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ビュー・オブ・デンティスト14

かりんは医局で一人になった。


「冗談じゃない……。」


かりんは話を完全に理解できないまま診療室へ戻った。


……そんなわけない。平常心が大事……。平常心……。


現実逃避し、今の話を聞かなかった事にしようとしたが鶴さんの言葉と重なり平常心ではいられなくなっていた。


月夜先生はスケーリングの患者様をお返ししていた。

かりんは次のアポイントを確認する。


次の患者様はキャンセルになっていた。

カルテラックに入っていたカルテは院長の患者様だったようだ。


「あ、藤林さん。」

何も考えられずぼうっと立っていたら月夜先生から声がかかった。


「はい。」

かりんは反射的に声をあげた。


「スケーリングはよくできていた。だが時間がかかりすぎだ。次は今の半分でやって。」

「は、はい。すいません……。」


月夜先生は目を細めてそう言うと医局へと向かった。

途中、こちらを振り向きこっちに来いと手で合図をしてきた。


かりんは素直に月夜先生について医局に入った。


「さて。」

月夜先生はドカッと近くにあった椅子に座る。


「あの……なんでしょうか?」

「なんでしょうか?……今のを聞いてそれしか出てこないのか。」

「スケーリングは頑張ります。今度はタイマーつけてやりますね。」


かりんの返答に大きなため息をついた月夜先生はキリッとした瞳でかりんを見返した。


「そこではない。この医院の事だ。」

「……。」

かりんは顔を曇らせた。


「先程話していたのを聞いたと思うがわたしは人間ではない。」

「これ……私は聞いてどうすればいいんですか?」


「いや、わたしはこの医院にいてもらって構わないと思う。わたし達の事をわかった上で。」


「これ……ドッキリじゃないんですよね?」

「ドッキリとはなんだ?」

「いえ。いいです。」


月夜先生がよくわかっていなそうだったのでかりんは黙り込むことにした。


「残念ながらここで働いているスタッフは藤林さん以外皆、神だ。


たいていの神は人には見えないがわたし達は人間と共存しようと生きる神。


長年の干渉により人間に見えるようになった。」


「……はあ……。」

かりんには途方もない話であったため、なんだかやる気のない反応になってしまった。


「受付にいる助手、アヤは時神。

衛生士三人組は武神、そしてわたしと院長も神だ。」


「月夜先生と院長はなんの神様なんですか……?」

「知って得する事はない。」


「ここまで話を盛り上げておいてそこできるんですか?」

かりんは不安ながらなんの表情もない月夜先生を見つめる。


「院長は教える事はできないが……わたしならば。……わたしは人の魂を刈る死神だ……。生と死をつかさどる神とも呼ばれる……。明確な名はない。」


「し……にがみ……。」


かりんは急に恐怖を覚えた。月夜先生の瞳が赤く光っていた。


そして意識を持っていかれそうな空気がかりんを襲っていた。


「昔は生命の弱い魂を刈り取っていくのがたまらなく楽しかった。

今はそうは思わない。


……んん……藤林さんの魂はとてもきれいだ。そして君は……彼に恋をしている……。」


「え……?」

「それがこの医院からいなくなりたくない理由か……。」


かりんは冷静に分析している月夜先生を驚きの目で見つめた。


完璧に心は見透かされていた。

かりんは下を向いて頬を染めるくらいしかできなかった。


にわかに信じがたい事だが月夜先生も他のスタッフも嘘を言っていないのではと本格的に思い始めた。


「え……えっと……。」

かりんはなんか言おうとしたが何も思いつかなかった。


「こういう風にわたしは魂を読む事ができる。あくまで人のだ。


神の魂はわからない。


わたしは生と死をバランスよく保つために存在している。

藤林さんも冥銭があればいつでも魂を刈ってあげるが……。」


「冥銭って……。」


「人間は六文銭という。三途の川を渡るための金だ。なかったらなかったで別にいいが服を持ってかれるかもな。裸だ。ふふ。」

月夜先生は嫌な笑いを見せた。


「そんな……死にたくないですよ……。」

「冗談だ。」


月夜先生はそっけなく言った。かりんは全身が崩れるような感覚がした。


「え……えっと……どこまでが?」

すべて冗談であってくれと心から願った。しかしそれは叶わぬ願いだった。


「冥銭のくだりだ。」

「は……はあ……。」


かりんは月夜先生の話をある程度聞きつつ、院長にもお話を聞いてみようと思った。


神様なんて本当にいるのか……?


いや、信じていないわけではない。

だがこんな人間そっくりの目に見える存在が本当にいるのか。


「信じていないか?神が本当にいるのか。


……神には様々な種類がいるのだ。ニホンは八百万の神がいると言われている。


それ故、出生もすべてまばらだ。


本源神のような世界をつくったとされる神、龍神、雷神と言ったような自然から生まれた神や、人間から神になる者、伝説から神になった者など様々だ。


この世界では人間の見えない所で神々が動いている。」


「……。」


「神々は人間が作り出すものだ。

つまり一般の神々は人間の想像の中で動いている事になる。


故に見えない。

しかし、わたし達は人間と共に生活している神。だから人の目に映るのだ。」


「ん……んん。」

かりんは少し混乱していた。なんだかよくわからなかった。


「わからないか。まあ、いい。話は終わり。仕事に戻る。」

月夜先生が椅子から立ち上がり診療室へと歩いて行く。


「待ってください。」

「ん?」


月夜先生が医局のドアを開けようとしたところでかりんは叫んだ。

月夜先生は無表情のままこちらを向いた。


「なんで……神様が歯科医院で働いているんですか?」

「一種の罪滅ぼし。院長と理由は同じだ。」


月夜先生はそれだけ言うと医局を後にした。


……もうなんだかわからない……。

この医院にはおかしい人が多いという事なのか?


神様?心霊番組で放送されそうな話題だ……。


かりんは頭が働いていないまま仕事に戻った。

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