第55話 ルビー殿下の才能
誤字報告いつもありがとうございます。
「えーとそれでは少し待ってくださいね、的になる物を持ってきます」
ルビー殿下の言い分も尤もだと思い、俺は慌てて切断しても問題無いような物を探しに行く。まぁ訓練場を作る時に余った資材で良いだろうから早速取りに行く。
屋外訓練場の片隅に積み上げられていた木材を数本マジックバッグにいれ、走って屋内訓練場へと戻る…
「それではこの木材を使って実践してみますね。一応現状ではジェードダンジョン8階層に出現する、防御力が高いと言われているクレイジーチャボまで一撃で倒せています」
「ほぅ」
声を出したのは護衛に立っている騎士さんだ、この人はクレイジーチャボの事を知っているみたいだね。
「えーと、技の名前は次元断と名付けている俺のオリジナルなんですが…」
そう言いながら立てかけた木材に狙いを定める。間違っても壁を破壊してはいけないからね! こういった訓練用に的を立てかける何かを作っておかないといけないね、やはり始めてみると色々とボロが出てくるもんだ。
「次元断!」
パキィィィィン! カラン…
「おおお…」
「……」
よし、バッチリ立てかけた木材のみの切断に成功! ルビー殿下は口を開けたまま驚いているし、護衛の騎士さんはまたしても声を出していた。
「こんな感じですね。そして熟練度なのかレベルなのかはまだ分かっていませんが、今の俺で射程は2.2メートルくらい… これくらい接近しないといけないので午前中にやっている基礎訓練は非常に重要となっております」
「なるほど… これは確かにすごい威力だと思います。わかりました、貴方の指導に従いましょう」
「では… まず最初に…」
実践してみたところ、ルビー殿下だけじゃなく護衛の騎士さんや侍女の人まで大人しくなり午後の訓練は滞りなく進められた。
というのも、騎士さんや侍女さんはいつだって俺を睨んで来るんだもん! 別に俺が何かやったわけでもないのにね… 多分平民だからって理由だったんだろうけど大人しくなったのは正直言ってかなり有難い。
訓練してみたところ、ルビー殿下は魔力が高いらしくてあっさりと2枚張りを成功させ、前だけでなくて左右同時や重ね張りなんかも簡単にやり遂げてしまった。
うーん、これはある意味才能があるのかも? 結界師だからって理由で重宝されることは無かったんだろうけど、しっかりと努力はしていたんだな。ちょっとルビー殿下に対する好感度が上がったかも。
そしてなんと! 夕食の時間になる頃には2メートルほど離れた場所に、結界を真横水平に張る事に成功した! これはもう次元断を使えちゃうね!
まさか初日でここまで出来るとは… こればかりは結界師として何かできないかと努力していた結果なんだろうと思うけど、ちょっと早すぎやしませんかね? まぁいいけど。
「では今日はこのくらいにしましょう、明日は的を用意しますので実際にやってみて切断してみましょうか。他にも技があるのでそっちの方もやってみるのも良いかもしれませんね」
「ありがとうございます。まさか結界にこんな使い方があるとは思いもしませんでしたわ、さすが王都にまで噂が流れてくる事はありますね。
非常に楽しい訓練でした、明日の訓練も楽しみにしていますよ」
「では、本日はお疲れさまでした」
ルビー殿下が訓練場を出ていく姿を確認し、俺もホッと一息をつく。
「ふぃ~なんだか気疲れがものすごい感じだな、まぁ素直に話を聞いてくれて訓練も真面目にやってくれたから良かったけど」
しかしアレだ、まさかの2日目にして次元断の実習になってしまうとは! これはすぐにでも的を立てかける物を作らなくては!
まぁ立てかけるだけだから、特に手が込んだ製作ではないのが救いだな… それでも今後のためにはしっかりとした物を作っていかないといけないだろう、今回は応急措置って事で手早くやってしまおう。
実際には木の枝や板切れを立てられればいいので、イメージ的には傘立てのような感じでいいかな。あれなら枝でも板でもどうにかできるだろうし、作るのにもそれほど時間がかからないだろう。
しかも職人に頼まなくても恰好だけはつけられるからそれにしよう! 夕食までもう少し時間があるから今のうちにやってしまった方が安心だからね!
SIDE:ルビー王女殿下
「しかし驚きましたね、木の板とはいえあれほど容易く切断するなんて」
「はい、しかも話に出ていたクレイジーチャボとは前面の装甲が非常に硬くて有名な魔物でして、倒す事はそれほど困難ではないにしても装甲を破るという事に限っては我らでも難しいと思います」
「そう… 噂は真実だったという事ね。ではこれより陛下の言いつけ通り、彼の信頼を得られるよう行動を開始します。貴方達もいい加減睨むのを止めて敬意をもって接するように… いいですね?」
「「はっ」」
「ふふふ、明日からはあの技… 次元断が私の切り札となるのですね、他にも技があると言っていましたから今から楽しみですわ」
「そうですね、我らも訓練の様子を見ながら、もしも結界師と敵対した時のために対策を考えてみます」
「ええ、その辺はお任せするわ。まぁ現状ではあの技を使える者はショウという少年のみでしょうけど、どこで情報が漏れるか分かりませんからね。対策までしっかりやって正解だと思うわ」
まぁわたくし自身が前線に出る事は無いにしても、その知識と訓練方法は王宮に持ち帰らないといけません。
実際に訓練をしてみた感想としては、「そんな簡単な事で?」という印象が大きかったんですけど、過去これまでの為政者や結界師本人達がこれらの発想に至る事がなかったという事実が大事なのです。少年だからこその発想だったのか、他の結界師がいずれこの発想に辿り着くのか… まぁ無理でしょうね。
長い歴史の中でこの発想に辿り着いた者は今までいなかった訳ですし、あの少年ならではと考える方が妥当でしょう。明日には別の技を見せてもらい、その技次第では本当に王家で囲う必要が出てくるかもしれません。
そうなると… お父様、婿に取るとか言い出すのではないかと… まぁ顔だけは良い感じですから? それほど悪いとは思いませんが、どこの家の養子に入れるのでしょうかね… 最低でも侯爵家にして下さらないと王家としての体面がありますからね?
「とりあえず今日の事は手紙に書いて報告しておきましょうか」




