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ビュー・オブ・デンティスト19

除夜の鐘の音を聞きかりんは我に返った。


「大丈夫かい?藤林君……。」

目の前に心配そうな院長の顔が映った。


「え?は、はい!」

かりんは咄嗟に返事を返した。


「放心状態だな。無理もないよなあ。」


小烏丸さんがホクホクとした顔つきでかりんに近づいてきた。


「一応、これで職を失わないで済んだわ。私達は流史記よりも明日からの身の置き所を心配していたのよー。」

干将さんはやれやれと手をふる。


「けんおーは罪を認めた上での厄神に会いたいっていうから苦労したよ☆隙をつくらないように自分を隠しちゃうんだもん☆院長はー。」


レーヴァンテインさんの言葉に院長は反応を示した。


「俺を捕まえようとしていたんじゃなかったのか……。」


「まあ、最初は捕まえようって話してたんだけどさ、武神の目から見ても殺気もなければなんにもないんだもんなあ……。


そのうち、厄神にはもう害がないって判断しちゃってさ。投降しないのは不気味だけど今、歯医者で罪を償っているんだろ?」


小烏丸さんに院長は深く頷いた。


「そうだよ。それもあるけど俺にはもう一つ決着をつけないといけない相手がいる。」


「ワイズだね☆」


「うん。ワイズと月夜紅……。


月夜紅は罪の償い方を俺とは違う方法で探している。

彼女がひどい罰を受けたとしたら俺はここでのんびりしているわけにはいかない……。」


院長の顔が曇る。


「立派なのかなんなのかわかんないわ。」

干将さんはさっさと帰る準備をしている。


「あたしらとあんた……似てるんだよな。」


小烏丸さんは院長をじっと見ながらこんな言葉を話した。


「君達と俺が似ている?」


「うん。あたしらが一人だった時、人間に許容範囲外の武器を沢山渡しちゃったんだ。


武神で武器を司る神だったから戦争が終わりかけているのが怖かった。


もっと戦争を激化させたくて武器を使ってもらいたくて神に許されないところまで人間に干渉しちゃったんだよ。


その結果、国を一つ滅ぼしてしまったんだ。」


「ああ、その話ね……。」


干将さんが小烏丸さんの話を引き継ぐ。院長は素直に話を聞いている。


「武器を渡しても誰も褒めてくれなかったのよ。


使った人は死んじゃったし。

……子供は飢えて女は子供の為に必死になって帰りもしない男を待つの。


もう死んでしまっている子供を抱きながらね。


私達がやった結末がこれ。こんなの誰が喜ぶのよ。……私達は耐えられなかったわ。」


「……うん。罪の償い方を必死で探した……。


ろくに物も持てなかったんだよ?

全部武器になっちゃってさー。」


レーヴァンテインさんがちょこちょこ口を挟む。


「私達はまず物を持てるようにしたかったの。


何をすればいいかわからなくて各地を放浪していた時に剣王が来たわ。


荒んでいた私達は彼に勝負を挑んだのだけれど負けたの。惨敗だった。


そしたら剣王は私達をいきなり魂ごと切り刻んだ。


武の神として今回の事は許されない事だと厳しいお咎めつきで。


……で、気がついたら私達は三人になっていたの。


武神としての力はほぼ失っていたわ。

力が分散されたみたいだった。」


干将さんがまた深いため息をつく。


「まあ、でもそのおかげで人を喜ばせる職につけたんだけどな。


歯科衛生士なんて手先の器用さが求められる職なんてさ、あたしらの目標だったよ。


いままでこんなことした事もなかったしな。


ただ、刃物を見ると油断していたら武器になってしまうところが今なおさないといけない欠点だ。


やっと物を普通に持てるようになったんだぜ。

……あれ?なんか話が変わってるな。」


小烏丸さんの言葉に院長は笑い出した。


「いや、笑うところじゃないよー☆」


「何が言いたいのかはよく伝わったよ。ちょっと荷が軽くなった。ありがとう。」


レーヴァンテインさんは怒っていたが院長はどこか楽しそうだった。


かりんには途方もない話だったが彼らが苦労してここまで来た事はよくわかった。


院長はふっとかりんの方を向くと顔を正した。


「あのね、藤林君……俺さ……君に一目惚れしちゃってて……。」

「はい。」


院長がそこまで言った時、武神三人が音を立てないように通り過ぎ、遠くでかりんに手を振っていた。


かりんは三人に微笑みつつ院長の話を聞く。


「好きになってしまったらしい。はじめは人間なんて誰でもいいって思ってたんだけど……君が来てくれてよかった……。その……」


院長の頬は赤く染まっている。照れているらしい。


「はい。これからもよろしくお願いしますね。」

かりんは少しためらいながら院長の手をそっと自分の手で包んだ。


「あったかいね。君の手は……。」

院長はそう言って笑った。


知らない内に除夜の鐘は鳴り終わってしまったらしい。もう新年に入ったのだ。


だが今のかりんにはそんな事どうでもよかった。


かりんと院長はそのまま手をとり合い神社への階段を降りはじめた。


院長はまたいつの間にか真黒な格好に戻っていた。


「……まだ会って一か月経ったか経ってないかなのにね。」


「そうですね……。私、ちょっと歯科医院が怖かったんです。」


「ん?」


「皆さんが何かを隠してて怪しいというか変というか……。」


「余計な心労をかけてしまったようだね……。


もう知っていると思うけどあの医院には人間はいないんだ。


ほんとは武神や時神が動けないように君を雇ったんだ。人間が入れば神々はバレないように動く。


狙いはそこだったんだけど知らずの内に君が好きになってね。

自分の事を少しバラしたくなってしまっていた。」


「はい。」

二人はゆっくりと神社の階段を降りる。


「そんな時に月夜が君に夢を見せた。

君にとっては変な夢だったんだろうけどそれは意図的にやったんだ。


人の夢に入り込めるのは鶴しかいない。


月夜が鶴に頼んで夢を見させた。それにより君は情報の一部を知ってしまった。


それのせいで俺達が罪を犯した神だと武神、時神に完璧にわかってしまったんだ。


でも今はちょっと感謝している。


俺達がやった事を知っても一緒にいたいと願う君の心を早く知る事ができた。」


「……。私は院長や月夜先生が何をしたのかあまり知りたくはありません。私にとってあなた達はドクターでしかないんですから。」


かりんはそう言って微笑んだ。


「うん。そうだね……。でも俺、神様だよ?しかも厄神だよ?」


「跪いた方がいいんですか?」

「とんでもない!そういう事じゃなくて……。」


院長は少し口ごもる。


「今更何を言っているんですか。私はあなたの事が好きなんです!」

「うーん?そう……?」


院長は照れながらそっとかりんの肩に手を回す。


「ん……。」

かりんは院長のぬくもりに顔を赤くしてうつむいた。


「……さむいね……。」

「え?は、はい……でも……今は……。」


かりんは院長の手にそっと自分の手を重ねた。

二人はギクシャクしながら夜の街を歩いて行った。

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