第4話 再会
「星野...ルナさん?確か23時に来るっていう予定だったんじゃ...?」
「聴いてたから。」
「...へ?」
「あなたが聴いてたから。」
なるほど。この子は大分言葉足らずな子なのかな。
「えーと...何を?」
「私の曲」
「え??」
何を言っているんだろう、この子は。
「PLANETSの曲。私が歌ってる。」
僕は思わず聞き返す。
「あの...Luna?」
「うん」
「え...えええええぇぇぇぇぇぇえ!!」
僕が一番好きなアーティストが目の前に?嘘だ、信じられない。でも、確かに声はそっくりだった。そういえば、CDショップでもこの子を見かけていた。あの時も似ている声に衝撃を覚えていた。
「CDショップでも...会ってましたか?」
「うん。だから、ありがとうっていった。」
そういえば確かに、なぜかお礼を言われたような。あれは自分のCDを買ってくれてありがとうって意味だったのか。行間を読むにも程があるというものだ。分かるわけがない。
「私のおじいちゃんのお店。」
「は??」
この子の話の切り出し方は全て唐突だ、今のところ。
中々理解が追いつかず、聞き返すことしか出来ていない。
「"星野”CD。私、星野ルナ。」
「!?」
いやいや、そんな当たり前でしょうみたいな顔をされても。それは置いておくとして、だからあのお店にいた、ということだったのか。自分の祖父の店ということであれば、その店に行くこともあるだろうし、あるいはそこに住んでいることも考えられるだろう。
いささかペースを乱されすぎていたが、僕は漸く話の本筋を思い出す。
確か23時に事情を聞きに来るということだったはずだ。あまりに遅い時間帯ではないかと思っていたが、事態が事態なだけに仕方のないことだと思っていた。
「というか今深夜1時ですけど。」
「うん。遮るのは悪いと思って。」
目的語が足りていない。
「ん?それはつまり?」
「私のCDを目を瞑って聞き入っていたから。23時には来たけど、ここでずっと待ってた。」
「え、じゃあずっと立って見ていたんですか?」
「うん。」
言ってよ!!というか会話のキャッチボールが難しい。この短い言葉のやり取りで、僕はこの子が電波もしくは感性が変わりすぎていることを確信していた。話している感じだとそれが素で特に作っているというわけでもないようだ。たまに計算してキャラを作っている人もいるが、これは相当に痛い。思考が逸れてしまったが、それでも何より、やっぱり憧れのアーティストが目の前にいるのは嬉しかった。言葉足らずなところも、無表情なところも、声が透き通っているところも、そのどれもが彼女を神秘的だと思わせる一因になっていた。僕は気づけば、この時間が終わってほしくないと、そう思っていた。
「そういえばキミ。」
「柊ヨルです...。」
「ヨル」
下の名前呼び!?嬉しいですけれども。
「あの時、近くでとても強いノクスのオーラを感じて、ヨルを見つけた。今はそのオーラが大分弱まっているみたい。どうして?」
「あの、僕、もともとノクスを顕現できたことが一回もなくて。あの時も無我夢中で、気づいたらナイトウルフを倒していたんです。というか何故僕があそこにいるって分かったんですか?」
「それは分かる。そういうものだから」
「は、はぁ。」
何か感知系の能力でも存在するのだろうか。都度発動をしているのか常時その状態なのか、そこまでは聞いたところで僕に関係ないか。
「それにしても、今のオーラでEランクを倒すのはあり得ない。どうして?」
「ええと、僕も分からないです。」
「ふぅん。」
ルナがグッと近づき、その双眸で僕の瞳を捉えた。近い、近いよ。
「ヨル。キミ、面白いね。」
「ありがとう...ございます?」
彼女は一度頷いて、何か考えをまとめたようだった。
「付き合って。」
「え!?」
付き合う!?僕と!?何かの聞き間違いかな。
「明日の放課後」
もう何が何だかさっぱり分からない。
「それじゃあ、私、行くから。」
「え、行くって...」
「夜獣討伐。私、1人で外に出ていいことになってるから。」
「そうなんですね...でも、この時間に?」
「うん。いつも13時くらいに起きて、朝6時くらいに眠るから。」
完全に昼夜が逆転している。いや、むしろ対夜獣部隊はそれが普通なのか?
「気をつけてください。」
「うん。じゃあ、また明日。」
「また明日...。」
そう言うと彼女は颯爽とこの場から出て行った。
ルナが部屋を出てしばらく経った。
なんだか今でもふわふわしている。
彼女が言ったことも正直よく飲み込み切れていないし、付き合う?多分これは完全に彼女が言葉足らずなだけなんじゃないかと思っているけど。
それでも僕は、彼女とひと時でも時間を過ごせたことが堪らなく嬉しくて、信じ難かった。
だめだ...。
今日1日で出来事が多すぎた。
もう頭が処理し切れない。
眠い。眠すぎる。
そうして僕は長い1日の終わりをやっと迎え、意識を手放した。