第54話 新たな訓練生が!
誤字報告いつもありがとうございます。
そして残された俺とおじさん… 一体どうしろと? でもまぁ、いい歳して危なっかしいおじさんには言ってやりたい事も多少はあるから言ってしまおうかな。
「えっとですね、契約書を交わすとたとえどんな内容でもお互いが了承したという事にされてしまい、それを破ると捕まってしまうんです。もっとしっかりと話し合ってからやった方がいいですよ?」
「ハハハ、あんたみたいな子供にまでそんな事を言われるとはね… でも仕方がなかったんだ、仕事も無い金も無い、食う物も何も無いところにそんな話をされちゃ藁にでも縋りたくなるんだよ」
「そうかもしれませんけど、さっきの話の内容だとおじさんには絶対まともな給金は出さなかったと思いますよ? 利息だとかなんだとか言って支払いが終わってないとか言い出すでしょう。それだと全然変わらないですよね」
「ああ、今考えたらそうかもしれないな。空腹で倒れそうな時に食い物をくれたんでね、多少割を食ってもいいかって思っちまったんだよ」
うーん、やっぱり食い物の恨みは恐ろしいと良く聞くけど、逆に食い物で恩を受けるとそれを返そうと割を食っても仕方ないと思ってしまうんだな… このおじさんお人好しが過ぎるかもしれないね。
それから少しの間、微妙な空気の沈黙が続き… もう帰ろうかと思った時、ギルドマスターが戻ってきた。
「おいっ、どんな契約してんだよ! これじゃ奴隷と同じだぞ? もしかして読み書きができないのか?」
「ええまぁ、田舎の農家の生まれなんで、文字の読み書きは必要とされてませんでしたから」
「それにしても… これはひどいぞ。いつでもどんなときでも雇用主の命令を聞かなければいけないとか、雇用主に労働の効果を認められなければ給金は支払われないとか… 読み書きができないのを知ったうえで無理難題を書き連ねたって感じだな。まぁ内容も馬鹿っぽくて低能だと丸わかりだが、これでも契約は有効とされてしまうだろう」
うええ、確かに内容は馬鹿っぽいけどひどい話だな。特に労働の効果が認められなければって所… 難癖付け放題じゃん。いつでもどこでもってアホらしいにも程があるわ。
「まぁこの契約に関しては、領兵が到着したら話をして契約解除をしてもらうが… 問題無いよな?」
「はい、ありません」
「うむ。よし、それじゃあショウ、この者を宿舎に入れてやってくれ」
おや、この人はギルドマスターの面接をパスしたって事になるのかな?
「分かりました… もう今日からですか?」
「ああ、さすがにルビー殿下と一緒に訓練は警備上できないが、別メニューでやるようフォーカラットには俺から言っておく。後は食堂の方にもな」
「分かりました」
そんな訳で! 一般人の訓練生第1号が入所しましたよ!
それじゃあ早速訓練場に連れて行こう、さすがに今のおじさんの状態では宿舎のベッドに寝かせられないから早急に水浴びをしてもらわないと!
ちなみにお風呂があるのは3階だけで、3階に住む俺やオニキスさん、メイドさん以外は特別なお客さんのみ利用できる事になっている。一般の訓練生は水場があってそこで水浴びって事に… さすがにお風呂の文化は平民には馴染みがなくてね、水浴びするのが一般的だからそういう仕様になったんだ。
「じゃあ案内するので来てくださいね、こっちです」
「あ、ああ。しかしあんたは一体?」
「こいつが訓練場を運営する結界師のショウだ、見た目はこの通りガキだがダンジョンに入れば強いぞ?」
「えええ? こんな子供が噂の?」
見た目はガキって… まぁ間違いではないから言い返せないけどひどい言い方じゃないかな? まぁとにかく水浴びをしてもらわないとちょっと臭いよね、急がないと!
その後、聞いた話では『パワーストーン』の人達は領兵に連れて行かれ、結んだ契約は強制解除になったそうだ。調べた結果、この契約を結ぶ時に利用した商会もグルであることが発覚したんだとか… この街には良い人が多かったから気にしてなかったけど、やはり悪党というのは一定数いるんだなと理解した。この街の環境に馴染みすぎて油断していた自分を恥じて、もっとしっかりしようと心に決めたのだった。
ちなみに余談だけど王都で話題だったらしい『パワーストーン』は、想定通り悪い方で話題になっていたとの事。素行は悪いし口も悪い。受けた依頼の達成率も低ければ、依頼主である商人と喧嘩をすることも多々あったとか… そしてトドメは商人の護衛依頼中に、狼系の魔物10体ほどに襲われた際には護衛対象を置いて逃げていったんだとか。その件が決め手となって王都を追放されたんだってさ… 馬鹿じゃないのかね。
そんな訳で結局ダンジョンに入る事も出来ず、良く分からない騒動を見物しただけで今日という日は終わってしまったのだった。
翌日、午前の訓練は二手に別れて行われる事になり、俺とおじさん… ニッケルさんがセットで体力作りをし、ルビー殿下はマンツーマンで特別メニューでの訓練となった。
まぁアレだ、昨日の午後の訓練は来なかったけど今日の訓練に出てきたって事はやる気はあるのかもしれないね… 体力作りとか速攻でサボりそうな案件なのに。
とにかくニッケルさんに関しては大急ぎで仕上げていかないとダメなんだよね、なんせ着の身着のままで来てるもんだから装備どころか着替えすらない状態だ。水浴びをして随分とさっぱりしたみたいだし、昨日の夕食と今朝の朝食を食べたせいか顔色が昨日よりも段違いで良いのは救いだね。
後は農家出身だって言ってたから体力はそれなりにあるだろうし、ルビー殿下よりも仕上がりは早いだろう。
とりあえず食べ物と寝る場所はあるから、着る物を手に入れるために稼いでもらわなくちゃね!
そして午後になり、今度こそ結界の訓練初日! ニッケルさんには引き続き体力作りをしてもらい、俺はルビー殿下との訓練だな。
「それでは始めたいと思います。まぁ結界師なのだから結界を張るくらいはできるものと考えてもいいですよね?」
「ええ、わたくしも結界に利用価値はないかと探っていた時期がありましたので」
「そうですか、それでは今日の訓練内容は…」
「ちょっとお待ちなさい。まずはゴブリンキングを倒したというスキルを見せて頂いても? 信用しない訳ではありませんが、やはりどういうものか自分の目で確かめたいと思います」
敬語というか、上品に喋っているけれどやはり王族… 断れないような威厳を感じるね。




