ビュー・オブ・デンティスト5
医局では皆が着替えていた。
もちろん、唯一の男である院長は外に締め出される形となる。
「おつかれさまー。」
と早々に着替えたレーヴァンテインさん、小烏丸さん、干将さんはさっさと帰って行ってしまった。かりんはあまりの速さに目を奪われていた。
「ああ、彼女達は色々とやる事があるみたいなの。
今日は私も早く帰るわね。また明日。」
アヤさんはかりんに笑いかけた。アヤさんももう着替え終わっている。
「え?ああ、はい!お疲れ様です!」
かりんはのんびりしすぎてまだ着替えてもなかった。
アヤさんが私物のバックを持ち上げた時、携帯電話が鳴った。
アヤさんは携帯をとる。
「何?」
アヤさんはかりんに見せた笑顔とは裏腹少し機嫌悪そうに電話に出ていた。
「今終わったとこよ。
え?なに?ごはん恵んでくれ?自分でやりなさいよ。
私はあなたの召使いじゃないの!
わかったわよ。今行くから待ってなさい。ミノ、あなた何食べたいの?……」
アヤさんは歩きながら電話に出ている。
声は遠ざかって行き最終的には何も聞こえなくなった。
彼氏かなあ……
かりんはそんな事を思いながら着替えはじめる。
実際自分は他の女の子よりも男性と会話していないと思っている。
好きになる事はあるが結局は何もできずそのまま話せずに終わるパターンがほとんどだ。
人を好きになる事は悪い事ではないと思うが自分はどうせ何もできないとはじめからあきらめてしまう癖のようなものがある。
……男の人と何を話したらいいかわからないんだもの……。
男性経験があまりにもないためか少し優しくされるときゅんとする事もしばしばだ。
のんびり着替えてさあ帰ろうと思った時、診療室から月夜先生と院長の声がした。
……何か話している?
かりんはいけないと思いながらも診療室の方へそっと耳を傾けた。
二人が付き合っているのかどうしても知りたかった。
……私、何してるんだろう……。
こんな事しているのを誰かに見られたら絶対に気持ち悪がられる……。
そう思っていても話の内容が気になってしかたなかった。
今夜一緒にご飯行こうとか一緒に帰ろうとかそういう話をしているのかもしれない。
「あの子、人間だ。どうして雇った?」
はじめに月夜先生の声がした。その後に院長がしゃべり出す。
「人間をそばに置いてみたくなっただけさ。別に深い意味はないよ。」
「そなたも変わろうとしているんだな。」
「まあね。それより今日鶴が来たらしいけど。」
「鶴は信用できない。彼はすべての神の使いだ。わたし達の味方ではない。」
「まあ、そうだけど。」
「高天原が動き出しているとのこと。
人間の歴史を守る神、歴史神がおかしくなったことが原因らしい。」
「そうかい。ついにバレちゃったか。」
二人はこんな会話をしていた。
かりんには何のことかさっぱりわからなかった。
だが、今日来た変な患者さん、鶴さんの事についてである事はわかった。
この時はまだ気がついていなかったが
すでにかりんは非現実な世界に足を踏み入れていた。
これ以上はなんだか聞いてはいけない気がしてかりんは潔く帰る事にした。