第43話 アズライト王国動く
誤字報告いつもありがとうございます。
例のなんとか男爵の件から1ヶ月が過ぎた。訓練場の土地については深くは聞かなかったが折り合いが付いたらしくて街の外… 一応町を囲む防壁に沿う形で建設される事になったのだ! 遠くから見たら防壁の一部が俺の訓練場になるように見える感じになるそうだ。
オニキスさんが張り切って土魔法使いを集め出し、人員が揃い次第建設に取り掛かるという事で話を聞かされた。当然言い出しっぺの俺が、「じゃあよろしく」で終わる訳もないため詳しく話し合いをする事になり、俺のギルドに預けている貯金から建設費を持ち出す事で何とか決着。
もちろん全額出して当たり前だと思っていたんだけど、ギルドも支援するという事で総建設費の3割を出してくれると言い、オニキスさんも3割を出すとの事… つまり俺は4割という事だね?
もしこれが地球世界での起業 という事ならば、4:3:3割の出資ならばほぼ対等の経営者となる感じだろうか… こうなってはもう「俺の訓練場」とは言えないかもしれないな…
そして最大のニュースが… 俺の後ろ盾になるという貴族がなんと! アズライト王国の王家という事になった! なぜ王家が絡んできたかというと… 今年18歳になる第2王女様が、公式には発表されてはいないが実は結界師だったという事。不遇職の代表とも言われる結界師になってしまったため、どこにも嫁に行く事が出来ずに王城にてひっそりと暮らしていたとの事だ。
そんな時に俺の事が話題になったものだから、王家としても第2王女の価値を高める意味もあるんだろうけどバックに就く事になったという事だ。これは正式にギルドを経由して俺に支援表明が出されるとの事…
「訓練場自体は建設が始まれば5日もかからずに完成するって話だし、本格稼働は割とすぐかもしれないな」
ジェードの街にも噂を聞いたであろう生活に苦しむ結界師が集まりつつあるというし、俺もこんな若造もいいところだけど師匠となるべくしっかりと練度を上げていかないといけないな!
こうなればいいなって思っていた事の、そのとっかかりがこんなに早くに実現するなんてオニキスさんには頭が上がらない。もちろんここがゴールというわけじゃないから、気を抜くには早すぎるけどね!
そして影から俺を襲おうとしていたという『ブラックジュエリーズ』のメンバーとブラックパール男爵家の処遇だけど… 王家がバックに就いたという事により見せしめとして厳罰に処される事になったとの事。
『ブラックジュエリーズ』の4人は冒険者資格剥奪の上、殺人未遂的な罪状によりとある鉱山に送られ、ブラックパール男爵家は降爵になったという事だ。
しかし男爵の下ってあるんか? って思ったんだけど、どうやら準男爵という爵位に落とされたという。この準男爵っていうのは爵位を継承する事の出来ない一代限りの爵位なんだそうで、現当主が存命中は王家のパシリとして働かされていずれ消滅するという事だ。
そう聞くとなんだかやりすぎじゃないかって思うけれど、さすがに王家が決めたことを俺ごときが口出しなんて出来る訳もなく… ね。
「まぁアレだ! 考える事はいっぱいありすぎて困っちゃうけど、とりあえずダンジョンに入って経験値を貯め、スキルアップに励まないとね! そのついでにお金とお肉を…」
そう、まずはダンジョン! 今日もいっちょ稼いできますかね!
─アズライト王国王都、王城─
「お父様、身支度は滞りなく整いました」
「うむ、しかし現地での準備が整ったという報告が来ておらんからな… 連絡が来るまで待つがよい」
「分かりました。ですがお父様、本当に結界師のスキルが革命的な攻撃力を持つ事などできるのでしょうか?」
「儂も半信半疑なのだがな… 王都のギルド職員が実際に見てきたんだそうだ、ゴブリンキングを一撃で倒すところを。しかもガーネット子爵領ジェイドの街にあるギルドマスターまでもが認めているとの事だから嘘とも言い切れん、要確認ではあるがな。
だがもしそれが本当であれば、その圧倒的な攻撃力を持つスキルを他国に流出させる訳にはいかん! それは分かるな?」
「それは… そのスキルを編み出したという少年の下に嫁げという事ですか?」
「さすがにそれはできんな… いくらなんでも平民の孤児に対して王家の血を出すなんて事をすれば、我が国に仕える貴族共が黙ってはおるまい。しかしまだ神託を終えたばかりの少年ということだから、お前がその少年の信頼を勝ち取り王家に歯向かう事など考えないよう仕向けるのだ。いいな? できれば姉のように、普通の家族のような関係となるよう努めよ。別に篭絡しろなどとは言わん」
「分かりました、そうなるよう振舞いましょう」
「うむ。そしてお前も結界師のスキルを余すことなく習得できるよう修練に励むがよい、いずれ我が国の切り札となるかもしれんからな」
そして豪華な装飾が施されている王の執務室には沈黙が訪れる。
それもそうだろう、突然結界師が「実はとんでもない攻撃力を秘めていた」なんて報告が上がったからといってもそうそう認められるものでも無い。
例えるなら頑丈な鎧をまとい、大きな盾を持って強固な防御力を誇る重騎士ならカブトムシ。変幻自在に動き回り、鋭い剣で敵を切り裂く剣士ならハチ… そんな中、実はナメクジが一番攻撃力があるんだぜ! なんて言われても到底信じられるものではないという事だ。
「しかし、これが本当なのであれば即座に情報統制を敷かねばいけなくなるな」
「はい父上、とりあえず急凌ぎなのですがその訓練場に入ろうとする結界師をギルドかどこかで面接し、素性を洗った方が良いかと存じます」
「そうよな、結界師の少年の噂は広がったばかりだが、どこに他国の間者が潜んでいるか分からんからな。その辺の意見をまとめ、ギルドに書類を出すようにしろ」
「はっ、承知しました」
「ゴブリンキングやウリボアなどの魔物を一撃で倒すスキルか… そんなものがあれば騎士団の装備している鎧では到底防御などできまい… こんなものが世界中に広がれば間違いなく戦争… もしくは虐げられていた結界師が結託してクーデターが起こってしまうだろう。だが我が国の中だけで納める事が出来れば強力な切り札となる、判断を間違えないよう気を配れ」
「「はっ!」」
王族のみで行われた極秘会議はこうして終了した。




