第58話 本日も訓練日和
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俺とルビー殿下、そして護衛の2人と侍女1人という行列で屋外訓練場にやってくる。屋内だと天井が気になったりするからね、気円斬をやるなら外の方がいいだろう。それに攻撃力が低いから壁に当ててもきっと大丈夫だし!
とはいえ、さすがのルビー殿下でも気円斬を覚えるには時間がかかるだろう… なんせ結界を放り投げるなんて想定すらしていないはずだし、そもそも結界の形状を変えなくちゃいけないからね。
長方形のまま飛ばすと、途中で軌道が曲がったりと意図しないコントロールミスがたびたび起こるから、やはり気円斬は円形の方がいいと思われる。あくまで自分調べでの話だけど。
「それではまず、こう結界を円形にして頭上に配置します」
「円形ですか? なるほど、ちょっと真似してみますか」
円形という部分に反応を見せたルビー殿下だが、俺が見せた手本を見て真似をしてみるとの事。まぁ完成品が目の前にあれば模倣はしやすいからね、それだけでも十分な教育だと思う。前例の無い事と言うのは結構厄介で、中々とっかかりが掴めない事って良くあるからね。
ルビー殿下は頭上に結界を展開しながら、張っている結界の形を変えている。すごいよね、俺は円形の結界を強くイメージしながら張っているけどルビー殿下は張りながら造形をしているんだから… これは俺にも予想外のやり方だ。
そしてイメージが完了したのか、円形の結界を何度か頭上に張ったり消したりを繰り返している… ここまで大体10分くらいだ、多分ニッケルさんにやらせたらもっと時間がかかるだろうな…
「ふむ、それなりに円滑に展開が出来るようになったと思いますが、これからどうすれば?」
「早いですね、さすがだと思います。ではちょっと壁に的を置いてきますので少しお待ちください」
待っている間に置いて来ればよかった… しかし狙って当てるだけの的当てだ、何本かの木材を立てかけるだけで良いだろうからパパっと終わらせる。
「では行きます。気円斬!」
頭上に張った結界を魔力を籠めて放り投げる。物理的に投げるわけではないので筋力などはここでは関係がない… 多分だけど。
ルビー殿下の目にもよく見えるよう速度を落とした気円斬は、狙った通りに壁に立てかけた木材の1本に命中し、音を立てながら割れていった。
「なんと! 今投げましたか?」
「はい、投げました。これは俺もまだまだ練習中なんですが、投げる時に籠める魔力量に応じて速度が変化するところまでは調べ終わっています。そして投げてしまうと何かに接触して割れない限り消えませんが、当然コントロールも離れてしまうので空中で軌道を変えたり… なんて事は出来ません」
「しかしというか、割れる時に出る音さえなければ隠密性も高かったでしょうに… さすがにそこまで言うのは欲張りですわね」
ふふふ… やはり結界を放り投げるというのは完全に想定外だったようで、護衛騎士の人も含めて驚愕といった感じである。まぁ普通結界を投げようなんて思わないからね… 俺には前世で見たアニメの記憶があるから応用しようと思えたけど、さすがにこの世界の人には結界に対する固定概念が強すぎるだろうから思いもつかないのだろう。
「投げれば必ず当たるというわけではありません、速い速度で投げる事としっかり狙った場所に向けて飛ばす事を何度も練習して覚える… こんな感じですかね」
「なるほど… 次元断に使う結界よりも小さなサイズで済みますから魔力消費も少ない、でも投げる時に魔力を使うから… 効率についてはちょっと難しいところですね」
「そうですね、これは効率というよりも自分が優位に立つための牽制用として考えているので、そこまで考えなくても良いと思います」
ふむぅ… まさかコスパの話をしてくるなんてね、意外にルビー殿下は効率厨なのだろうか。
まぁ実際にダンジョンで戦っている身としては、そういった効率も大事だけど生きて帰る事が最優先だから、細かい事は良いんだよ! ってなっちゃうんだよね。
「それであれば、壁に的を置かなくても印さえつけておけばいつでも練習ができるのでは?」
「なるほど! 確かにその通りですね! じゃあせっかくなんでしっかりと距離を測って練習基準を作りましょう」
ぐぬぬ… またしても考えていなかった訓練メニューの穴が… しかもルビー殿下に指摘されてしまうとは情けない。
でもルビー殿下の案は即採用だね! 壁に何個か弓道の的のような絵を描き、ある程度距離の離れた場所に『ここから撃つ』って感じで線を引けばいかにも訓練場と分かるだろう。
訓練メニューについては色々と考えていたつもりでもやっぱりまだまだだね… でもまぁ過去に例のない結界師専用の訓練場だし? これから経験と実績を重ねればどんどん良くなっていくだろう。
そう! まだまだこれからなのだよ! これから10年20年と積み重ねてどんどん良くしていけばいいんだ。たとえ20年経ったとしても、その時おれはまだ32歳だからね! これからこれから!
そんな訳で始まった気円斬の練習、元々魔力が多めだというルビー殿下は何度も何度も的を目がけて気円斬を繰り出す。しかし…
「あの、先ほども言ったように速度の調整は魔力でやるんで、力一杯腕を振らなくてもいいんですよ?」
「はっ!? そ、そうでしたわね…」
うん、なんか全力投球って感じで腕を振っているからさ、あれだと体力的に疲れてしまうから訂正だけはしておかないとね。
それでも30分も経つと、すっかり気円斬に慣れてしまったようで手慣れた雰囲気を醸し出している。やっぱり才能あるんだな… 手本さえ示せば何でも吸収してモノにする、こういった才能は師匠がいれば開花が早くて羨ましい。しかも自分で何かできないかと考えるくらいは積極的な性格のようだし、その内俺の知らないオリジナルを考えてしまいそうだね。
そして夕方になる。夕食の前に汗を流すという王族のために訓練終了時間は割と早めだ…
「ふぅ、今日も有意義な訓練でしたわ。貴方の知恵をもって今後も新しいスキルの開発を切に願います」
「はぁ、まぁ自分もダンジョンに入りますんで、身を守るために色々と考えますけどそんな簡単にポンポンと思い浮かぶわけではありませんよ?」
「それでも、貴方の考えたという『次元断』と『気円斬』は、これまでの常識を覆すだけの使用方法です、これだけでも今後結界師の評価は大きく変わると思いますが、これを利用しようとする馬鹿者に対抗できる護身用の何かを考えてもらえればと思っています」
「なるほど… 検討しましょう」




