第38話 運が悪かった?
誤字報告いつもありがとうございます。
5階層ゴブリンキングの部屋の前に到着してはや数十分、ようやく俺の前にいたパーティが入っていった。このパーティが終わったらやっと自分の番だ、今の内に肩をほぐしたり屈伸してみたりとウォーミングアップをしておかなければ! やっぱりアキレス腱を伸ばす運動は必須だよね!
なんて事をしていたら、ボス部屋の扉が音を立てて開いて行く… よし、じゃあいっちょ行きますかね!
「ちょっとどきなさいよこのクソオスが!」
「アンタみたいな弱そうな奴の後なんて、いつまで待つか分からないじゃない。どきなさいよ」
なんと! 俺の後ろで並んでいた女性4人のパーティに突き飛ばされ、よろめいている隙を突かれて先に入られてしまったじゃないか!
「ちぇ、全くなんてマナーの悪いパーティなんだろうね…」
思わず口から出た愚痴に、さらに後続で並んでいた他のパーティも頷いてくる。
「いや、あいつらどうも男が嫌いらしくてな… ただ男というだけで敵意を見せてきて、くだらんいちゃもんをつけてきて絡んで来るんだよ」
「いやいや、男だけじゃないのよ。私みたいに男女混成パーティに入っている女性に対しては、男に媚を売っている女の風上にも置けない名誉男性だとか言ってきてね… もうホント鬱陶しい事この上ないのよ」
「な、なるほど… つまり関わらない方が一番って事ですかね?」
「「そうだね!!」」
なるほどぉ、どうやらあらゆる方向から嫌がられているパーティのようだ。これは俺も皆にならって関わらないでいくしかないね、こういった性格の人だとねちっこそうだしね。
「よし、ただ運が悪かった… そういう事にしておこう」
「それが正解だ。ギルドには苦情を入れているんだけどなかなか改善されないからな」
「そうなんですね、ありがとうございます」
しかしまぁひょんなことから他のパーティとも話す事が出来たから、これはこれで良しとしよう。
でもアレだ… なかなか扉が開かないな。まさかゴブリンキングを相手に手こずっているわけじゃないだろうから、時間をかけて嫌がらせをしているとか? うへぇ…
他のパーティと話をしながら待つ事数十分… ようやく、今度こそ俺の番がやって来た! 後続も長い事待っているわけだし、ここは俺が最速でゴブリンキングを退治して次につなげよう。いざっ!
一方その頃…
「ふぅ、危なかったわね。でも良く気付いたわ」
「でしょう? 後ろについていたらゴブリンキングの部屋で別れる事になるんだから、結局置いていかれる事になっちゃうのよ。それなら先に入ってあいつが出てくるのを待った方が間違いないでしょう?」
「ええ、本当にそこら辺は何も考えていなかったわ。確かにゴブリンキングを倒してから追いかけたって追いつくのは至難よね」
「うんうん。さ、あいつが出てくる前に身を隠しておくわよ。出て来たら今度は気付かれないように尾行ね」
「「「了解!」」」
「って、なんかもう出てきたわよ! 数分も経っていないんじゃない? 急いで隠れるわよ!」
4人は大慌てでダンジョンの壁の影に隠れるのだった。
「ん? 俺が最速で出てきたから前に入ったパーティに追いついちゃった? でもアレだね、関わらない方が良いから俺はすぐに7階層に向かうのだ!」
女性4人組がサササっと壁の向こうに消えていく姿を確認したが、向かった先が階段方向じゃなかったので正直安心してしまったのは内緒だ。きっとこの階層で狩りでもするんだろう、勝手に頑張ってくれ!
6階層からは急に閑散としてきていい感じだ、ここからは魔物が出て来たら自分で相手をしなくてはいけないからな… 気を引き締めていこう。
いつものように早歩きで7階層へと向かって行く、この階層に出てくるブラッドウルフには用はない! ウリボアに用があるんだ! だってウリボアの方が直線的で見切りやすいから、技の練習にはもってこいだからね。しかもブラッドウルフよりも稼ぎが良いときたもんだ、選択の余地は全くない!
そんなわけで7階層に到着した。したんだが… なんだかすっかり尾行されているよ。
しかしアレだね、こっそりと後をつけるというのならもう少し気配を隠すとかすればいいのに… もうあからさまに距離を置いて付いてくるもんだから逆に気になってしまって集中できないし!
どうするか… 先ほどの感じだと、どう見ても俺に敵意を持っている感じだったんだよなぁ。ああいった手合いを後ろに置いて戦闘とかしたくはないんだが… ここはちょっと尾行をまく方向で動いてみるかな? そこそこ距離が開いているし、ダッシュで逃げ出せばイケると思うんだよね。そうするか、このままだとちっとも落ち着かない。
「さてっと、ここは8階層に続く階段の方に走り込みながら行方をくらました方が良いよね、そうしたらきっと8階層に降りていって探すと思うから7階層は安全になるはずだ」
そうと決めたら即行動! 時間が惜しいんだぜ!
ほんの少しばかり屈伸などの運動をして走るための準備をして… 行くぜ!
8階層の階段目がけて一気に走り出す。後方から驚いたような声が聞こえたが当然スルーして加速する… 先ほど見た感じだと前衛職らしき装備の人もいたことだし、多分機動力だけなら俺の方が上だろう。
ホホホ、捕まえてごらんなさーい!
後方の気配を感じながら走る走る、やはり機動力は俺の方が良かったらしくて追いつかれる感じはないようだな。
よし、階段までもう少し、そろそろどこか曲がって隠れてしまおう。そして自分に結界を張ってしまえば多分気付く事無く先に進んで行くだろう。
幾度か角を曲がり、俺の姿が見えなくなったあたりで8階層へと続く道から逸れ、足音が響かないようしゃがみこんでから前面に結界を張り待機する。呼吸を整えながら静かに待つ事数十秒… ドタドタと足音が聞こえてきて、先ほど絡んできていた4人組の女性パーティが息を切らしながら駆け抜けていく姿を確認。やがて足音は遠ざかっていき聞こえなくなる…
「ふぅ、上手くやり過ごせたみたいだな。しっかしなんだっていうんだろ、あの人達の事は初めて見るし何か恨みを買ったなんて記憶も無いんだけどなぁ」
うん、どう考えても思い浮かばない。どうしてあんなに睨まれていたのか、そしてどうしてダンジョン内で追いかけられなければいけないのか、動機を知りたい気持ちは確かにあるけど関わると沼にはまるんじゃないかという恐怖もある。
「……。うん、無視でいいな。よし、早速今の事は忘れて狩りを始めるとするか。いつもの場所まで戻らないといけないけど仕方がないね」
女性パーティが消えていった方向を確認しながら来た道を戻っていくのだった。




