第13話 オニキス「ぐへへ」
誤字報告いつもありがとうございます。
SIDE:オニキス
ショウ君と共に、とうとう私にとって禁断の地である孤児院に足を踏み入れる事になった。
そう、来ようと思えばいつでも来れる場所なんだけど、やはり孤児達との縁がなければ教会関係者と面談して寄付する事しか出来ないのよね。さすがに領主が関係している施設に寄付しに来ただけの者を中に入れるという事はほとんど無い。
だがしかし! 今日は孤児院出身のショウ君が先導だ、これで孤児院に入れない訳が無い! ショウ君と知り合えただけでも今日は良い日だったのに、まさか孤児院に侵入する事が出来るだなんて… しかも一度入ってしまい、教会関係者にしっかりと顔を売る事が出来ればもしかして今度も自由に来ることが出来るかも?
「オニキスさん、こっちが裏口になってます。一応守衛というか警備の人はいるんですけど、孤児院出身者は大体こっちから出入りしますね」
「そうなのね、さすがにこれは知らなかったわ」
ふむふむ、これが裏口…
確かにショウ君の言う通り裏口の前にも警備というか、まぁただ立ってるだけにも見えるけど人は配備されているのね。
ショウ君がその人に向かって挨拶すると、なんとチェックも無しに扉が開かれたではないの! よし、この人にも顔を売っておきましょう。
「私もこれから何度か来る事になると思うからよろしくね。ギルド所属の冒険者よ」
先に身分を明かしておく。まぁ隠そうとすれば信用をすぐに失ってしまうからね、それにこの人、私が見せた冒険者証を見て驚いているわね? それも仕方がない、私はこの街では数少ないAランクなのだから。このAランクというのも信用の足しになるなら使いまわしてみせるわ!
「あ、ショウにーちゃんだー! もう出戻ってきたのかよ!」
「なんだとコラー! 出戻りじゃない! 今日は寄付と皆に肉を買ってきたんだけど… そんなふざけた口を利くなら寄付しないで持って帰ろうかなー」
「さすがショウにーちゃん! 僕は最初からそうじゃないかと思っていたんだよね! それでなんのお肉買ってきたの?」
中に入るとすぐに子供達がショウ君に気づき近寄ってきた。そして揶揄うような口ぶりで会話をしていたのだけど… さすがは子供… 手のひら返しの速度が素晴らしい。
子供達にまとわりつかれながらも建物の中に入り、教会関係者に会いに行く。
「あらショウ、卒業したのはほんの3~4日前だったのにもうやり繰りできなくなっちゃったの?」
「ふっふっふ、先生あまり舐めてもらっては困るんだよ。今日は寄付に来たんだよ!」
「え? さすがにそれは冗談でしょう? まずは自分が生きていけるだけの余裕を持ってからって何度も言ったじゃない!」
「もちろん覚えているよ。でもちょっと臨時収入があってさ、それを使って寄付に来たんだよね。ああこちらはオニキスさん、荷物が重くなるだろうって手伝ってくれてるんだ」
「まぁ! それはわざわざありがとうございます!」
じゅるり… ハッ!? 危ない危ない涎が落ちるところだったわ。
それにずっと丁寧な言葉で話をしていたショウ君も、ここに来るとすっかり砕けた口調になるのね… これも新鮮でいいわ!
早速買ってきた食材を手渡し、現金も少し渡していたみたいね。私も今の内に寄付をしておこうかしら… あまり大金だと引かれてしまうから適度な金額、そうね… 5万ギルくらいなら許容範囲になるかな。
「少ないけれど、私も寄付させてもらうわ。今回の仕事ではショウ君には随分と協力してもらったし」
「そうなのですか… では有難く受け取らせていただきます」
手持ちにあった銀貨5枚を渡すと、今日の夕食は豪華だと食材をもって奥へと行ってしまった。
その後は一緒に夕食をという事なので、それまでの時間孤児達と過ごす事となる。ぐへへ。
ショウ君に紹介された3歳の男女の双子… その子達を2人共膝の上に座らせてお喋りをする… こんな時間を過ごすのも良いわね! ショウ君のように大人びたというか、背伸びしている感じの子も萌えるけど、普通に幼子というのも大変よろしいです。
「そういえばショウにーちゃん、神託はどうだったのー? でもこんなすぐに稼いでくるなんて剣士とかすごい職業になれたの?」
「え? あーまぁ何と言うか… 結界師だったんだよ」
「結界師? ええええ!? 結界師ってダメな職業トップクラスのアレだよね?」
……。さすが子供、容赦がありません。
「ああそうだよ! 俺はその結界師だよ! でもな、これだって使い方次第でゴブリンだって真っ二つなんだぞ? それにな、俺は新しく開発した必殺技を広めて、結界師だってやれるんだっていうところを見せてやるんだ!」
「えー? でも結界師とは絶対結婚しちゃいけないって言われてるよ?」
「ふふん、心配しなくてもそう遠くない未来にはその常識は覆して見せるぜ!」
「くつがえすってどういう意味ー?」
ふふふ、ショウ君の考える未来か、難しいとは思うけど子供の夢としては立派よね。さすがに長い間染み付いた結界師=不遇職という常識を覆す事はとても難しいと思うし、その必殺技だって結界師なら誰もが使えるという保証もない。先駆者となりたいなら必殺技の全てを知り、他者に指導できるだけの器量も養わないといけない。
これはアレね! やはり私が保護者になるというか姉になるというか、いつかは婿にしてあげて一緒に見守るしかないわね!
つまり… 私も少し本気で貯蓄しておかないといけないという事ね。
ショウ君自身は必殺技の修練をしつつお金を稼げるけど、指導者となるために学ぶ時はお金稼ぎは後回しになってしまうかもしれない。そんな時に私が颯爽と現れ、姉のように妻のようにお世話をすれば…
よし、この作戦でいきましょう! それなりに蓄えはありますが、もしもショウ君が道場とかを開くとなればかなりお金は必要になるはず。
ショウ君が道場主で私が女将さん… なんか良いわね!
すっかり膝の上でお昼寝をしてしまった双子を撫でながら、夕食の支度が出来るまでしっかりと温もりを堪能するのだった。




