異世界
第3話 異世界
「タケルーー!!」
タケルが怪物の口の中に落ちていく。ユミと雄介は、どうしようもなく、突っ立っている事しか出来なかった。地震、鐘の音、暗闇、見た事のない風景、壊滅した街、怪物、理解する事さえ出来ない、現実のものとは思えない出来事の連続。混乱した2人の頭でも、1つだけはっきりと分かる事があった。タケルが、食われる。
「…これは…何だよ。…あんまりじゃないか。」
タケルが怪物の口に入る寸前、そう呟くのが、雄介には聞こえた。
「…雄介!?」
何も考えられなかった。ほとんど反射的に、雄介は動いていた。6メートルほどあるその身体に突進していく。雄介は怪物の身体を駆け上がろうとするも、怪物の身体は、まるでスライムのように柔らかく、流動的で、足の踏ん張りが効かない。皮膚から流れ出る粘液で、雄介は足を滑らせた。
「雄介!無茶よ!!」
「返せよ!ふざけんじゃねぇ!タケルを返せ!俺がぶち殺してやる!!」
何度かトライするも、結局足を滑らせて地面に叩きつけられる。雄介は、その身体に向かって一心不乱に拳をぶつけた。しかし、拳が怪物の身体にあたると、ぬめりという音とともに生暖かい液体が拳を包むだけであった。
「返せ!返せよ!いい加減にしろこのクソ野郎!!」
突如、世界が光に包まれた。そして、少し遅れて激しい雷の音がし、突風が辺りを吹き荒れた。雄介とユミは、その風で吹き飛ばされる。
「ゴホッ…ハァハァ…な、何が?」
「…タ、タケル!」
先程まで化け物が立っていた場所には、1人の男が立っていた。地面には焦げたような跡がある。そして男の肩には、タケルがぐったりと抱えられていた。
「…ほらよ。」
男はそう言うとタケルを2人の方へ投げる。
「タケル!おい!大丈夫か?!」
「…な、何がどうなってん…の?」
タケルは小さく咳をしながら言った。得体の知れない化け物に食べられそうになったその時、空が光ったのは覚えている。しかし、そこから先の事は何が起こったのか全く理解出来ていなかった。
「お前ら、一体なぜまだここにいる?街の連中はとっくに避難している筈だが…それになんだ?その服装は?見慣れない服だが…サーカスか何かか?」
「…えっと、あの、まだ混乱してるんですけど、一体ここは…?」
その時、遠くの方で大きな衝撃音が鳴った。男はチッと舌打ちをすると、3人に向かって言った。
「まぁなんでもいい。とにかく俺は向こうの妖魔も始末してこなくてはならない。ここからローズ広場まではもうすぐだ。広場には軍がいるからそいつらの指示に従え。あとは自分達で行けるな?生きたいんだったらさっさと広場まで行くんだな。じゃあな。」
グォンという音と共に、男は姿を消した。気がつくと、辺りはすっかり晴れていた。代わりに、さっき衝撃音が鳴った方にどす黒い雲が集まっている。
「…雷と一緒に動いてる、なんて言わないよな?」
雄介がボソッと言う。タケルもユミも、笑い飛ばす事は出来なかった。
「…少し、状況を整理しましょう。」
ユミが覚悟を決めたような顔をして言った。
「まず、これは何かのドッキリではない。いいわね?」
2人共頷く。
「次に、私達はつい10分ほど前までは雄介の家の裏路地にいた。ところが、急に辺りが暗くなったと思ったら、気づいた時にはここにいた。」
またしても、2人は頷く。
「そして、ここにはおかしな化け物がいて、タケルが食べられそうになった。さらには雷みたいな男が現れて、化け物を殺した。そして一瞬のうちに姿を消してしまった。」
ユミはそこで一旦口を閉ざし、何かないか?と2人に目で聞いて来た。2人とも、首を横に振る。
「じゃあ、ここから導き出される答えは…タケル?」
急に指名され、タケルはビクッと身体を震わせる。
「分かるわけないだろ。夢か、もしくは俺らの頭がイカれちまったのか。それとも、ここは異世界だー!とか?」
最後のはヤケクソになって言ったのだが、驚いたことにユミはそこで大きく頷いた。
「その通り。これは夢じゃない。だってほっぺをつねっても痛いもの。そして私たちの頭はいかれてはいない。となると、ここは異世界と考えるしかない。違う?」
「いや、いくらなんでもそれは、」
「俺はその通りだと思う。」
「…雄介?」
「タケル、考えてもみろよ。お前さっきどんな目にあった?もうすぐで死ぬとこだったんだぞ?」
タケルは、反論しかけた口を閉じる。それを言われると、確かに何も言えない。
「分かった?ここは異世界か何かなのよ。少なくとも、私たちのいた日本、地球ではない。つまり、とりあえずこれから私たちがやるべき事は…」
「ローズ広場に行くこと。」
雄介が間髪入れずに答えた。
「そう。ここじゃいつさっきの化け物、あの人は妖魔って言ってた?それが襲ってくるかわからない。行きましょう。」
ユミはそう言うと、早足で歩きだす。それに続いて、雄介も歩き始めた。
「ちょ、ちょっと待てよ!」
「何だよ!早く広場に行かないと、お前またあの化け物に食われちまうぞ!」
雄介が怒ったように言った。いや、そうは言うけどね。
「お前ら、ローズ広場がどこにあるのか知ってんのかよ?」
「「あっ」」