第51話 待ち人来たらず
誤字報告いつもありがとうございます。
SIDE:オニキス
「だから言ってるでしょう? あまりギルドにお金を使われると訓練場の主導権が変わってしまうって。だから訓練場の運営が軌道に乗るまでは私が援助するから平気なの!」
「おいおい、そうは言っても俺にだって面子はあるんだ。訓練場のために料理人の雇用が取れたり受付業務だって必要な能力を持った職員がやらないといけないだろう? こっちの都合も聞いてもらっている以上人材と金はしっかりと出したいんだ。もちろん色々と融通を利いてもらいたいっていう下心もあるがな」
「それが不要だと言っているのよ!」
まったくこの義兄は… 私とショウ君の新しい職場を乗っ取ろうとでもしているのかしら? 大体初っ端から王女を連れてくるなんてそこからおかしいのよ。
確かに他の腐った貴族や他国の関係者に対する牽制には一番良いと思われる後ろ盾だけど、それにしたってねぇ…
「とにかく、まだ稼働実績が無い状況だから正確な数字は出せないけれど、どれくらいの経費が掛かるのかを予想するわよ。そして出た経費から誰がどれだけ負担するのか… もちろんショウ君からは、全部払うのが普通だからって意見はもらっているけどそういう問題じゃないからね」
「もちろん分かっている。とりあえず料理人と事務員の給金、生活用魔道具に使用する魔石はギルドで負担しよう。ショウが年齢不相応なほど金を持っているのは知っているが、だからといって俺達ギルドが訓練場の開設を押し付けたようなものだからな… もう少し何かしたいと思っているぞ」
「全く… まぁ利権目当てのギルド職員だっているでしょうに、そこら辺はどう考えているの?」
「ああ、全く頭の痛い案件なんだが確かに貴族の立場が忘れられない愚かな他支部のギルドマスターがいるのは事実だ。そこら辺は俺の方で上手くやるさ、出資人名義を『冒険者ギルド』じゃなくて『冒険者ギルドジェード支部』にするだけでも外部からの干渉をある程度排除できるからな」
「グランドマスターが汚職に塗れてなかったら… でしょう? はっきり言って当てにはならないわね」
「まぁそう言うな、ショウのバックには王家がついているんだ、そして正式な書面がある以上そうそう大きな動きは出来ないはずだ」
「だといいけど」
全くもう… こうして王家を巻き込むような大事にするから対処が大変になるんでしょう。ショウ君の予定通りひっそりと訓練場を開設していれば、私が護衛となって敵を排除すれば何も問題は無かったというのに。
まぁ大貴族が絡んで来れば面倒なのは確かだけど、そもそも結界師が強かったなんて言っても、他の地域の冒険者は誰も信じないだろうから安全だったかもしれないのに。
でもいいわ、ショウ君の身辺は私が守ればいいんだし、これだけ大事にしたからには義兄とはいえ面倒事は押し付けて利用させてもらうわ。せいぜい覚悟してなさい。
SIDE:ショウ
ふぃ~、基礎体力と体幹の訓練がメインだったけど非常に質の高い訓練だったぜ。すっかり疲れたな… まぁ王女殿下ほどではないけれど。
俺の横には両手両足を地面について息を切らしているルビー殿下がいる… まぁそうですよね、まさか王女様ともあろうお方が体力なんてある訳無いし。もちろん俺とは違うメニューで訓練をしていたけど、それでも体を動かす事なんて… 歩くこと以外しなかったのではないだろうか。
午前の訓練が終わったわけだけど、これからお昼休憩を挟んで俺による結界の訓練があるんだが… これはできるのかな? もしかしたら疲れ果ててまた明日なんて言われるかもしれないな、王族だけにきっと我儘な部分もあるだろうから中止になるかもと覚悟しておこう。
「では、昼一の鐘が鳴ったら… いや、初日ですしお疲れのようなので昼二の鐘にしましょうか、その時間になったらこの場所で結界の訓練を始めます。体力は使いませんが魔力は結構使うと思うのでしっかりと休憩してください」
「え、ええ分かったわ。午後もよろしく頼みますよ」
息が整ったのか、それでもヨロヨロしながら侍女と護衛と合流して屋内訓練場を出ていった。
「ふぅ、ちょっとやりすぎたか?」
アゲートさんもなんだか心配そうですね…
「うーん… 王族というんであれば、今まで運動といえば歩く事しかしていなかった可能性もありますからねぇ。でも足腰を鍛えて困ることは無いですからね、生きている限り」
「そうだよな? もう途中から侍女の目が厳しくてよ… ずっと睨まれていたぜ」
「その点護衛の人は、体力が大事なことだと知っているから分かってくれますよね」
「ああ。じゃあ午後からは俺達は軽くダンジョンに入ってくるから、後はまぁ頑張れや」
「はい、何とかやってみます」
フォーカラットのメンバーも、食堂で昼食を取ってからダンジョンに行くとの事で解散となった。よし、俺も戻ってお昼にしよう。
俺の食事は3階で待機しているオニキスさんが連れて来ているメイドさんに賄ってもらう事になっている、いっそ俺も食堂で食べてしまえば不要な労力だと思うんだけど… オニキスさんが「所長が食堂で訓練生と一緒に食べてたら示しがつかない」と言って譲らなかったのでこうなってしまった。もちろん王女殿下の食事は毒見とかの都合もあったりするので、専属の侍女さんが調理も配膳もやるんだって… まぁこれはしょうがないと思うからいいけどね。
…で、昼二の鐘がもうすぐなる時間なので屋内訓練場で待機する。
もちろん王女殿下はまだ来ていない… まぁこの世界、5分前行動とかそういった概念が無いので少しは待つ事になると思うけどね。
さて、訓練メニューなんだけど… まずは結界師の職に就いていれば誰でもできるであろう板状の結界を張る事、それを復習していこうと思う。もちろんただ出すだけじゃなく、正面に出したりあっちに出したりこっちに出したりと多様性を持たせてね。それを普通にこなせるようになったら限界まで遠くで出すという事をやっていこう… まぁ今日中にそれらが出来るようになれば、斜めに張ったり横に張ったり練習して、必殺技のための基礎訓練に移ろう。
まぁ普通に張ったら目の前に縦に出るからね… それじゃあ気円斬も次元断もできるわけないからそれらの基本姿勢ともいえる真横の結界を自然に出せるように練習してもらおう。




