第49話 お前の技を見せて見ろ!
誤字報告いつもありがとうございます。
さすがに完成式の翌日から訓練場として稼働することは無かった。まぁ当然だよね、まっさらな状態の訓練場で何の訓練をするんだって話だよ… まぁ魔力絡みの訓練は出来るけど。
それはさておき、今日はギルドから派遣されてきた事務員とフォーカラットの4人との打ち合わせが朝から始まった。
事務員さんは受付に座ってもらい、訓練場に関わる書類の作成と受付業務… もちろんまだ稼働していないのでそっちは後回しだね。事務仕事はギルドと同じ仕組みで事務をするから書類のひな型を作成し、今後訓練場の各所で使っている生活用魔道具の魔石や宿泊している人のための食費などの経費が計算されていく事になる。
「それじゃあまずは、結界師がどのような手段で近接戦闘を対処していくか… ショウは槍を使っているんだったよな?」
「そうですね、得意技の射程は2メートル前後なのである程度引き込まないといけなくなりますから、魔物が複数いた場合は一度にまとめて襲ってこれないような立ち回りを考えてます」
「ふむふむ、そうか。とりあえずギルマスからチラっとは聞いているが、その結界師の切り札とも言える必殺技を一度見せてもらおうかと考えている。その威力や範囲、連続した攻撃だとどれほどの速さで連射できるのかを知っておいた方が近接戦闘の目安をつけやすいからな。
もちろんそれが秘密って訳じゃないんだろう? ショウが槍を使うからといって全ての結界師が槍を使いこなせるかどうかは別問題だからな、必殺技を見てから各種武器での立ち回りを考えてみようと思ってな」
「なるほど、確かにそうですね。戦闘に不慣れなはずの結界師がいきなり近接戦闘というのも難しい話ですから、それぞれが得意だと思える武器を持った方がいいですもんね」
「その通りだ」
さすがはフォーカラットのリーダー、アゲートさんは色々と考えているんだな。
確かに俺はたまたま手ごろな槍が手に入ったから使っているけど、他の人が使う武器だなんて考えてもいなかった。やっぱり指導員というかそういった立場の人がいるだけで空気が引き締まるよね。
「よし、じゃあ早速ダンジョンに行ってみるとするか。ショウは今何階層で狩りをしているんだ?」
「8階層でクレイジーチャボを相手にやってます。硬いと言われているそうですが、なんか相性がいいみたいで」
「ほほぅ… ソロで8階層っていうだけでも大したもんだが、あのクレイジーチャボと相性がいいなんて羨ましいぜ」
ニコニコしながら俺の肩をバンバン叩くのは止めてください! 見ての通り貧弱で打たれ弱いんですから!
「定番の戦い方としては、クレイジーチャボは自身の防御力に相当の自信を持っているせいかすぐに足を止めて攻撃を受けようとする癖があるんだ。そこで足を止めたクレイジーチャボを盾役が引き付け、手薄になった背後から魔法や弓などの遠距離攻撃で仕留めるというのが安全なパターンって訳だな。
魔法師や弓師の方に気が向いたと思ったら盾役が攻撃してまた気を引く… 確かに胸元部分は非常に硬くて剣ですら弾かれるほどだが、真後ろはそうでもないんだ」
「そうなんですか。確かに槍を向けると「かかって来い」的な態度を見せてきますもんね… まぁ俺の場合は槍が囮なんですけど」
「そういった事情でな、魔法師や弓師などの強力な遠距離攻撃手段を持たないパーティには最初の鬼門となる相手だったりするんだよ。
まぁ剣なり槍なり技術があれば、胸元を攻撃するふりをして足から削るとかできるんだが… クレイジーチャボも結構図体が大きいから、かなり威圧されて上手くいかない場合が多いんだよ。特に8階層に来たばかりのパーティならな」
アゲートさんの説明を聞きながらダンジョン内を歩いて行く。
現在は、普通のパーティならどうやってクレイジーチャボを相手にするのかという話を聞いている。しかし聞けば聞くほどクレイジーチャボの防御力というのは高いという事に驚かされる… なんでも上級冒険者がミスリル製の武器を使ってようやく傷をつけられる程だというのだから。
「まぁ戦い方次第で特に危険も無く倒せる魔物なんだが、正面からあの防御を叩き斬れってなると難易度はAランクなんだよ。だからこそお前の必殺技ですんなり両断っていうのは、垂涎ものの攻撃力って思われる事だろう。
今はまだこの町にいる冒険者しか知らない事だが、これが世に広まればどうなるか分かるだろう? 碌に接近戦も出来ない結界師を引き連れてダンジョン深層に入ろうとする輩が大勢増えるだろう。
現状ではその必殺技はショウしか使う事ができない、そしてそれらを習得するための訓練場がある。どうなると思う?」
「申し込みが殺到する… ですか?」
「まずその前に結界師を確保しようと動くだろうな… まぁ普通に契約されればいいんだが、今までの慣習で足元を見たり安い金で連れ出そうとするものが現れるだろう。
だから訓練場の申し込みは冒険者ギルドで行って、面接をするって事になったんだ。そうしてやってきた結界師の待遇などを聞き、怪しいと思われるパーティを弾こうというわけだな。これは今後冒険者ギルドで周知を徹底し、表面上だけでも不遇な扱いを受ける結界師を減らそうと動き出すそうだ」
「な、なるほど…」
確かにその通りだな… 今までの慣習がそんな簡単に抜ける訳が無いから、結界師だから金なんて払わなくても良いだろうとか、訓練にかかる費用を出してやるんだから身を粉にして働けとか十分あり得る話だ。
そこのところ気にしていなかったな… いいように使われて身を削るなんて、一体どこのブラック企業だよ! そんなの絶対許すまじ!
「まぁそんな訳で、まずは実績作りからしっかり始めないとな。まぁ王女様が乗り込んで来るとは俺も思っていなかったが、向こうからは普通の訓練で良いと言われたんで予定通りの近接訓練はしようと思っている。ショウも王女様が相手なら気後れするだろうが… まぁ頑張れや」
「はい… 気後れというか俺なんかがって気持ちが大きいですが」
フォーカラットのメンバー達も、ご愁傷様とでも言いたげな態度で苦笑いをしている。王女殿下がどんな種類の近接武器の訓練をするのかは知らないけど、それを言うならフォーカラットのメンバーも同じだと思うな。
あの護衛の騎士や侍女さんだって鋭い目つきで見てくるから、どこまで厳しくやっていいのやら… ああ悩ましい問題だ。




