小さな心
随分と続き(本編)を書くのに苦労しました。
今投稿しているものだけでも見ていただけたら嬉しいです。
いつもより少し早く起きた朝。
隣で寝ているソル兄ちゃんを起こさないよう、こっそりとベッドから出て、床に置いてた本を抱え、ふらつく足で部屋を出る。
「…う~ん、ねむい」
覚めやらぬ頭で出来るだけ足音を立てないよう玄関まで移動し、慣れない手つきで靴を履き家を出る。
「わぁ~しずか~…」
玄関の扉を出た後、初めて一人で外に出たこと、まだ朝日も登り切っていない外に出ること、いくつもの理由があったからかな、気づいたらさっきまで眠気でいっぱいだった頭の中は
「~~ッッ!!」
希望で満ち溢れ、輝いていた。
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「はっはっ」
家から少し離れた場所にある丘の頂上を目指して、湿原を走る。
そこで早朝にだけ見れるすごくきれいな景色があるって、昨日兄ちゃんが読み聞かせてくれた本にそう書いてあった。
どうしてもそれが見たくて、堪え切れずに家を飛び出しちゃった。
そうだ!帰ったら兄ちゃん達に自慢しよう!驚くかなぁ~!
「はっ、はっ…あと、ちょっと」
この後のことを思い浮かべながら走っていたら、丘の麓まで来てたみたい。
「うわぁ~、結構急な坂だなぁ…」
顔を上に向けないと、頂上が見えないくらいだ。
「よーし、一気に登るぞ~」
急な坂道を勢いよく蹴り、脚を回して頂上を目指す。
何度も転びかけたものの何とか頂上までたどり着く。
「ヒューッヒューッ」
一気に駆け上がったせいで息は上がり、汗が止まらない。
限界を迎えた体は、頂上からの景色を見るよりも先に地べたに寝転がり、休憩をとった。
それからしばらくして、時間はかかったけど何とか落ち着いてきた。
「きつかったーッ!!でも後は、ここで待つだけだ!」
その場に座り直して、辺りを見渡す。
まだ太陽が拝めないほどの、けれどもを視界を確保できないほど暗くもない、早朝より少し早い時間。
しずくで化粧のされた緑生い茂る丘がまばらに点在し、目の先には丘の間から少し見える海。
幼い心ながらも既にきれいだと思えるこの景色が、どんな風に変わるのか、想像するだけで胸のどきどきが収まらない。
「早く見たいなぁ!」
焦がれる心とは裏腹にゆっくりと進む世界。
ただ景色を眺めながら、大きな本と小さな膝を抱えて静かに待ち続けた。
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「ありさんが10匹〜おやつのばっしょ〜をさがしってえっほほ〜い」
待ち始めて十数分。
「ありさっん、おやつを見つけて、むっしゃっしゃ〜」
待てども待てども空色しか変わらない景色にくたびれ、本を下敷きに寝転びながら蟻を眺め、陽気に歌っていた。
ふと、自分の下に敷いた本が目に入り、辺りを見渡す。
やはりわずかに空が明るくなったくらいでほとんど変わらない風景。
「…………もーー!まだ見れないの〜?」
我慢の限界が来た。
不満を漏らし、手足を目いっぱい伸ばして仰向けになった瞬間
「おーーーーい、ルドーーーーーー!」
丘の麓から自分の名前を呼ぶソル兄ちゃんの声が聞こえた。
手を振りながら軽やかにかけ登る姿と何故か現れたソル兄ちゃんに驚きで頭が追い付かない。
「あれ、ソル兄ちゃん!?どうしたの!」
段々距離が近づいてきたからか、先程より落ち着いた声でソル兄ちゃんが質問に答えていく。
「はぁ、はぁ…ルドを探しに来たんだよ…お前こそ、こんなところで何してるんだ?まさか、昨日読んであげた風景を1人で見に来た〜、とかじゃないだろうな?」
今度はソル兄ちゃんが、どうして1人でこの丘の頂上まで登っていたのか聞いてきた。
「すげ〜!!兄ちゃん、なんでわかったの!?なんでなんで!?」
僕がここにいる理由を当ててみせたソル兄ちゃんに驚き舞い上がる。
「はぁ…やっぱりか、こりゃ母さんに怒られるな…起きたらルドと昨日読んだ本が消えてたからそうかもって思ったんだ」
「なるほど~!スゴいな!ってあれ?おかあさん怒ってるの?」
お前の所為でプンプンしてるぞ~!って言いながら僕の頭をワシワシしてきた。
ちょっといたいけど、なんでかなぁ、こうやってるのが凄い楽しい。
「そうだ、それと勝手に子供が1人で家を出ちゃ駄目だろ?母さんが興奮のあまりまた倒れちゃうだろ。なにより、魔物が出るかも知れないんだ、危ないだろう?」
「子供が1人で家を出るな、と言っているがソルよ。兄である貴様も1人で外に出ているがそれは良いのか?」
ソル兄ちゃんに叱られてると、その背後から声がかけられ、説教が遮られた。
やったな!
「グラスか…俺はまだ良いの。お金も知恵も多少はあるしグラスもいるから。でも、ルドは戦えない…身を守れないから」
「あっ!ぐらすだ!おはよう!」
「おはよう、ルド。今日も元気なのだな。」
「うん!!」
ぐらすは、ソル兄ちゃんの精霊?らしくて黄色い半透明の羽が生えた、緑の水玉模様が付いた牛の縫いぐるみみたいなやつ、ふわふわで可愛い。
「っと、あまりの元気よさに忘れるところだったのだ。自分の事は棚に上げて…と言いたいところであるが、ソルの言い分にも一理あるのだ」
「だろ?」
「だが、幼子にそれを理解しろというのも、到底無理な話なのだ。それよりも無事であることが分かったのだから、今は母君を宥める事でも考えておくと良いのだ。弟の助けをしてやる、それが兄としての務めの1つであるのだ」
「うーん、だよなぁ〜…」
ソル兄ちゃんとグラスがなんか難しい話をしてる…。
あんまりにもなにを言ってるのかよくわからなかったから、2人のことをボケェ〜っと眺めちゃってたや。
よし!聞いてみよう!
「ソル兄ちゃんたち何を話してるの?」
「お前のせいで慌てふためく溺愛母さんをどうしたら宥められるか考え中だっ!」
瞬間、僕の頭をまたワシワシと撫で回した。
また、撫でた!
「やめろぉ!はなせぇ!」
「やめるかぁ!」
抵抗してみたけど、無駄だった…がくっ…
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それから暫くして、兄ちゃんと一緒に景色を見ることになったから、話しながら待つことになった。
「まあ簡単に言うと、太陽が出たら風が一気に吹いて雫が舞い上がる。その結果きれいな景色が見れるんだって、後ちょっとで見れるんじゃないかな」
「ホントに!?」
「多分な、だろ?グラス?」
「うむ、後少しなのだ」
「おー、やっぱり精霊ってスゴいなぁ~いつ風が吹くのかも分かるんだもんなぁ~」
「確かに分かるには分かるが、長い間この近くにいたから親和性が高まり分かるようになっただけで、他の場所に行けば、多少他の生き物より少しだけ環境に詳しくなるだけなのだ」
しん、わ?、かんきょ?う~んぐらすの言う言葉は難しいのが一杯だ…また今度、ソル兄ちゃん達に教えてもらおう!
「お、2人とも、もうすぐ風が発生する時間なのだ」
「おっ、やっとか!」
「ほんとう!?やったぁ!」
ぐらすの呼び掛けに待ちわびた感情に再度火が灯った。
丘の間から覗き始めた太陽、煌めきだす群丘。
「来るのだ…3、2、1…今!」
ぐらすの声と同時に、辺り一帯に物凄い音が響き始めたかと思った瞬間。
「「!?」」
あんまりにも風が強い所為で、息が…!!
「ルド!下を向け!」
ソル兄ちゃんが何か言ってるけど、上手く聞こえない、取り敢えず兄ちゃんの真似しとこ!
「んわっ、息できた!!」
急に息ができるようになったと思ったら変な声でたや。
「グラス!なんだよこれぇえええええ!!!」
「なんて言ってるのだ?聴こえないのだ」
風が強すぎて、兄ちゃんがなんか叫んでることしか分かんないや。
あ、ぐらす平気そうだ。スゲ~!
もうなんかスゴすぎて凄い!!
「ってあれ?な、なんか体がっ!うわ、うわああああああ!兄ちゃぁああん!からだ!からだが飛んじゃうううう!!」
体が浮いてる、浮いてる!
「ルドォオオオ!兄ちゃんのズボンに捕まれぇえ!」
「わかったぁああああ」
急いでソル兄ちゃんの言葉に従い、何とかズボンに手を伸ばした。
でも、その瞬間…
プツン…
「ちぎれたぁあああああ」
「ベルトぉおおおおおお」
風で煽られるルドの重さが、ベルトの耐久限界値を越えたのであった。
「ぬんっ!」
ソル兄ちゃんはベルトが破損した事に驚きはしてたけど、直ぐに両足を広げてズボンの後退を食い止めてた。
お陰で留まることができたけど、顔にズボンが当たって息が…
「ルド!大丈夫か!?」
「フィキガデギバビ(息ができない)」
「ソルよ、ルドはどうやら息を詰まらせているようなのだ」
「おいルド?ルド!ルドォオオオ!!!!」
もう無理、我慢できな…
「後少しなのだ、がんばれルド」
段々手から力が抜け落ち始めたタイミングで、急に体の浮遊感が消え、直後に猛烈な衝撃がお腹を襲った。
「ぐえ」
「がは」
「収まったのだ」
た、助かった…死ぬかと思った。
「はぁーはぁー、今人生で一番焦った…」
「ボクも」
「二人ともお疲れさまなのだ、疲れを癒すのはこれを見てからでも良いと思うのだ」
ぐらすの言葉を聞いて、涙と涎と鼻水、土と草で多分ぐちゃぐちゃになってるだろう顔を何とか上げて回りを見た。
「「…………」」
言葉が出なかった。
さっきまで薄暗くて何も無かった群丘は、朱と蒼に染められ、さっきとはうって変わり、緩やかなそよ風に、そしてそれに靡く緑の丘。
空中にはさっきの強風で舞い上げられた無数の雫と草、それを照らす太陽。
雫は照らされた光を反射して、目の前の景色が全部、文字通りにキラキラと煌めいていた。
「「きれい」」
「うむ」
暫く時間がたったのに、その言葉しか出てこなかった。
「ルド、どうだった?」
「凄かった、頭のなか真っ白になったよ…ソル兄ちゃんは?」
「一緒だ」
「頑張った甲斐があったのだな。さて2人とも、そろそろ顔を整えて帰りの支度をした方がよいと思うのだ。」
「ハッ母さんに怒られる!ルド、しっかり記憶しとけ?そんなに滅多に見れるもんじゃないからな、記憶したら帰るぞ」
「うん」
こんな体験も、3人と一緒に見たこの景色も、多分絶体忘れない。
「ソル兄ちゃん、ボク…オレ冒険者になるよ。冒険者になって、また色んな人と色んな景色を見る」
「ふふ、だったら凄く強く強くならないとな、英雄みたいに」
「だったら、オレ誰よりも強くて色んな景色を見れる冒険者になる!」
「そうか、頑張れよ」
ワシワシと頭を撫でられる。
揺れる視界の中でもしっかりと景色とこの思いを記憶に刻んだ。
「まあでも、そんな顔じゃとても英雄にはなれそうにはないな!」
そういって、目の前に顔の前に鏡を出してきた。
「ブフッ!なんじゃこりゃ!汚っ!」
顔が凄いことになってた!
おのれ、兄ちゃんめ!せっかく想いを固めてたのに!
「そういうソルの顔も中々に凄まじいことになっているのだ」
ぐらすが、口許に小さな手をおいて、笑いながら残ったもう片方の手をソルに向けていた。
「え」
「ブフッ!やーいやーい!兄ちゃんの変顔ぉー!」
「何をぉ!?」
キャーキャーと騒いで走って逃げて、麓まで転がり落ちて、全身グズングズンなって家に帰った。
もちろん母さんには怒られた。
愛憎想起のサイドストーリーが有ります興味があれば見てやってください。
ただ、文章レベルがかなり低いものになっているので、そこはご容赦ください。(時期に直していきます)