第36話 ネーミングセンスと監査官の帰還
誤字報告いつもありがとうございます。
「うーん、自慢じゃないけどネーミングセンスというやつは家出しているんだよねぇ」
とりあえずだ、サイズを縮小して90センチくらいの正方形の結界が飛んでいくわけだから、やっぱりブーメランはちょっと違う気はするよな。何か無かったか… 思い出せ前世の記憶を! アニメや漫画で観た必殺技の数々を!
「気円斬… そうだ、あの国民的アニメのサブキャラの必殺技にそんなのがあったはず! そしてイメージ的にもピッタリだな! 形状は円じゃないけど… あ、円形にすればいいのか?」
よし、ちょっと試してみよう。
そういえば結界の形状は四角形だなんて、ちょっと固定概念にとらわれ過ぎていたのかもな。それに円形にすれば回転する時の抵抗が減るだろうからもう少し鋭くなるかも? 本当に斬れたりしたらいいんだけどねぇ…
早速直径90センチくらいのイメージで結界を出してみる。もちろん円形のイメージでね!
「おおお、出来るじゃん! まぁ考えてみたら結界のサイズも変えられるんだからスタイルだって変えられて当然なんだけどね… 今更気づくとは」
まぁいい、結果的に円形の結界が張れたんだからオールオーケーだ。次はその結界を放り投げるんだが… やっぱり鋭く回転させた方が威力ありそうだよね?
アニメに出ていた坊主頭の主人公の友人は、確か同時に3個くらい使いこなしていたよな… サイズを小さくしているから3つくらい出せないか? ああ無理っぽいですね。
よし、じゃあ今日からこの技は気円斬だ! 気の力を利用しているわけじゃないけど、どうせ誰も分からないだろう。ようし、早速実戦で使ってみようか。こうしちゃいられない、急いで7階層まで行くぞ!
「おっとブラッドウルフが出てきたか… 3体セットのようだし早速行かせてもらおうかな? 気円斬!」
アニメで観たように、手を上にかざして気円斬を出す。そして野球でカーブを投げるかのようにひねりを加えて一気に前方へと投げつける。
「ギャワン!」
「うおっ! ちょっと斬れたぞ!? さすがにスッパリとはいかないけど20センチくらい斬り込んでから結界が割れたな」
いいぞいいぞ! 結界師だって遠距離攻撃ができるんだ、これなら戦士系の近接戦闘職にだって負けないんじゃないか? まぁ身体能力は段違いだろうけど…
しかしこれは良い感じだね。もちろん少し前まで使っていた技でも足止めは出来たんだから優秀だと思うし、気円斬は当然足止めだけじゃなく傷までつけられるんだから超優秀といわざるを得ないね。弓と一緒で当たり所によっては一撃で倒せることもあるだろうし、まぁ基本は足元狙って相手の動きを阻害するって使い方が一番かな。
そんなわけで、今日は晩まで気円斬の練習に励んでみた。別に筋力で投げつけているわけじゃないので、俺のような非力な子供でも結構な速度で飛んでいってくれるので非常にありがたい。この技も結界師のスキルリストの鉄板になりそうだな。
ギルドでお肉と魔石の売却を終えて本日の営業は終了だ、後はお風呂で汗を流して寝る前までイメージトレーニングだな。
しかし気円斬か… 丸ノコみたいにギザギザをつけたりしたら殺傷力が増したりするのかな… いや、はたして作り出す結界にそこまでの加工が出来るのか。出来たとしても集中力を伴うのであれば戦闘中に使うのは危険って事になりかねないな… まぁ現状はこのままでもいいかな、何か思いついたら随時更新だな! アップデートってやつだ!
しかしアレだな、俺が結界を張れる範囲が大体2.2メートル以内… でもその範囲の外に投げつける事にも成功している。まぁ自在に出現させる事が出来て操る事の出来る範囲がこれって事だよな。実際気円斬で投げつけたやつは、投げた後で方向転換とかできなかったから間違いないだろう。
この2.2メートルっていうのも個人差なのかレベルが関係しているのか、他の結界師を知らないから判断がつかないんだよね。早く他の結界師の人と交流して情報交換をしてみたい。
後はアレだな、気円斬のような薄い円の形が作れたんだから銃弾のような貫通力に優れた感じのスタイルにも成型できるかもしれないという事。まぁ結界その物に耐久力が無いから、ああいった形状にしたからといって貫通するかどうかは別問題だと思う。
でもせっかくだから試してみて、それから判断してみようかな。銃弾のような形状なら空気抵抗も少なさそうだし、ちょっと遠くの魔物の注意を引く程度でも活用方法はあるかもしれない。
「うん、なんか今日は色々とネタが浮かんでくるね、早速メモして忘れないようにしておこう。後は明日… 頑張りましょう」
こうして風呂場に向かうのだった。
─冒険者ギルドジェード支部、ギルドマスター執務室─
「いやぁ面白い物が見られましたね、確かにこれなら聞いていた噂と相違ないですよ」
「あいつは妙に頭が良いからな、神託の日にそのままダンジョンに入ってしまうくらい思いきりもいいし成長株だと思うぞ」
「そのようですね。まぁこれを報告書にまとめても信じてもらえるかは別ですが、とりあえず現状は王都支部でも共有しておきます。王都のギルマスから何か言ってくるかもしれませんがその時はよろしくお願いしますね」
「はあ? 王都支部の事は王都支部の人間だけで解決しろよ、こっちに手間をかけさせんじゃないぞ?」
「そのつもりですが… あの人興味があるとすぐに動きますからね、なんならショウ君を王都に寄こしてくれなんて言うかもしれません」
「そいつはお断りだな、そもそもショウはこの街に拠点を作るつもりで現在も動いている。ちょっと誘われたくらいじゃあいつは行かないと思うぞ? それにギルドランクもまだFランクだからな、指名依頼も強制依頼も出す事は出来ない。あきらめろと伝えてくれ」
「そうですよねぇ… まだ冒険者登録して日が経っていないから、ゴブリンキングを倒したくらいじゃランクは上げられませんものね。まぁとりあえず伝えておきますよ」
執務室では監査官の2人とジェード支部のギルドマスターが話し込んでいた。主な話題は結界師の戦闘スタイルについてだが… 少なくとも今までに前例の無い攻撃方法を目の当たりにしたせいか、やや興奮気味だった。
「では、本日王都に戻ります。今後も報告書の方はよろしくお願いします」
「承知した」
こうして抜き打ちの視察は終了し、王都支部の職員は王都に帰って行ったのだった。




