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第15話 【SIDE勇者】里で歓迎され、魔王軍討伐の総指揮官に名乗りを上げてしまう(後編)

「ネネ様が帰られたぞ!」

「じゃあ、あの隣にいるのは勇者か?」

「勇者さまー!」


 恐る恐る俺は里の内部を案内されるが、段々と気が楽になってくる。

 何だよ。獣ばかりでむさくるしいと思っていたが、案外悪くないじゃないか!

 それに、俺の悪い噂もどうやらここには存在しないようだ。

 だんだん居心地が良くなってきたところで、俺は宮殿内部に案内される。


「ノノ様! ネネ様と勇者様が参られました!」


 ふーん。あれがネネの姉か。

 ネネ同様猫耳をしているが、髪は黒く、臀部まで伸びている。

 コイツと違って胸はあるし、スタイルも良いな。

 ヒップと脚をいやらしい目つきでジロジロ見ていると、凛とした声が室内に響く。


「帰ってきたのか我が妹よ。それに、わざわざ足を運んでもらって悪かったな、勇者殿」


「ああ、俺が来てやったからには、この里はもう安心だ」


 ここ最近良いことが無かった俺だが、次第に調子が戻ってきた。

 ったくこんな場所があったのなら、早く教えろよ。傍にいるネネは後でお仕置きしないとな。


 自信満々に答えた俺に喜びを隠せないのか、周りの老いた獣人達は歓喜の声をあげ、ネネ姉も僅かに玉座から前のめりになる。


「それは心強い。それでは、我が里の現状について説明させていただこう」


 そこから2時間に渡って会議が行われたが、俺は内容を殆ど聞いていなかった。この後の飯と酒にしか興味が無いからだ。


 分からないことは後でその辺にいる奴から問い詰めればいい。途中、要注意な魔族の説明がされたが、そんな話は全く聞いていない。


 しかし、一点だけ俺は注意して耳を傾ける議題があった。

 それは戦場での俺の役割だ。


「それで、勇者殿は我々を前線で導いてくれるという理解でよろしいか?」


「いいや、俺は戦場で戦わない」


 一瞬、室内に沈黙がべたりと舞い降りる。


「どういうことかな?」


「話を聞いて分かった。まずこの里の兵は魔王軍に対して圧倒的に数が少ない。だから、俺がこの軍の指揮官として策を練る必要がある」


 装備を揃えた俺だが、時間がなかった為、レベルは未だに1だ。

 だから、わざわざ死地に赴くようなマネはしない。


 安心しろ、この里の兵士たちはちゃんと俺が指揮してやるよ。

 クックックッと内心ほくそ笑んでいると、隣にいたネネが猛反発する。


「ニャッ!!?? レオンにはちゃんと前線で戦ってもらうべきニャッ! コイツは策に関してはサッパ……」


 俺は即座にネネの口を手で閉じさせ、黙らせる。

 うるさいな。故郷に帰ってきたことで調子に乗り始めたか?

 ネネの姉は一瞬、訝しげな表情を浮かべるも、気にせず続ける。


「? まあ、確かに勇者殿の仰るとおりだ。我々はもう数でどうこうできる状況じゃない。そういう戦術があるならば、是非とも戦場で指揮をお願いしたいものだな」


 彼女の発言を境に、横にいた老獣達は騒ぎ立てる。


「勇者様、軍の総指揮官として我々を導いてくださいませ!」

「今こそ勇者様に指揮を委ねるべきです」

「ええ、どうか我らの里に希望を!」


「正気かニャ!? この里が滅びるニャ!」


 オイオイオイオイ。とうとう俺の時代が来たか!

 どうやらコイツらはこの勇者様を頼る以外の術がないらしい。

 策士の俺はニタリと微笑み、次の一手を講じる。


「ノノ。あんたに質問があるんだが、ここにアルスと名乗る人物が来ていないか?」


「いいや。そのような報告は聞いていないな。そもそも我が里は人間を歓迎していない。迎え入れても数人程度だが、その人物がどうかしたのか?」


「ああ、そのアルスという人間をこの里に入れないでもらいたいんだ。アイツは人間のいる町で数々の犯罪を犯している。きっとここに逃げてくるに違いない」


「ニャニャニャッ!!?? レオン、気は確かかニャ!?」


「念の為、見張り役に伝えておこう」


 俺と族長のやり取りに遂に耐えられなくなったのか、ネネはその場から立ち上がり、身振り手振りを交えて力説する。


「みんにゃ! コイツは風上にもおけないやつにゃ! 今すぐ目を覚ますにゃ!」


「ネネ様! 落ち着いて下さい! 今は勇者様に任せましょう」

「そうです! 勇者様が何とかしてくれます」

「ネネ様、久し振りの帰省で少し興奮状態に見えますぞ」


「にゃぁ……」


 しゅんとして溜息をつく彼女に俺は勝利を確信する。


「ネネは長旅で疲れてるから大目に見てやってくれ。現に、俺達はこの里に辿り着くまで、数多くの魔物と戦っている。まぁ、この俺が全てやっつけて来たわけだが」


「全部ネネに押し付けた癖によく言うにゃ……」


 俺が言葉を発せば目を輝かせる獣人達。

 ふん。一生ここで生活するのも悪くないな。

 だからこそ、俺はこの里の英雄になる必要がある。


「ハハッ! ネネ、感謝しろよ! アルスの助け無しに俺がこの里を救ってやる」


「絶対無理にゃ……」


 誰にも耳を傾けてもらえなかった奴隷のネネは死んだ魚のような目をしていた。




 己の力量を勘違いし、魔王軍討伐の総指揮官に名乗りを上げてしまった勇者レオン。

 しかし、彼はまだ知らない。戦場であの剣聖と再び対面することを。

 レオンがこの里を破滅に導き、追い出される日はそう遠くない。

お読みいただきありがとうございます。


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