第4話 新技?
誤字報告いつもありがとうございます。
避けれるタイミングじゃなかったので、反射的に目の前に結界を張ろうとスキルを発動。
パキィィィン! ビチャァ
「うえっ? なんだこれ気持ち悪い! というか、何が起きた?」
やけくそで出した結界は、どうしてなのか分からないけど殴りかかっていたゴブリンの腕を切断し、気持ちの悪い血が顔面にかかったのだ。
いや、それよりもどうしてゴブリンの腕が斬れた? 俺にはそんなスキルは無いはずだけど。
「グギャァァァ!」
腕を落とされたゴブリンの顔は苦痛に歪んでいる。相変わらずキモい顔だな… だけどそれを見てハっとし、苦しんでいるゴブリンをナイフで突き刺して2体目も討伐完了。
「後1体! さぁ来いや!」
「グギャ?」
今の一連の動きと突然腕が斬り落とされた仲間を見て驚いたのか、背後にいたゴブリンも固まって動けないでいた。これはチャンスだ!
一気に踏み込んで棍棒を持っている腕を斬りつけ、棍棒を落とすのを確認。武器が無くなったので更に詰め寄り首元にナイフを突き刺してとどめを刺す。
「終わったか… ふぃ~今のは危なかったな、良く凌げたもんだよ。油断ダメ絶対! これはもっと徹底させないとな」
しかし… 顔面からかぶってしまったゴブリンの血が臭くて気持ち悪い、散々余裕こいていたが現在の魔石はこれで23個だ、自分で設定したノルマには届いていない。なので狩りの継続は決定事項なんだが…
「いやぁこれ、どこかに顔を洗える場所は無いのかな? というか、そう言えば俺には生活魔法があったんだよな。まぁ戦闘以外で魔力を使うのはもったいない気もするけど、この状態だと戦闘に集中できないし仕方がないか」
魔法使いとしての適性は無いため、生活魔法といえどもその魔力消費は結構重い。結界を張るくらいならそんな負担ではないんだけどな…
ソフトボール大の水玉を作り出し、それで顔を洗って最後に頭からかぶる。正直こんな事で綺麗にはならないが顔中に血のりをつけているよりかは遥かにマシだよね。
「それにしても… さっきのゴブリン、どうして突然腕が切れたんだろう。一体何が原因で…」
先ほどの戦闘を思い返してみる。
2体のゴブリンを正面に対峙し、その後に背後から奇襲を受けて注意が逸れてしまったんだ。その隙をついて2体のゴブリンは俺に迫って来ていて… 結界が割れた音に驚いていた1体に何とか斬りつけた時にはもう2体目のゴブリンは棍棒を振りかぶっていて…
「そうだ、避けられないと思ったから咄嗟に結界を張ったんだよ。でも結界はすぐに壊されて… あっ!」
そうだ、結界を張った時… ゴブリンの腕をまたいで結界が張られたんだった。つまりなんだ? 張られた結界はゴブリンの腕の中に割り込んで出現したって事か? そして実体化した結界がすり抜けていた腕の中に完成して、そのせいで腕が落ちた。そういう事?
これはなんだ、今すぐに検証しないといけない案件だな。もしも意図的に同様の事が出来るのなら、そして結界で貫通したものが斬れるというのであればこれは非常に有用な武器となるんじゃないか?
「考えてみれば、結界師の張る結界を攻撃に使おうなんて… 前世の記憶を取り戻した俺でさえ思いつかなかったんだ、不遇職だなんて言われている過去の結界師が思いつくはずもないかもしれないよな」
現状結界師という職に就いたものは、まともにダンジョンに入ることはまず無い。いたとしても俺の時と同じようにゴブリン相手に結界が壊され、不甲斐ない思いをして帰ってきた事だろう。
もしかしたらこれは結界師の地位を向上させられるんじゃないか? まさか攻撃として使えるなんて誰も思わなかっただろうしな。
まぁそうはいっても検証が先だな。
俺の思い違いで痛い目に遭うなんて嫌だし、それに検証する前に結界が張れる間合いを調べておかないといけないよな。
最長でどこまで離れても張れるのか、それに離れたら結界が薄くなったりとか小さくなったりとかもあるかもしれない。俺の命に係わる事だから手抜きなんて出来ないしな。
「よし! じゃあ色々と試してみるか!」
─冒険者ギルド─
「今日もあの結界師の子くるのかしら」
「どうだろうね~、でも昨日は魔石を持ち帰ってきてたんでしょう?」
「そうなのよ。まぁ一瞬だけど、どこかから盗んできたんじゃないかって疑っちゃってね、しかもそれが顔に出ていたみたいで…」
「あ~、確かにそういった事例が過去にはあったからね。仕方ないって言えば仕方ないと思うけど… 12歳になったばかりの子がそんな目で見られたらショックに思うかもしれないわね」
時間で言えば午後2時過ぎ、ギルドの受付にとってはちょうど暇になる時間帯であった。
受付嬢の1人は不意に昨日の結界師になったばかりの少年の事を思い出していた。
「まぁ本人が言っていたけど、結界師になる以前から鍛えてたような事も言ってたからゴブリン程度であれば問題無く狩れるのかもしれないわね」
「そうだね、一応ゴブリンはこのダンジョンでは最弱モンスターだし、ゴブリンを倒せないようではダンジョンに入るのは諦めないといけないからね」
「うんうん。でもゴブリンだけじゃ暮らしは良くならないわよね… いくら数を倒しても魔石1個で10ギルだし」
「まだまだ若いんだし、戦い方も成長していくんじゃない? 知らんけど」
「まぁそうよね、あんな子供が1人でダンジョンに入るなんてって思うけど、孤児院出身みたいだし生きていくにはどうにかして稼がないといけないからね」
「でもさー、そんなに気になるの? 結界師の子」
「んー、気になるというか、12歳にしては随分と大人びてるなって思っただけよ。孤児院出身なのに意外と礼儀正しく見えたしね」
「そっか、それじゃあ今の内に唾でもつけとくかな! あの年で礼儀を知ってるなんて珍しいと思うし、なんか大成しそうな雰囲気もあるしね」
「止めなさいよ、あなたもう20歳でしょう? 早く結婚相手を見つけないと行き遅れと言われるわよ」
「うるさいわね! あんたは婚約者がいるから余裕なんでしょうが、私は相性を重視しているのよ!」
「はいはい」
「とりあえず今日あの子が来たら私が受付するからね、そっちに並んだら回しなさいよ」
「それは混み具合によるから何とも言えないわ、それにあの子が私を選ぶかもしれないでしょう?」
「その余裕! イラっとするわ!」
本来であれば暇で静かな時間帯、しかし今日はなんだか賑やかだったようだ。