ビュー・オブ・デンティスト8
後半、かりんと院長はドタバタと忙しかった。
逆に月夜先生は暇だったのかチマチマと石膏模型をいじって何かやっていた。
忙しくなってくるとかりんはまだ診療のペースについていけず、準備しなければならないものが抜けていたり片付け忘れなど色々とミスをしてしまった。
そのたびに院長が物をとりに行ったりしており、かなりの時間ロスになった。
たぶん自分のせいなのだがドタバタしながら診療が終わった。
色々ミスをして落ち込んでいる時、月夜先生が声をかけてきた。
「藤林さん。物の場所をはやく覚えた方がいい。
先程からみていたがほとんど院長に取りに行かせている。
あれではタイムロスだ。
そして動きにけっこう無駄がある。
院長は何も言わないがわたしは今の藤林さんだったらアシストにつけたくない。」
月夜先生は厳しい目つきでかりんを見据える。
「は、はい。すいません……。」
……そんなのわかっているのに……
とも思ったが月夜先生は嫌味を言っているわけではない。
自分の為に、この医院の為に厳しい事を言っているのだ。
……まず、私の事を見ていてくれた……
そう考えると少しうれしかった。月夜先生は単なる怖い先生ではないのだ。
「あともう一つ。ユニットの片付けが遅い。もっとスムーズにいくはずだ。
診療で使わないと判断したものはどんどん片付けていくといい。
そうすれば患者さんが帰った後、最小限の片付けで済む。」
「あ……」
まさかドクターにこんな事を言われるなんて思わなかった。
……いや、ドクターにこんな事を言わせたって事は、自分はまったく動けてなかったという事。
「落ち込むのは良い事だが仕事だからテンションは落とさない事だ。」
「はい。」
月夜先生はそれだけ言うと医局へ行ってしまった。
「はあ……。」
……へこむなあ……。
ため息をついてしばらくうなだれていると近くで院長の声がした。
「あっはは。月夜先生かい?」
「い、院長!」
かりんは院長にまたまた驚いた。
「だからそんなに驚かなくても。」
「は、はい。」
「月夜先生はけっこうキツイけど藤林君の成長をとても期待しているんだ。」
「そうなんでしょうか。」
「なに?落ち込んでいるのかい?」
「まあ……少し。」
「今日は後半ちょっと忙しかったからね。
テンパってたのはわかるけど、こういうのってドクターもけっこうテンパっているんだよ。
顔には出せないけどね。
だからその時に冷静なアシスタントがいるとすごく助かるんだ。」
院長は楽しそうに話す。
かりんも楽しそうに話す院長を見ていたら笑みがこぼれてきた。
「そうですね。私がそういうアシスタントになれれば院長の負担も減りますね。私、頑張らなくちゃいけないんですね。」
「そうだよ。月夜先生の言葉を頭に入れて明日動いてみなよ。きっと全然違うよ。」
「はい!」
かりんは元気よく返事をした。
「藤林君は本当に素直なんだね。良い事だ。」
院長は頷くと医局へ入って行った。