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ビュー・オブ・デンティスト18

「あら……剣王。私に何か用?」


ここはマンションの一室、この部屋にはありえないほどの時計が置いてある。


あとは机とベッドしかない。


「ここがアヤちゃんの部屋?なんかもっと女の子らしいのかと思ってたよ。ファッションはオシャレしてるときあるのに……。」


剣王はベッドに座っているアヤを見つめた。


「まあ、誰かをここに呼ぶって事はほとんどないから部屋にはこだわってないの。」


そうは言っても一応年末なため、部屋は整理してある。


そしてベッドは女の子らしい花柄で統一されている。アヤの格好もどこにでもいる普通の女の子だ。


今から寝るつもりだったのか薄ピンクの布地に桜が描かれているパジャマを着込んでいる。


「もう寝る気だったのかい?」

「当たり前じゃない。もう十一時まわっているのよ?」


アヤは剣王のいきなりの出現にうざったそうに会話を始めた。


「今日は大晦日なんだよねぇ……。」

「なによ?大晦日なんてなんもする事ないじゃない。」


「でも藤林なんとかって娘っこは外を出歩いていたねぇ……。」


「そういうのは若い子がやるものよ。」

アヤは相当眠いのか布団に入り始めた。


「若い子って……君も十分若いんじゃないかなあ?」

「で?要件は何よ?」


「ああ、それがし達はこの一件から手を退くことにしたからねぇ。」


「!」

剣王の言葉を聞いたアヤはガバッとベッドから起き上がった。


「何で?」

「人間の女の子がすごく必死だったからさ。」

「藤林さんがなんかしたの?」


呑気な剣王にアヤは目を見開いて言葉を紡ぐ。


「いんや。あの二人にはちょっとラブが生まれているようで……」

「それで?」

アヤは素っ気なく先を促した。


「君はこういうコイバナに興味ないのかい?」

「オッサンに聞かされてもなんも沸かないわ。」

「うう……。」


なぜか剣王は悲しそうだ。


「で?なんなのよ。」


「長い目で歴史神……流史記姫神りゅうしきひめのかみの心を癒す事にしたわけよ。


人間の魂は全員浄土へ行ったから償えなんて言っても無理だし。


だったら直接被害をこうむった彼女の傷を癒してあげる方がいいかななんて思ってねぇ。」


「なかなか仲間思いね。」


剣王の言葉にアヤはホッとした顔つきで言った。


「彼は罪を償おうと努力しているし人間を幸せにしようとしている。


高天原でぐちゃぐちゃやるよりも自分が直にどんどん人間に利をもたらせばそれでいいじゃない。


彼はそれがしにそう言ったのさ。

都合のいい考えだがそれがしはそれでいいんじゃないかと思ってしまってね。」


「けっこう勝手な考えね。」


「そうだねぇ。人間じゃあ許されないかな。だからワイズもたぶん放っておかない。


彼女は人間の知恵を集めた神様だから。


なにか罰を与えないととか捕まえないととか思っているんじゃないかな。」


「私には彼がした事の重さがわからないわ……。」


「彼は人間にとって大事なところをどんどん腐らせていったんだ。記憶を奪ったり歯を奪ったり……。」


「歯……。」


「そう。


人間が感情表現するための大事なところだ。


歯を奪ってしまえば人間は食べる事もしゃべる事も……笑う事だってできない。


歯がなければ全身にも疾患が出る。」


「たしかに。」


「彼はそれをいままでずっと平然とやっていた。


といっても百年くらい前の話だけどねぇ。人はもういっそのこと殺してくれと願う。


そこまで追い詰められた、絶望しきった人間を月夜紅が死神として魂を刈っていたというわけ。」


「エグイ話ね。」

剣王の言葉にアヤは顔をしかめた。


「残念ながら月夜紅には会えなかった。彼女は何を思って今を過ごしているのだろうねぇ。」


剣王はそこで言葉を切った。アヤも黙り込み、しばらく静寂がアヤの部屋を支配した。


「……まあ、そういう事でそれがし達は手を退くわ。もうなんかめんどうだしねぇ。これ以上関わると……。」


沈黙を破ったのは剣王だった。


「そうね。」

アヤはそう言うと目を閉じた。次に目を開けた時には剣王はもういなかった。


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