第3話 予感
最初の間は結構、たくさん改稿しそうな気がしてます。
「...あれ。ここは...。」
ここはどこだろう。起き上がろうとすると左腕に激痛が走った。
「痛ッ」
左腕には包帯が巻かれていて、その他身体の細かい切り傷にも手当ての跡があった。
そうだ。僕はあの時、夜獣に出くわして、それで...。どうなったんだ?まだ頭がぼやけているらしい。周りを見渡すと、椅子に座った陽奈が船を漕いでいた。彼女はひどく目元を赤くしていた。今は...22時か。
「おーい、陽奈ー」
眠りからゆっくり覚めると、彼女はこちらを見開き、目にいっぱいの涙を溜めて飛び込んできた。
「ヨル!目が覚めたの!!本当に...心配したんだから...。うぅ。」
「ごめん...。」
本当に心配をかけてしまった。僕もまさか死にそうな目にあうとは考えてもみなかった。
ひとしきり涙を流して満足したのか、彼女は勢いよく僕の方を見た。
「それじゃあ、寮長呼んでくるね!」
「えっ、呼ばなきゃダメ...か?」
「そうに決まってるでしょ!いっぺんキツく怒ってもらわないと。」
「頭が痛い...。」
陽奈が部屋を出てしばらくすると、一般寮寮長の東郷将生と担任の平田沙希が中に入ってきた。今日の当直はよりにもよって平田先生だったのか...。ことごとくついていない。
「柊、まずは事情から説明してもらおうか。」
「俺も寮長として詳細を把握しておく義務がある。嘘はつくなよ。」
「はい...。」
僕は観念したように事の経緯を詳らかに話していった。途中平田先生と東郷寮長の顔が険しくなっていたけれど、致し方ない。全て洗いざらい話して、楽になってしまおう。
「つまり、帰りの終電でうっかり寝過ごしてしまった、と。」
「はい。」
「日没直後だから夜獣も出ないと思い、改札から走り出した、と。」
「はい。」
「何故その場で待機しなかった?駅の隣には宿泊設備があるはずだろう。」
「その...日没直後だったので、まだあまり夜獣はいないんじゃないかと、思ってしまいまして...」
「ふざけるなよ!お前、今まで教えてきたことをなんだと思ってる!?命が惜しくないのか!?」
平田先生の真剣な叱りに、自分がしてしまった事の重さを少しずつ実感した。
「ホントにすみません...。」
「平田先生のお叱りももっともなのは分かるだろう、柊。ノクスを感知して駆けつけてくれた対夜獣部隊の隊員がいなければ今頃死んでいたぞ。」
そうだ。あの時、僕はあの女の子に助けてもらったんだ。
「すみませんでした。」
平田先生は一旦は怒りを鎮めたのか、今後の説明を始めた。
「その隊員がどうやら聞きたい話があるらしくてな。任務終わり23時ごろにこの一般寮に寄るらしいから、そこでもきちんと事情を説明するんだぞ。そいつはお前と同い年だが、一足先に対夜獣部隊にて実践を重ねている。学校にはほとんど行っていないらしいな。」
そうなんだ。凄い人なんだな。というか、隊員の人は夜になっても外に出れるんだな。それもそうか。夜獣をどんどん倒していかないと、永遠に人類に夜は戻ってこない。
「もう無茶な行動はするなよ?分かったな?」
「は、はい!」
「蒼井ももう部屋に戻って休め。」
「分かりました!ヨル、ゆっくり休んでね。」
「うん、ありがとう。」
そうして平田先生、東郷寮長、陽奈の3人は部屋から出ていった。
あの時、僕に一体何が起きたんだろう。
なんだか夢を見ていたような気がする。いつも聞こえてくる母さんの声。
ふと机を見ると、僕のカバンが置いてあった。いつも愛用しているCDプレイヤーとヘッドフォン、新曲CDを取り出し、僕は漸く聞きたかったPLANETSのマーキュリーを再生した。やっぱりそうだ。この曲を聞いている時は夜空が目の奥に浮かぶ。あんな危険な経験をしたけど、夜空を眺める余裕は全然なかったな。いつかゆっくりと見てみたい。僕はそのまま目を瞑り、しばらくの間何度も曲を再生していた。
ふと目を開けると、目の前にはあの時の女の子が特殊スーツのようなものを着て立っていた。
「ッ!!」
そうか、先生が23時には隊員の人が来るって言っていたな。今の時刻は...って深夜1時じゃないか!
「あの!!」
「君の...名前は?」
「僕は柊ヨル...って言います。あなたは...?」
「私?私は星野ルナ。」
彼女の声はやっぱり無機質で、そしてどこまでも透き通っていた。
僕はこの時、確かに何かが始まる予感がした。