ビュー・オブ・デンティスト23
厄神は死神を探し彷徨う。
燃え盛る炎の中、厄神はゆっくりと歩き出す。
焼き尽くす炎など見飽きたと言わんばかりに平然と歩いていく。白衣に炎が燃え移った。
それを見た厄神は白衣を捨て去った。
そして服装を一瞬で藍色の羽織に蒼色の着物に変えた。頭に編み笠を被る。
それ以降、服はまったく燃えなくなった。それを確認すると厄神は医局の方へ歩いて行った。
厄神は考えた。
一月に入る前、大掃除をした際に武神達が神力を感じ取っていた事があった。
あの時、厄神が結界かなんかを張ったと勘違いをし、武神達が医局へ慌ててやってきた。
その時、厄神と藤林かりんが医局の大掃除をしていた。
彼女達は医局に結界を隠したと思ったらしい。しかし、厄神には何のことだかわからなかった。
あの時、確かに神力が漂っていた。
あの神力は月夜紅のなのか?いや、あの時医局には月夜はいなかった。
じゃあなんで武神達は慌てて医局へやってきたのか。
医局で神力を感じたからではないのか。
そこまで考えた時、医局に赤い目が動いた。
「死神!」
厄神は赤い目の主を呼んだ。
「わたしをもう見つけたのか。」
赤い目の主、死神は医局にある自分の椅子に足を組んで座っていた。
赤い瞳と赤い瞳がぶつかり合う。厄神は死神に近づいて行った。死神は赤い着物を着ていた。
「どうしてこんな事を……。」
「一からやり直そうと思ったのだ。人間を巻き込まずそなたと共にワイズに下るため。」
「勝手な事を……。」
厄神は赤い瞳で死神を睨んだ。
「そなたは甘い。
こんなぬるま湯につかるような事をしていても意味がない。いままではそなたに従っていた。
だがまったく罪の意識が消えない。」
「君には俺がしている事が意味のない事だというのか。」
「そうとは思えない。だがなぜだろう……罪の意識が消えないのだ。」
死神はゆっくりと椅子から立ち上がった。
「罪の意識は消してはダメなんだ。月夜。」
「……。」
死神はフラフラと厄神に背を向け歩きだした。
「待て!この炎は君のだな?いつ陣を描いた?」
「……わたしが描いたのではない。」
「しらばっくれるつもりなのか……。」
厄神は死神のむなぐらを思い切り掴んだ。死神の表情は変わらない。
「……あれは藤林かりんがやったのだ。」
「そんなわけあるか!」
「……わたしは医局の荷物の下に陣を隠していた。
パズルのように荷物を動かすと陣が発動するようにしてあった。
大掃除の時藤林かりんが運悪く荷物を動かした。
それにより時限爆弾がセットされたのだ。
そしてわたしが望んでいた通りの時間でそれは起動した。」
「ふざけんな!」
厄神は怒りにまかせて思い切り拳を振り上げた。死神は堂々とその場に立っている。
厄神の拳は死神の頬すれすれを飛んで行き、近くの壁にぶつかった。壁にはヒビが入る。
「なんだ。殴らないのか。」
死神は顔色一つ変えずつぶやく。
「だまれ。今は本気で殴りたくなった。
……俺は……女は殴らない。
そう決めているんだ。今は少し危なかったけどな。」
厄神は苦虫をすりつぶしたような声を上げた。それを死神は愉快そうに笑う。
「そなたは紳士なのだな。……藤林かりんが動いたのはそなたの能力だ。そなたのせいで運悪くこういう事になったのだ。わかるか?」
死神は不気味に笑う。
「……!」
「どうだ?今度は自分を殴りたくなっただろう?」
「厄神の力か……。」
「そうだ。少し様子を見ていたが……やはりそなたは人間といる事は無理だ。
そなたの力が藤林かりんを苦しめている。
それと患者様もどうなっているか不思議だ。
対応しているのはほんの三十分くらいなのだろうがその間にどれだけの厄をもらっているのか。」
「そんな……。じゃあ……俺は……。」
厄神は怯えるように死神から手を離した。
「そなたの行為を意味のない行為だとは思わないがこれでは罪を重ねているだけだ。
そなたもわたしも……神々から罰せられなければならない存在なのだ。」
死神はキッと厄神を睨みつける。
「俺は……そんなつもりじゃ……。」
「そなたはそうかもしれないがまわりはそうは思っていない。
現に今、藤林かりんは何をしている?
そなたの厄に苛まれ二階をまだ彷徨っているかもしれないのだぞ。
まあ、このまま藤林かりんが消えてくれればそなたもワイズに投降しやすくなるだろう。」
「……っ!」
厄神は死神の話を聞き、顔面蒼白で走り出した。
「無駄な事を。」
死神は走り去る厄神をただ無表情で見つめていた。