあ帰るわ!」と言い残して颯爽と立ち去っていったのだった。ルビー殿下もなんとも言えない顔をしているし、これは何か一悶着があるって事なのか? しかも国をまたいで… なんか怖いんですけど!
「えっと、一体何の話だったんでしょうかね?」
「わたくしにもさっぱりですわ… とりあえず急いでお父様に手紙を書いておきます、何かあった時に後手に回らないように」
「あ、はい」
その辺は俺にはどうする事も出来ないな… でも『何か』ってなんだろう…




