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第60話 VS槍の勇者

「てやっっ!!」


 キングオークを一撃で仕留めた俺はネネ、メイと共に「神獣の里」へと向かっていた。


 魔王メリッサの能力により、この大陸の魔物は全て二段階脅威度が上昇している。

 ミノタウロスはキングミノタウロスへ。

 オークはキングオークへと進化したのだ。


「にしても、本当に出る魔物全てが強くなってるのね。ネネちゃんの故郷は無事かしら?」


「にゃあ。ネネの里は特別な魔導具を使っているから魔物に関しては平気だと思うにゃ」


 確かに。

 前回「神獣の里」に行った時、俺達は建物自体が魔導具になっているものを目の当たりにしている。

 彼らの魔導具の文明は俺達人間よりかなり進んでいるのだ。

 ネネが故郷を特段心配していないのも頷ける。


 とは言え、それが魔物を放置していい理由にはならない。

 俺は自身のレベル上げも兼ねて次々と魔物を倒していった。




 「神獣の里」まであと少しという距離になったところで、メイは何気なく呟く。


「まっ、こっちのパーティはアルスがわたし達を守ってくれるから良いんだけど、向こうは大丈夫なのかしら?」


 メイは俺達とは別に行動している、アルス村に転移したメンバーのことを言っているのだろう。

 アルス村へはレオン、アリシア、分身したメイが向かった。


「にゃあ……。ネネもそれが心配にゃ……」


 どうやらメイとネネはレオン達に不安があるらしい。

 しかし……。

 俺は彼女らとは寧ろ逆の考えを持っていた。


「アルス村は大丈夫だよ。向こうにはレオンがいるから」


 彼女らの不安を払拭したつもりだったが、メイは怪訝な表情を浮かべる。


「? アイツが? てっきりわたしは後輩ちゃんがいるからだと思ってたわ」


「うん。勿論アリシアも頼りになるよ。だけど、今のレオンは……たぶん俺より強いんだ」


「ちょっ……! 本気で言ってるの、アルスッ!?」


 仰天するメイだが、俺は落ち着いたまま彼女に説明する。


「うん。理由は分からないけど、今のレオンは凄く強くなってるんだ」


 レオンは俺達のパーティに加入したが、自身のことを全く話さないため、まだ分からないことが多かったりする。その一つは彼の能力だ。

 恐らくレオンは短期間で戦闘力を上昇させるユニークスキルを所持していると予想しているが、詳しいことは分からない。


 だからこそ、俺はここでレオンと同程度の強さに到達しておきたかった。

 そう。

 アルス村に向かったパーティは心配じゃない。

 逆に心配なのは……。


 俺がある結論に到達しようとしたところで、正面からゾッとするような殺気を感じる。

 魔王軍の四天王を遥かに上回るオーラ量から、緊張の密度は一気に加速する。

 誰が現れたのかは容易に理解できた。


「お前がアルスだな?」


 短髪に長い丈の服装をした人物。

 「斧の勇者」と同程度の若さをした男性は片手に長槍を装備していた。


「……ッ!! 貴方も魔王に操られている勇者ですかっ!」


 俺はすぐさま剣を抜き、メイとネネも臨戦態勢に入る。


「人聞きの悪い言い方だな。確かに俺は魔王メリッサによってこの地に復活した『槍の勇者』だ。だが、俺は使命を帯びてここにやって来ている」


「使命……。それは俺達を消すという使命ですか?」


「ああ、そうだ」


「おかしいですっ! 貴方は今自分が何をやっているのか分からないのですか!?」


 俺は静かなプレッシャーを放っている槍の勇者に問い詰める。

 彼は斧の勇者と違い、理性的な態度をしているからだ。

 自身の行動が人類に悪影響を及ぼしていることは分かっているはずだ。


「俺に問答を挑むか……? 確かにお前達は悪い奴に見えない。だが……『神獣の里』へ行きたいならこの俺を倒してみろッ!」


 俺に向かって一気に駆け出してくる槍の勇者。

 やはり「神獣の里」に魔王を倒す手がかりが何かあるのか?

 俺はポイント・エージェンタを付与した剣で勇者の槍と打ち合う。


 カキンカキンカキンッッ!!


「……ッ!!」


 この勇者……!?

 打ち込みの量が尋常じゃないっ!

 手数が追い付かない俺は大きく後退するが、メイとネネから距離をおかれ、分断されてしまう。


「アルスッ!?」


「あるす!」


 森の中へと追い込まれた俺は二人に自身の居場所を知らせるため、呼びかけに応じようとするが、槍の勇者はそれを全く許さない。


「――ッ!」


 駄目だ。

 今は目の前の戦いにしか集中できないっっ!

 勇者の槍撃が凄すぎて声を出す余裕すらっ……!


「フッ。安心しろアルス。俺は他の勇者と違って不必要に人を殺すのは好まない。俺の標的は唯一人だ」


 どうやら槍の勇者はメイとネネを攻撃するつもりはないらしい。

 が、彼は俺が二人の協力を得られないよう、常に彼女らから遠ざかるように攻撃を繰り出してくるのだ。

 結果、俺と勇者の一騎打ちに持ち込まれるが、状況は防戦一方だった。


「どうしたアルス。まさかとは思うがその程度なのか?」


「ぐっ……!」


 ダメージが殆ど与えられないうえに、仲間の助けを得られない状況。

 だけど……。

 槍の勇者の狙いが俺一人なら、取る行動は一つだ。


 俺は敢えてメイとネネに遠ざかる形で後退する。

 木々の生い茂る森の奥深くへ槍の勇者を誘いこむためだ。


 これだけ木のある森に入れば、必ずあの長槍が邪魔になるっ!


 しかし、この作戦はあっけなく失敗していた。

 槍の勇者は有り得ないスピードで木々を跡形もなく蹂躙していったからだ。


 不味いっっ!

 槍スキル「乱撃」か……!


「――――ポイント・エー…――――」


 地面に手をついて木々を元に戻そうとするも、物凄い速さで槍の勇者が迫ってくる。


「そんな浅知恵で俺を倒せると思ったのか? 言っておくが俺は強いぞ」


 バシュッッッッ!!


 俺は装備している剣で迫ってきた槍を対処するも、頬に攻撃をチリッと受けてしまう。


 なっ……!?掠っただけでこの威力!?


 ボババババババッッ!!


 他の追随を許さない打ち込み量。

 俺の心が折れればとどめを刺され、即詰みだ。

 撤退する余裕すら無くなった俺は今度は剣で真っ正面から立ち向かう。


 カキンキンキンキンキンッッ!


 ぐっ……。

 駄目だ。

 このまま真正面からの戦いを続ければ、どう考えても先にこっちの体力が尽きるっ……。


 そして、数分後……。

 辺り一帯の木は全て無くなっていた。

 ゼーゼーと肩で息をする俺に対し、疲労を全く見せない槍の勇者。


「まさか……ここまで張り合いが無いとは……。ガッカリだ。お前には自分が死ぬかもしれないという危機意識が無いのか?」


「くっ……!」


「先程、他人を攻撃するのは好まないと言ったが、やはり訂正させてもらおう。お前を殺し、お前達の仲間を全員殺す。そして、『神獣の里』の獣人も皆殺しにしよう」


 槍の勇者からおぞましい計画を打ち明けられた瞬間、俺はタガが外れたような感覚に陥る。


 この勇者が言ったことが現実に起これば……。

 俺は今戦い抜けなかったことを一生後悔するっ!!


「させるかっ!」


 俺は「ウェポンボックス」から斧を取り出し、身体強化で一気に加速する。


「――――ビッグバンスマッシュ――――!」


「何ッ!?」


 斧スキルを発動し、俺は勇者の装備する槍を粉々に砕いていた。

 いけるっ……!

 あの凄まじい攻撃力を放つ槍を破壊したんだ!


 勝利を確信した俺だが、槍の勇者からゾクリと殺気が放たれる。


「――――ウェポンボックス――――」


「なっ……!?」


 「ウェポンボックス」だとっ……!?

 「神獣の里」の奥義を発動した槍の勇者。

 彼は新たな武器である槍を取り出していた。


 不味いっ!

 一旦距離を取らないとっ!

 俺は咄嗟に大きく後退するも、槍の勇者は冷たく吐き捨てる。


「それは悪手だろ」


 ドシュッッッッッッ!!


 勇者の突いた槍は俺の左( もも)を貫通していた。

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