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ビュー・オブ・デンティスト28

彼女の選択は立派だった。

かりんはそう思う。本心を言えばもっと一緒に働いていたかった。


彼女はとても優しい先生だった。そして自分の考えをしっかり持っていた。

彼女はその自我の強さから色んな選択肢に目を向けられなかったのかもしれない。


それでも立派だと感じた。


「およよ、娘っこ。」

しばらくの沈黙を破ったのは鶴だった。


「はい?」

かりんは機械的な返答をした。


「よかったんなあ。これで剣王の約束守れるんね!」

「……はい。」


「なんだい?辛気臭いねぇ。死神は自分で選択をした。こちらが落ち込んだり嘆いたりするのはお門違いちゅーことだよい。」

「そう……ですけど。」


鶴は楽観的に言うがかりんはそんな気持ちになれなかった。


「藤林君、鶴の言うとおりだよ。彼女は彼女の選択をした。さっきみたいに強制ではなく、ワイズはちゃんと選択肢を与えた。それだけでも充分ワイズは良心的だ。」


「そう……ですね。」

「まあ、死神の事は忘れようぜ。」

小烏丸が痛みを引きずった顔で言う。


「そうね。……院はいつから再開?」

「お人形燃えちゃった……。」

干将とレーヴァンテインはもう次へと心が動いていた。


「それよりなんで全然消防隊が来ないのかしら?もう火は消えているけど。」


「さあな。外でワイズの部下とかが邪魔してたんじゃないのか?」

アヤの質問に小烏丸があいまいに答えた。


「とりあえずやつがれはこれにて。」

鶴は冷林を背に乗せると光となってさっさとその場から消えた。


「まったく鶴は本当に油断ならないわね……。でもうまいわ。


多い方の味方につく。今回は剣王と冷林両方の味方についた。


……途中までワイズの仲間をして最後になんの命令もされなかったから鶴は冷林の命令に従った。」


アヤがぼそりとつぶやく。


「冷林も油断ならないよ☆冷林は祈りに反応して現れるだけでほとんど話した事なんてないね☆何考えてんのかわかんない!」

レーヴァンテインが今消えたばかりの冷林にため息をついた。


「とりあえず元の服に戻ろうぜ。人間界だと着物はかたっ苦しくてない……。」

小烏丸はさっさともとの白衣に戻った。


干将もレーヴァンテインも元の服に戻った。


一同の服はボロボロだ。すすけており、ところどころ焦げている。


「あー……新しい服買わなきゃじゃないねぇ?」

干将がやれやれと頭を抱えた。かりんは何にも考えられなかった。


院長は戻ってきた。


だが月夜先生はもう戻らない。彼女の選択だとしても納得できなかった。


「藤林さん。しっかり。」

アヤがかりんの肩を抱く。


「なんだか……これでいいのかって思っちゃって……。」

「あなたが気負う事ないの。あなたは院長も月夜先生も救ったんだから。」

「月夜先生は……!」

「藤林君、とりあえず外に出よう?」


かりんの言葉を院長が遮った。

かりんはしばらく黙って下を向いた後、素直に頷いた。



外はやじうまもなく静まり返っている。

まるで先程の火事がなかったかのような静けさだ。


「……月夜が後始末をして行ったようだね。」

院長のつぶやきにアヤ達は首をひねった。


「彼女は本来、魂の管理が仕事。今の火事は彼女が起こした事だから人々の魂の記憶から火事の部分だけ魂を刈り取ったんだ。」


「器用にその汚染された部分だけ切り取ったという事ね。」

「そういう事だね。」


アヤ達は静かな駅前を歩く。もう時間が大分遅いのか人通りは少ない。


「とりあえずうちらは帰るな!」

「今日は疲れちゃった☆」

「そういう事。帰って心霊番組を見なきゃだし。」

武神達は疲れた顔をアヤ達に向けた。


「うん。なんかごめんね。君達はまた俺の医院で働いてくれるのかい?」

「何言ってんだよ。当たり前だろ。」

「あたしらは仕事がほしいんだよ☆」

「そういう事。」

院長の問いかけに武神達は喜んで答えた。


「で?いつからやるんだ?」

「うん。それなんだけどね……、もうここではやらない。」


「え?」


院長がニコニコと笑いながら言うので武神達は呆気にとられた。


「もっと静かなところで一から開業するつもりなんだ。だからしばらく場所決めとかでできないかもしれない。」


「そういう事か。まあ、いいぜ。待っててやるよ。」

「そのかわり、給料を上げてちょうだいね。」

「あ、カエルのぬいぐるみ買ってね☆」

「まったく……君達といると調子が狂う。」


思い思いの事を言い出す武神達に院長は困った顔で微笑んだ。武神達は楽しそうに手を振ると静かになった駅前から姿を消した。


「よかったじゃないですか。スタッフは足りてるし。」

「アヤちゃん……君は?」

アヤがそっけなく言うので院長は焦って聞いた。


「私はもうあなたの所では働かないつもりです。もともと武神達に捜査を手伝わされただけだったんだから。もうあんな忙しい仕事はいやですね。」

「そう……かい。」


「でも楽しかったですよ。それから私の手がほしいと思ったらいつでも呼んでください。院長命令ということで飛んで行きます。」


アヤはニッコリと笑った。


「まったく……君もよくわからない子だよ……。」

院長がせつなげにアヤをみるのでアヤは付け足した。


「それから、スタッフの中で一番大切な子があなたにはいるじゃないですか。


まずはその子の機嫌を直して一緒に来てくれるように頼んだらいかがでしょう?


もう邪魔する人はいないし彼女は厄除けで一生幸せ者ですよ。」


院長は目を見開いた後、アヤからかりんに目を移す。


「……。」

かりんは黙って下を向いている。


「それでは私もこれでお暇します。どこで開業するか決まったら教えてくださいね。一応。」

アヤはかりんと院長を切れ長の瞳で見ると踵を返して歩いて行った。


「……君は大人なんだね……。しっかりしすぎている……。」

院長は去って行くアヤの背中にぼそりとつぶやいた。

そして先程から黙っているかりんにそっと目を向けた。


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