第31話 最近秘かに…
誤字報告いつもありがとうございます。
─冒険者ギルド、王都支部─
近頃アズライト王国内で秘かに囁かれていることがある。なんでもゴブリンの攻撃さえ防ぐ事も出来ない無能である結界師が、ダンジョンに入って活動していると。
それはダンジョンを有する地、ガーネット子爵領ジェードの町。そのジェードダンジョンにて絶賛活躍中なんだとか… ギルドからの覚えも良く、同じくダンジョンアタックをしている冒険者達からも可愛がられているとかなんとか。
「という話を先ほどジェードから流れてきた冒険者が喋っていたんだが、そこそこ噂になっているようだな」
「噂だけならなんとでも言えるんじゃないですかね、そもそも結界師がダンジョンに入り浸るなんて… そいつは死にたがりですか? それとも普通に剣術を鍛えてゴブリン相手にギリギリ勝てる程度とか」
「いや、そうでもないらしいぞ。ジェイド支部からの報告書にも書いてあるが、今年神託を受けた12歳の少年がすでにソロでゴブリンキングを討伐したとの事だ。持ち込んだ魔石で確認済みだとよ」
「ええ? 12歳の結界師がソロで? それはあまりにも荒唐無稽というかあり得ないでしょう。でもそんな噂を流して意味でもあるんでしょうかね?」
「さぁな、まぁジェードダンジョンはCランクでそれなりな難易度だ、結界師が結界師として活動しているんだったらゴブリンキングにソロでというのは確かに無理な話だ。実際俺も結界師が使う結界を見たことも硬度を確かめたこともあるが… Eランクダンジョンの魔物にすら防御出来なかったからな、何かからくりがあるのかもしれん。
そこでだ、ジェード支部から正式な報告書にそう書かれている以上確認も無しにあれこれ言う訳にはいかんからな、視察ついでにジェードに行って見てきてくれ。はっきり言うがこれは出張命令だ」
「ええええええ? でも出張という事は旅費も護衛代もギルドから出るんですよね? いくら国内だからと言っても護衛無しでは子爵領までなんて行ってられないですよ?」
「もちろん経費は出すぞ、言った通り出張なんだからな。では正式に辞令を出す、冒険者ギルド王都支部職員ショール、通常通りの視察業務と共にジェード支部で噂されている結界師の能力を確認してこい。随伴は1人連れていっていいぞ、人選は任せる」
「…………。はい、出発はいつですか?」
「うん? そんなの明日に決まってんだろ?」
「急すぎですけど!? まぁいいです、では随伴はトルマリンを連れていきますけどよろしいですね?」
「くっ… わざわざ優秀な奴を抜く気か、ギルド業務が滞るって心配は無いのか?」
「いえ、ギルド職員はみんな優秀ですし、それに誰でも良いって言ったのはギルマスじゃないですか。では急いで支度をしないといけないのでこれで失礼しますね」
部屋を出ていく職員ショールを見送り、机の上に置いてあったカップからお茶を一気に飲み込む。
「しかし結界師の活躍ねぇ… そんな誰も得をしないような話がなんでまた広まるんだ? 陰謀らしきものは感じないしジェード支部のギルドマスターだって頭の悪い奴じゃない。気にするだけ無駄な事かもしれないが、どうにも引っかかるんだよな… 役に立たないゴミ職がどうしてってな」
ジェードから護衛依頼で王都に来る冒険者が口々にそんな事を言っているから、この王都にもその噂が広まりつつある。まぁもし本当に結界師が戦えるって言うんなら、ゴミだと思っていた職業でも使い道が出来るってもんだが真偽を確かめないとどうにもしっくりこない。
「ま、明日に出れば10日やそこらで戻ってくるだろうから、その報告を聞いてから… だな」
SIDE:ショウ
「うひょー! いいねいいね、大量だぜ~!」
本日俺は、7階層にやって来ていた。
6階層ではブラッドウルフとウリボアの比率が9:1程度だったのに対して、7階層では6:4程の確率でウリボアが現れる。
そしてウリボアのドロップ率は高いようで、2体倒せば1個拾える… そんな感じでドロップしていた。腹時計から察するにもう昼は過ぎているくらいの時間、この半日ですでに5個ものウリボア肉が手に入っている。
「いやぁマジックバッグは神アイテムだな! これだけ入れても重さを感じません!」
マジックバッグのデザインが普通に出回っている背負い袋と同じなのでぶっちゃけ持ちにくいが、リュックに入れてやる事で両手をフリーに出来る。むしろ重さを感じさせないせいでリュックの方が俺の動きに合わせて暴れる感じだった。
魔石も専用の袋に入れてからマジックバッグに入れているので、荷物を持っているという感覚さえ忘れてしまいそうだね。
「ウリボアのお肉は400ギルだから、もうこれだけで2000ギルの稼ぎになっている! 他にも魔石だってあるしブラッドウルフのお肉だってある、これは良い稼ぎになるね」
稼ぎ方も色々と考えなければと思っていたから、今回7階層に来たことは良かったと思う。
まぁ問題を上げるとすれば…
「マジックバッグが1個しか無いって事なんだよな… 仮に何人かの結界師が集まってくれたとして、パーティ組ませてダンジョンに入ったとしてもマジックバッグの有り無しで収入が非常に変わってしまう事だよな」
そう、自分でも言ったがこれはマジックバッグがあってこそ成り立っている収穫であり、これが無いとウリボアのお肉ならせいぜい2個拾ったら戻らないといけなくなる。金額的にブラッドウルフのお肉を捨ててウリボアだけに絞ったとしても、持ち帰れる数が少なければねぇ…
まぁこれに関してもどれだけの結界師が集まるか分からないし、もしかして1人も来ない可能性だって大いにある。でも万が一… いっぱい結界師が来てしまったら? 複数パーティが組めるようになってしまったらマジックバッグが1個しかないという状況はよろしくないんだよな。
それに… マジックバッグを購入したとして、俺が入らないパーティにも持たせるという事だからもしかして持ち逃げされるという可能性すら考慮しなくちゃいけない。
まぁ不遇職だと言われてきたんだから、裕福な暮らしができていない人の方が圧倒的に多いだろう。そんな中、売れば数百万ギルになるマジックバッグが手元にあったら? そんな事も考えなくちゃいけないんだよなぁ。
皆が皆そうだとは言わないけど、たった1人そんな奴がいただけでそのパーティは瓦解するかもしれない。
「何とも悩ましい問題だね。でも後でギルドにでも聞いてみようかな、マジックバッグの事を」
気持ちを切り替え、ウリボアを探すために歩き出すのだった。




