ビュー・オブ・デンティスト27
「厄除けの神?」
「……厄除け……。」
アヤ達は驚いた。一番驚いていたのは院長だった。
「これは面白くなったよい!」
鶴は一人笑っている。
「おもしろくないYO!」
対してワイズは怒っている。厄神の身体が長襦袢から元の白衣に戻った。
「鎖が……きれた……。」
「最悪だYO!お前は冷林に裁かれた。こんな事ってないYO!」
「冷林に裁かれた?」
ワイズの言葉に厄神は眉を寄せた。
「冷林が罰としてお前の厄神としての称号をすべて捨て去ったんだYO。
お前は今厄神としての神格はゼロ。
高天原では最下層の神格、いや……高天原にも入れない神格だYO。」
「つまり遠流か?」
「よく聞けYO。お前はもう厄神じゃないけど厄除けの神としてそこの娘の祈りによって新しく生まれた。
人間の祈りで神の称号は変わるYO。
称号は追加されるものだがお前の場合、冷林がお前の称号をすべて消し去ったからお前は今、ただの娘に祈られてできた弱小神ってことだYO!」
ワイズの口調が荒っぽくなっている。よほど気に入らないらしい。
「なるほどな。藤林君が……俺を救ってくれたのか……。俺が守るって言ったのに……なさけないな……はは……。」
厄神……院長はその場で崩れた。そして大声で泣いた。
「ほんと情けない……女の子に助けられて号泣するなんて……俺、本当にダメな男だな。」
かりんにはまだ完璧に把握はできなかったが今の院長を情けないとは思わなかった。
心からきれいな男なのだと思った。
「本当は罰が怖かった。逃げれるならば逃げたかった。口では強がったが心では誰かに助けを求めていた。」
「……院長……。」
「……罪は消さない。俺は罪を背負う。藤林君がくれたチャンスを俺は無駄にしない。もう一度スタートからやり直して見せる。」
院長はうなだれながら答える。
「……勝手な男だYO。裁かれたらずいぶんとポジティブになったYO。」
ワイズは院長にあきれたようだ。
今の院長にはなんの力もない。
ワイズが威圧を飛ばせば彼は死んでしまうだろう。
しかし、ワイズは何もしなかった。
ここで殺すのは凶と出ると思ったのだろう。
そんな院長を死神は横で見ていた。
「月夜先生……は……変わらないの?」
レーヴァンテインが死神に声をかけた。先程から死神は事の成り行きをただ見守っているだけだった。
「そうよ。あなたも院長と同じ罰を受けるべきじゃない?」
アヤは死神とワイズを交互に見た。
「しかたないYO……。今回は元厄神がああだからお前には選ばせてやるYO。神格を失うか高天原で罰を受けるのか……。」
ワイズの問いかけに死神はゆっくりと口を開いた。
「わたしは高天原で罰を受ける。それがわたしの答え。」
「!」
武神達、アヤ、かりんは死神を驚きの目で見つめた後、目を伏せた。
彼女達は死神が神格を放棄すると思っていた。しかし彼女はしなかった。
「月夜……。」
院長は死神をせつなげに呼んだ。
「いいんだ。そなたはそなたのしたいように罪を償うべきだ。
わたしはわたしの罪の償い方で進む。人それぞれ罪の償い方、考え方が違う。
わたしは気がついた。そなたはわたしと一緒にする必要はない。」
「なんで君は……そんなに強いんだ?」
「強い?それも価値観の違いだ。
わたしはそなたのやり方で罪を償うのも勇気ある選択だと思う。
わたしが絶対に選ばない選択肢だ。結局わたしは逃げているんだと思う。
散々不幸にした人間達と一緒に過ごすのが怖いからこうやって神に裁いてもらおうと考える。どちらかと言えばわたしは弱いと思う。
それも自分で想っているだけだがな。
……そなたは守るものを守って苦しんで生きて行くがいい。わたしは精一杯苦しい罰を受けて生きて行こう。生きていられないかもしれないがな。」
悲痛な顔の院長に死神はこう言った。
これは彼女の選択。ここまではっきり言われるとアヤ達は何も言えなかった。
ワイズは何も言わずにそっと死神に手を伸ばした。
死神はその手をとると涙した。そしてそのまま院長達を振り返ると笑顔で消えて行った。
……二度と会えないが元気でな……
彼女は最後にそうつぶやいた。
その涙で濡れた顔はとてもきれいで美しかった。




