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第30話 【SIDE勇者】命のカウントダウンが始まる

 奴隷のネネに王都近くの森まで吹き飛ばされた俺はあてもなく歩いていた。

 あの憎たらしいアルスを英雄と崇めるアルス村の近くだ。


「ああクソッ! 何もかもお終いだ!」


 王都に帰れば間違いなくユニークスキル【勇者】を剥奪され、最後のパーティメンバーである【聖女】メイも失う。


 「神獣の里」での仕置きは既に終わっている。

 がしかし、戦場で何があったか最低限の報告は族長のノノが国王にしているだろう。


「全く! 勇者であるこの俺がどうしてこんな目に遭わないといけない!」


 近くの小石を蹴っ飛ばしながら歩を進めていると、不意にカサカサとこちらに誰かが接近している足音が聞こえる。


「何だ? 誰かそこにいるのか?」


 俺は警戒心を働かせながら正面の茂みを睨んでいると、長髪の女性が姿を現す。


「アナタが勇者レオンくんね~。探したわ~」


 成程な。母性溢れる大人のお姉さんというやつだ。


 年齢は俺より年上だが、今まで見てきた女性陣に負けず劣らず理想的な胸とくびれをしている。


 今までの俺なら彼女に絞りつくされ、そこで終わっていただろうが、俺はまだガードを緩めない。


「何だ、お前? 国王からの使いか何かか?」


 ここは王都の近くだ。「神獣の里」の件で、既に密偵が俺を探していても何も違和感を感じない。


「そんなに警戒しなくても良いのよ~。【剣聖】のメリッサと言えば分かるかしら~?」


 彼女の発言に俺は高笑いする。


「ハッ! メリッサさんと言ったな。冗談も大概にしてくれ! 残念ながら、【剣聖】はこの俺の【勇者】同様、大陸に二人として存在しないんだよ!」


 認めたくはないが、【剣聖】という称号を持っている人物を俺は既に知ってしまっている。


 そう。どちらが嘘をついているかはどう考えても明白だ。


「信じてもらえないのね~? ならこれでどうかしら~?」


 彼女は足元にあった木の枝を拾い、よいしょ~と言って横薙ぎに払う。


 ドサドサドサドサドサッッッ!


 辺り一面の木々は完全に倒れてしまい、俺は思わず眉をひそめていた。


「アンタ何者だ?」


 心の底から出た感想だ。

 あのクソ忌々しい剣聖のアリシアでもこれだけの木を倒すことは不可能だろう。

 それも……拾った木の枝で。

 彼女のあまりの実力の高さに、俺は驚きを通り越して恐怖を感じていた。


「だから【剣聖】って言ったじゃない~。これで信じてくれる~?」


「いや、もしそうだったとして、ここに何しに来た?」


「報告をしに来たのよ~。ねえレオンくん。アナタここに来る前、随分ツライ目に遭ったみたいねぇ~」


 彼女の発言に俺は思わず一歩後退する。


 まるで里での失態を知っているかの様な物言いだからだ。


「何故メリッサさんがそれを知っているんだ? それに、アンタには関係ないだろ!」


 これだけボロボロの姿を見れば、俺がどういう目に遭ったのか容易に想像できるのかもしれないが、念の為問い詰める。


「理由は内緒だけど、困っているみたいだし、私が既に手を打っておいて上げたわ~」


「手を打っただと!? ど、どういうことだ!?」


「『レオンくんの勇者剝奪を帳消しにしてください』って私が直接国王にお願いしたのよ~」


 【剣聖】という肩書を利用し、交渉の材料に使ったのか!


「それで結果はどうだったんだ!?」


 俺はメリッサの返答を急かすように聞くと、彼女は唇を三日月にして答える。


「『今回は不問とする』と言っていたわ~」


「ヨッシャ!!」


 腹の底から出た声が森中に響き渡る。


 何という僥倖(ぎょうこう)

 これで勇者剝奪は免れたわけだ。

 それに【聖女】メイもアルスの元に逃げることは不可能になった。


 俺はその場で喜びをみなぎらせていると、メリッサは更に笑顔を浮かべる。


「そうと決まれば一緒に冒険に出かけましょ~。勿論メイちゃんも連れて~」


 突然出てきた提案に俺は彼女についていけなくなる。


「は? 今何て言ったんだ、メリッサさん?」


「えぇ~。ワタシをレオンくんのパーティに入れてくれるんじゃなかったのぉ~」


 メリッサはしくしくと両手を目の前に当て、上目遣いで俺を見つめてくる。


 うんうん。彼女は中々可愛いところがあるな。


 しかし、俺はまだどこかで彼女を信用できないでいた。


「いや、メリッサさん……。パーティ加入の申し出は嬉しいんだけど、急すぎる。それに、正直言ってアンタの目的がまだ俺には分からない」


「ワタシは仲間と共に冒険をしたいのよ~。それに折角なら、とびきりつよぉい勇者と一緒にいたいのは当たり前でしょ~。それだけで十分じゃない?」


 メリッサさんが魅力的で強いのは確かだ。

 だから俺は彼女が喉から手が出るほど欲しいッ!それも物凄く!


 だが、俺は勇者といってもLv1だ。

 彼女に期待外れと思われ、即脱退されるのが目に見えている。


 そんな俺の不安を察したのか、彼女は慈愛に満ちた笑顔を浮かべる。


「安心して~。しばらくの間、レオンくんはワタシが面倒を見てあげるから~。足りないところを補うのはパーティとして当然のことでしょ~」


 そう言って、彼女はむにゅ、っと背後から胸を押し当ててくる。

 それも、白くて大きい双丘がだ。


 オイオイオイオイオイッッッッ!!!!


 俺は興奮が絶頂に達し、鼻息が荒くなる。


「私が手取り足取り教えてあげるから~」


 うふふと彼女が絡めるように手を握ってきた瞬間、俺は空いた片手を空に向かって上げていた。


「ヨシ、メリッサさん! 俺と一緒に魔王を倒すぞ!」


 残りの余命で俺が魔王を倒し、歴史に名を刻む。


 もうアイツらに復讐するにはこれしかない!


 有頂天になっていた俺だが、何故か一瞬メリッサから笑顔が消える。


「魔王……」


 そう呟いた彼女は瞬時に俺から手を放す。


「あ、ああ……。どうしちゃったんだよ、メリッサさん? 今の俺達なら不可能じゃないだろ!」


「それは…………。楽しそうねぇ~」


 先程の消えた表情を打ち消すようにメリッサは再度笑顔を浮かべていた。




 突如現れ、自身を剣聖と名乗る謎の女性メリッサ。

 レオンはすっかり彼女に鼻の下を伸ばしてしまっていた。


お読みいただきありがとうございます。


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