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ビュー・オブ・デンティスト29

ワイズと月夜紅はきれいな星空の中を飛ぶ。

外は相変わらず冬の景色でとても寒い。


「時に死神……。」

「何?」


ワイズが口を開き、月夜は素っ気なく答える。


「なんであの娘っこの魂は刈り取らなかったんだYO。」

「忘れていたんだ。」

「忘れてほしくなかったんだよNE?」

「……。」

ワイズは立ち止る。月夜も止まった。


「君が忘れたんじゃなくて忘れてほしくなかったから刈り取らなかった……違わないよNE?」

「さあ……どうだろうな。」

「かわいくない部下だYO……。」


「それよりなんでこんなところに連れてきた?」

高天原にはすぐに行ける。だがワイズはわざわざ星がきれいな上空で止まった。


「昔の人間はこの星々が死んだ人間の魂だと言ったんだYO。お前に見せてやろうと思ってNE。」


「粋な計らいだな。だが星はただの石ころだ。」


「人間には隕石しか見えていないんだYO。天にはこんなに魂があふれているというのに……。」


「まあ、そう思えば昔の人間はよく我らの事がわかっていたな。」

「自然と対話する能力を持っていたからNE。」

「きれいだな……。」

月夜は憂いを帯びた瞳で星々を眺める。


「人間の魂はここまで美しく、人間の祈りはとても恐ろしい……だNE。」

「何を詩人めいたことを……。」


月夜はなんだかおかしくなり笑った。

ワイズも自分の言っている事がおかしくて笑った。


女神たちの笑い声がきれいな星々に反射するかのように響いた。



「まあ、あの死神は我を通すタイプだからねぇ。」

剣王は楽観的に笑った。ここはアヤの部屋。


「そんな笑っている場合じゃないだろ!剣王!」

小烏丸が騒ぎ出した。


「一体何なのよ。仕事で疲れてて火事まで起こって今は夜中。これから寝ようと思ったところに剣王に武神……はあ……病気になりそう。」


「まあ、なんか色々あってね☆」

「ちょっとあちこち触らないで!」


レーヴァンテインがアヤのベッドで遊び始めたのでアヤはレーヴァンテインを叱った。


「カリカリしてるわねぇ。」

干将はそんなアヤを楽しそうに見つめた。


「なんかいいねぇ!こうやって女の子に囲まれるってのは……ははっ!」

剣王は一人楽しそうだ。酒でも飲んでいるのか。


「で!なんなのよ!こんな夜中に騒がないで!うるさいのよ!」

アヤは機嫌悪そうに叫んだ。怒っている。非常に怒っている。


「ああ、ごめんごめんねぇ。死神以外、うまくいったから報告をと思って。」

剣王は頭をポリポリかきながら説明を始める。


「うまくいったって何よ?」


「鶴に冷林のとこで待機するように言っておいたんだけどねぇ。

ワイズが鶴に何にも指示しないからさあ。


ワイズったら自分で彼らを捕まえたいって動いてたから最後の最後で鶴に待機の命令をしてなかった。


彼は命令がないと命令がある神の元へと行ってしまうからねぇ。

うまく使ったそれがしの勝ちー!」


剣王は実に楽しそうだ。それに呼応するように騒ぐ武神達。


「やったぜ!剣王!」

「さすが☆けんおー!」

「意外にやるじゃない!剣王!」

武神達はガッツポーズをしながらワイワイ騒いでいる。


「うるさい!」

アヤの一喝で剣王達は黙り込んだ。


「アヤちゃん、今、すごいなんか出てたよ……。」

「こわっ!今土下座しそうだった……。」

武神達はガタガタと震えだした。


「と、とりあえず……これで流史記の敵はとったわけで……ええと……。」

干将が言葉をもごもごと発する。そんなに今怖かったのか。


「ベッドで遊んでごめんなさい……。」

レーヴァンテインがしくしく泣きながらあやまる。

小烏丸に至っては一番遠くへ逃げて壁に張りついている。


……これじゃあ話が進まない。


アヤは笑顔になった。


「うん。怒ってないわよ。」

その一言で武神達は恐る恐るアヤに近づいて行った。


……なんか猫とかその類の動物みたい……


アヤはあきれ顔でため息をついた後、剣王を見つめる。


「剣王、あなた藤林かりんになにかしたの?」


「え?それがしは何にもやってないよぉ。ちょっと言葉を交わしただけだねぇ。」

「言葉を交わした?」


「そうさあ。厄神にも会って罰を与えたんだよぉ。まあ、それははっきり言って罰ではなく約束だったんだけどねぇ。」


……そうか。だからさっき武神が「剣王との約束」と言ったのね。


「それがしはそれよりもあの娘に動いてほしかったんだよ。

あの娘が冷林の存在に気がついたら凄いだろうなあと思っててねぇ。


もしダメだったら厄神、死神をワイズから奪って流史記姫神の前で罰を与えようと考えてたんだけどあの幼い彼女じゃあ、泣き叫んでそれがしに罰則の撤去を頼むだろうからなあ。


あの子はほら、優しいから非情な罰を見てられないでしょ?乗り気ではなかったんだよねぇ。ヒメちゃんが泣くと彼女の親父がでてきそうで怖いし。」


剣王の眉間にしわが寄る。


「それはあるわね……。ヒメはまだ幼い。


彼女なら震えあがって泣き叫んで心にトラウマをうんでしまうでしょうね。


歴史の神なのに不幸な人間の歴史をみただけで心が不安定になる。


今回の件もそう。本来生きられるはずの人間の歴史がきれていってしまう異常事態に彼女はおかしいとは思わず、怖いと思った。


そして自分を助けてくれる神を求めたが誰も助けてくれず、両親の事を想い、愛を求めたが両親も助けてはくれず、恐怖と妬みでおかしくなって人間をすべて消そうとした。不安定な神様ね。」


「まあ、でも今回はワイズよりも先に彼らに接触できた事と鶴がフリーだったことが重要なポイントだったねぇ。」


「……そうね。鶴はいまいち謎だったけど……私はけっこうなお金をもらったからそれでいいわ。」

アヤはニッコリと笑った。


「うわっ!魔性の女!」

「金もらってにやついて……。」

「そのお金でお人形を……。」

また武神達がいつも通りに騒ぎ出した。


「うるさいわよ。一人暮らしにはお金は大事なの!」

アヤはまた怒鳴った。


「アヤちゃん、それがしにご奉仕してくれるとうれしいなあ。」

剣王はいやらしい目をアヤに向ける。


「あんまりからかわないで。あなたのメイドじゃないのよ。」

アヤはきっぱりと言った。


「じゃあ、私達が❤夜の御仕事させていただくわ❤」

なんだか干将は嬉しそうだ。

昼ドラを見ているせいかこういう話になると干将は女になる。


「お!いいねぇ!いいねぇ!着物で艶やかにエロく!」

剣王もノリノリで手を叩く。


……これはあれだ。深夜のノリだ……。


「小烏丸!ぬっぎまーす!」

小烏丸は剣王の前でワイルドに服を脱いでみせた。


「いいねぇ!いいねぇ!おっさんムラムラきちゃうよ!」


……ちょっとまて……なんだこのノリは!それよりあいつは馬鹿なの!酒でも飲んでいるの?馬鹿なの?え?馬鹿なの?


小烏丸は下品にも裸踊りを始めた。


「何々☆お風呂?」

レーヴァンテインはなんだかわからずとりあえず服を脱ぎだす。


「やめろおおおおおお!」

アヤの声は深夜のマンションに大きく響いた。一同はフリーズした。


「こんの恥さらし!さっさと家に帰りなさい!そういうのは高天原でやりなさあああい!」

「ひぃいいい。」


武神達はてきぱきと服を着ると剣王の後ろに隠れた。


「ご……ごめん。アヤちゃん……帰るね……あは……あはは。」

剣王の笑顔は引きつっていた。顔が引きつりそうなのはこちらだ。


アヤは箒で掃くように剣王達を外に出した。


「まったく……疲れるったらない。」

こうやって締め出してもまた何か問題を抱えて彼らはやってくるのだ。


……今はゆっくり寝たい……


アヤは重い頭を抱えベッドに横になった。

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