第8話 準備
蓮田さんが出ていった後、この部屋にはマコニャンさんとルナ、そして僕が残された。
「そういえばお前、あの蒼井陽奈とかいう女も入隊テストに連れてくるといいニャ。」
「あれ、でも陽奈はノクス適正が無いからこそ一般クラスにいるんですけど...。」
「そんなことは分かってるニャ!お前と同様潜在能力があるオーラを感じたから提案したんニャ!!」
「す、すみません!」
とりあえず謝ってはみたものの、僕の疑問は生じて然るべきものであったのだから、そこまで怒らなくてもいいのに、と思う。とは言えルナ曰く身体を見る人、ともなるとそういった潜在能力まで漠然と感じ取れるようになるのだろうか。正直わからないことだらけだから、ここで僕はいったんこの議論を放棄する。
「ヨル、気をつけてね。」
「うん、ありがとう。」
「まあ精々死なないようにするニャ。来週からの1ヶ月は言うなれば死なないようにする訓練に特化しているのニャ。そこで資格を得られなければ到底夜獣と戦うことなんで出来ないニャ。」
ん?今何か凄く不穏なワードを耳にしたような。
「死なないようにする訓練...?」
「そうニャ。」
「ノクスホルダー50%、対夜95%。」
ルナの端的過ぎる数字を自分なりに噛み砕く。その数字は確かEランク夜獣相手に生き残ることが出来る確率だったはずだ。
「ええと、つまり、Eランク夜獣相手に死なないと見做されたものがテストに合格する、ってことですか?」
「そうニャ。ちなみにその95%は逃げる手段も想定しての数値ニャ。」
ふむ。危険だな。
「すみません、ちょっと辞めたくなってきたんですけど...。」
「ダメだよ?ヨル。」
そう口にするルナの目には言いようのない迫力があった。
「いい加減腹を括るニャ。」
「は、はい...。」
僕は首を垂れ頷くしかなかった。
「それじゃ、またね。」
「うん、また。」
次にいつルナに会えるかは分からないけど、なんだか段々接する機会が増えてきそうな気がした。でも、力がかけ離れすぎてそんなこともないのかな?
時計は15時を指していた。これだったら余裕を持って夜になる前に寮に帰ることが出来る。僕は陽奈に寮のフリースペースに来れるかメッセージを打ってからこの場を後にした。
そうして寮のフリースペースに向かうと、陽奈は既にいるようだった。
「ごめん。待った?」
「ううん!今来たところ!それで話って?」
そうして僕は今日受けた説明をそのまま陽奈に伝えた。
「ええええええ!!!」
「そうなるよね。僕も正直受けたくないんだ...。陽奈はどうする?」
「受けるよ!」
なんという決断の早さ。優柔不断過ぎる僕にしてみれば考えられないスピードだ。
「なんでまたそんなに即決できるのさ。」
「だってヨルは受けるしかないんでしょ?私もついていきたいもん!」
う、嬉しい。なんて嬉しいんだ。
「うぅ...ありがとう我が幼馴染みよ...」
「ちょっとやめてよ〜おじさんみたいな言い回し!」
「ははっ」
こうして僕たちは2人とも来週から1ヶ月続く入隊テストを受けることになった。