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異界の悪魔たち  作者: あいうえお
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妖魔

第二話 妖魔


「さて、また今年も、今日という日を無事に迎えられた事を嬉しく思う。そして、来年もまた今日という日を迎えられるよう、我々はいっそう精進する必要がある。」


そう言うと、ヘルメス将軍は一旦口を閉じ、目の前に整列している兵をじっと見つめた。


「平歴945年、異界より、悪魔が姿を現すであろう。それは、暗澹の時代の始まりにして、最後の希望の灯火となる。これは、皆も知っての通り、今から約300年前、賢者ラーが予言したと言われる予言の書の一節だ。平歴945年、つまり今からちょうど3年前の今日、我々アルメンメス王国は予想だにしなかった襲撃を受けた。妖魔だ。これにより国土の半分が奪われ、残された民はこの山々に囲まれた不便な土地に移住する事を余儀なくされた。しかし、我々はこの3年で大きく成長した!国土を取り戻し、妖魔を滅ぼして世界を救うのは我々だ!ラーの予言の希望に、我々がなるのだ!全兵士へ告ぐ、戦え!」


将軍のスピーチが終わると、辺りは大きな歓声で包まれた。世界最悪の日、3年前の妖魔襲撃事件から今日で3年だ。タケルは、前列に並んでいるユミと雄介を見た。2人共、緊張した面持ちで真っ直ぐに前を向いている。カーカーと、鳥の鳴き声が聞こえた。空を見ると、大型の鳥が二匹優雅に飛んでいる。カラスのような鳴き声をしているくせに、真っ白な美しい毛色だ。カラス、か。もう3年も見てないな。日本に住んでいた時はあれほど煩わしかった鳥が恋しくなるなんて、3年前の俺には考えられなかっただろうな。タケルは1人で、クスリと笑った。あの日、一体自分達の身に何が起きたのか、未だによく分かっていない。一つだけ分かる事があるとすれば、俺達は妖魔を倒さなくてはいけないという事だ。タケルはそう思いながら、初めて妖魔を見たあの日を思い出していた。


「な、何だよこれは。」


雄介が呟いた。目の前には、漫画やアニメでしか見た事のない街並みが広がっている。そして、それだけでも十分異常な光景なのだが、もっと異常な光景が目の前に広がっていた。


「これ、夢、よね。そうじゃなかったら、何かのドッキリとか?と、とにかく、これが現実なわけ、ない、よね?」


ユミが呟く。タケルは、何も考えられなかった。いや、考えることをやめていた。目の前に広がる光景が現実のものとはとても思えない。100メートルほど先、そこにそれはいた。


「か、怪物。」


鋭い爪、紫色の気持ちの悪い肌、鬼のようなツノ、六つもある目、さらにその身体は、硬そうな爪やツノとは違い、流動的であった。這うように辺りを動き回り、建物を破壊している。

突然、その怪物の六つある目のうちの二つが、ギョロリとこちらの方を向いた。タケル達3人をじっくりと、物珍しげに眺めている。


「おい、アイツ、こっち見てないか?」


「…襲ってきたりしないわよね?」


「に、逃げよう。どこか、人のいる場所に。」


タケルはそう言ったが、身体は全く動かなかった。まるで一本の木にでもなったかのように、姿勢よく真っ直ぐに立っている身体は、いくら動かそうとしても言う事を聞かない。そしてそれは2人も同じようであった。


ブォン、と突然風を切る音がした。3人の間を強風が吹き荒れる。タケルは思わず目をつぶって、風が治るのを待ってから再び目を開けた。


「あれ?アイツはどこに?」


目を開けると、怪物は姿を消していた。先程まで、まるで子供がおもちゃを散らかすかのように建物を破壊していたのに。一体どこへ?


「タ、タケル。…後ろ…」


雄介が怯えた声で言った。タケルは、まるでスローモーションのように、ゆっくりと後ろを振り返った。

近くで見るとますます気持ちの悪い、その得体の知れない何かが、そこにいた。遠くから見たときにはよく分からなかったが、体長は6メートルほどある。そしてその大きな口から垂れたよだれが、タケルの足元に大きな水たまりを作っていた。


「一体….なんで…どうやって…」


逃げなくては。だけど、身体は依然として動かない。怪物はゆっくりと、手をタケルの方に伸ばしてくる。怪物のその大きな手で、視界が覆われる。ユミの悲鳴が聞こえた。次の瞬間、タケルは怪物に持ち上げられていた。ネチョリと、気持ちの悪い音がする。怪物の手、というより皮膚からは、生暖かい液体が分泌されていた。そして怪物はタケルを摘み上げ、自らの口の上へと持っていった。タケルは7メートルほど上へ、エレベーターのように上がっていく。地上では、2人が呆然となす術なく突っ立っていた。ふと空を見上げると、先程までは快晴であったのに、今は雷雲が空を覆っていた。足が、生暖かい感触の上を滑る。身体が下へ落ちていく。


「…これは、何なんだよ。…あんまりじゃないか。」


真っ黒な雲でさえ、暗闇に閉ざされてしまった。


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