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ナイトレコード  作者: 仲田 奏多
第一章
8/10

第7話 資格

「く、訓練生って...一体...」

「対夜に入る練習する」

「タイヤに入る練習...?」

 一体どういうことなんだろう。

「もういいニャ。ルナに任せてると話が進まないからあたしが説明するニャ。」

 正直それはありがたい。まだ僕にはルナの話の行間を完璧に読むだけの技能が備わっていない。多少は分かるようになった...気がしていただけかもしれない。

「対夜ってのは対夜獣部隊の略称ニャ。ここの組織の人間はそうやって省略することが多いニャ。」

 マコにゃんさんは淡々と説明を進める。

「そういうことだったんですね。でも...」

 僕は少し言い淀む。

「でも、何ニャ」

「でも、...対夜って言い回しだと夜に対抗するっていうニュアンスな気がして...僕はどちらかというと夜を穏やかに見てみたい...ような...」

 気づけば考えもまとまらないまま呟くように口から言葉が出ていた。

「ふむ...まあ、良い心がけニャ」

「あ、ありがとうございます」

「そもそも、略称をそこまで気にするヤツなんかいないニャ。お前、結構めんどくさいヤツニャ」

「上げて落としましたね!?」

 初めて褒めてくれたと思ったら一瞬で貶してきた。まあでも、それは良いとして、訓練生になるって一体何をするんだろう。

「さて、その訓練生というのはニャ...」

「そこからは私が説明しよう。」

 気づけば扉から1人のがっしりした男が入ってきた。髪も短髪でいかにも体育会系だ。この人は誰なんだろう。

「私は蓮田守と言う。東京地区第8部隊の隊長をしている。」

 えっと。多分実力者の人なのだろう。僕はまだ組織構造が見えていないから、そこまで凄いのかは想像がついていない。

「君は確か昨日夜獣との戦いで怪我を負っていた柊ヨル君だったね。」

「う...すみません。」

「それはもういいんだ。散々たくさんの人にお叱りを受けただろう。それよりも君は訓練生に入りたいんだったね。」

「えっと...入りたいとは...」

 そこまでは言っていない。流されるようにここに連れてこられているだけだ。

「ヨル、入りたいって言ってる」

 僕の意思を遮るようにルナが言葉を上乗せした。そんなこと一言も言っていない。

「そうか。ではテストを受けてもらう。」

「えっ、テストなんてあるんですか?」

 てっきり紹介で入るものかと思っていた。

「勿論ある。入隊のタイミングは3ヶ月に一度。5月、8月、11月、2月。皆一律に一ヶ月間ここで訓練を積んだ後、実際に夜獣を退治してもらう。この実地テストに合格すれば晴れて訓練生になることが出来る。3ヶ月に一度入る機会があるのは、それだけ人が足りていないからだ。」

「人、足りていないんですね。それにしても1ヶ月で実地テストって...それだけの時間で足りるのでしょうか」

「実地テストにおいては比較的安全な場所で行う。加えて私たちもサポートをするから死人が出たことはない。無論、隊員と言えど油断すれば、死者も出るがな。」

 僕は思わず唾を飲んだ。あの日、僕は死んでいてもおかしくなかった。隊員になったとしても、確実に勝てる保証はどこにもない。

「ちなみに来週から始まる5月の入隊テストの持ち回りは久しぶりに我が第8部隊だ。」

「そうなんですね...って来週!?」

「ああ。来週だ。エントリーすれば来週から1ヶ月間訓練だ。」

 急だ。急すぎる。

「やっぱり、急なので、僕は...」

「それでもヨルは受けたいって言ってる。」

 だから言ってないよ!一言も!

「全く、意気地の無い男ニャ。」

 逆にここで自信満々に受ける意気地のある男を見てみたいものだ。

「プログラムにはいつも30人ほど参加者がいる。その中から訓練生になる人間は多くても10人程だ。」

「随分と...少ないんですね」

「当然だ。こちらとていたずらに死者を増やす気は無い。見込みのある者をしっかりと育て上げ、夜獣へ対抗する組織力を確実につけなければならない。無闇に合格者を増やしたところで意味はない。」

 倍率はかなり厳しそうだ。それでももし受かることが出来たなら。

「それでも受かることが出来たら、ルナみたいに自由に夜を駆けることが...」

 また考えが口に出ていたようだ。

「いや、それは出来ない。」

「ど、どうしてでしょうか...」

「夜1人で見回り夜獣の討伐にあたることが出来るのは対夜の中でも特に秀でた特殊部隊の隊員、そして対夜の隊長、副隊長クラスにしか許可されていない。彼女は東京地区特殊部隊βの隊員だ。」

 思わず僕は彼女を見やる。

「強くなれば良いだけ。何か難しい?」

 難しいに決まっている。彼女は簡単に言うけれど、そこまで辿り着くために様々なハードルがあることはなんとなく想像ができた。

「ともかく、だ。訓練は来週からで、その1ヶ月後の実地テストには我が第8部隊と特殊部隊の隊員1名が立ち会う。訓練生になりたくば、そこで結果を示せ。」

 そうして僕は、気づけば半ば無理矢理に訓練生を目指すようルナに仕向けられたのだった。

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